繋いだその手は離さない

繋いだその手は離さない


 森を進む。エースを先頭に私の前にサボ、そして後ろにルフィがいる。木から木に乗り移り澱む事無く進んでいく。だが、突然

「あっ…!?」

 私は足を滑らす。下は軽い渓谷になっていてそこに川が流れている。頭に浮かぶのは"死"の1文字。そうか。ここまでか。意識が遠のく。目を閉じる。諦めた所で、

「ウターーー!!」

 右手を掴む感覚がある。目を開けるとルフィがその腕を伸ばして私を助けてくれていた。

「大丈夫かウタ!ルフィ!しっかり握ってろよ!エース!手伝ってくれ!」

「何やってんだお前ら。ルフィ。腕かせ。」

「いや!良い!おれ1人で助けられる!いや、助けなきゃいけないんだ!」

 エースとサボの腕を振り切ってルフィは1人で、けれども丁寧に持ち上げてくれる。そのままルフィは私を優しく抱きとめてくれる。繋いだ右手は離さないままに。

「助けてくれてありがとう。ルフィ。」

「おう。絶対離さないからな。ウタ。」

 自信満々に笑顔を向けてくれる。まだわたしにも勝てないくせに。こんな時にはしっかり助けてくれる。

「コイツらまたやってるよ。」

「放っておくとすぐ2人だけの空間にはいるんだからなァ。」

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「もー。また無茶しちゃって。」

「お前の夢の邪魔をさせる訳にはいかないからな。ニシシ。」

 億超えの賞金首を複数人相手してボロボロになったルフィに膝枕をしてあげる。彼がここまで傷付いたのもわたしのライブに邪魔が入らないように頑張ってくれたからだ。ライブ後の2次会の途中だがこれくらいのご褒美はくれてやるべきだろう。

「う、歌姫様…頑張った俺らにもご褒美を…」

「仕方ないなぁ。好きな曲を歌ってあげるよ。」

 他の護衛の海兵達がご褒美を要求してくるのでリクエストを受け付ける。少しがっかりしてるみたいだが仕方がない。わたしはルフィ以外に膝枕をしてやるつもりも無いのだから。ルフィも騒ぎたいだろうしウタワールドでも2次会をやる事にしよう。護衛チームへのちょっとしたご褒美だ。

「スゥーーー」

「待ってくれ。ウタ。右手。いいか?」

 歌おうとし、息を吸い込んだ所でルフィに呼び止められる。言われるがまま右手を差し出すとルフィはそれをしっかり握り、今日1番の笑顔で言う。

「絶対に離さねェからな。ウタ。ニシシ。」

「…もう。ルフィったら。別に握ってなくても私はどこにもいかないよ。」

「それでもだ。」

 その発言に少し気恥ずかしくなる。この子供っぽい幼馴染はたまにとてつもなくカッコいいのだ。そんなこちらの気は知らず彼はウキウキしながら私の歌を待つ。ああ、彼はそんな人なのだ。

「相変わらずだな。あのお二人は。」

「クソ〜〜俺達の歌姫が〜〜お似合いだぞクソ〜〜」

「まぁ、あの間には入らないわな。ハハハハ。」

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「わりィな。ウタ。少しだけ休ませてくれ。」

 その言葉と同時に後ろから抱きつかれる。心臓の位置が重なり彼の暖かさが直に伝わる。さっきまで名だたる賞金稼ぎや海兵に追われていたのだ。その体力は限界だろう。この潜伏場所もいつまで持つかわからない。いつでも動けるように彼には少しでも休んでいて欲しかった。

「ごめんねルフィ。わたしのせいでこんな事になって。ルフィならもっと出世出来たはずなのに。」

「気にすんな。おれの人生だ。おれが"自由"に決める。海軍に入ったのも、ウタを助けたのも、アイツを殴ったのも、おれが"自由"に選んだ道だ。」

 彼はわたしに言い聞かせるように自由の部分を強調して言った。わたしに気を遣わせない為に、わたしに罪を被せないように。わたしを気遣っているのだとすぐに理解でき、そんな負担まで彼にかけてしまってる事に心が痛くなる。

「ウタ。ちょっと良いか。こっち向いてくれ。」

 彼に呼ばれ振り向く。

「何…ッ?!」

 突然唇を奪われる。驚きのあまりルフィを押しのけようとした右手はルフィに止められ、まるで恋人同士のように固く繋がれる。混乱と気恥ずかしさで顔が赤く染まる。

「___ッ!」

 やっと唇が解放され気恥ずかしさから顔を思いっきり逸らしてしまう。密着した心臓からはわたしの高鳴る鼓動が彼にもはっきり伝わってるだろう。わたしは多分、今の彼の顔を直視できないだろう。けれども彼はそんなわたしの状態など気にせず耳元で囁く。

「ぜってェ離さねェ。だから安心しろ。ウタ。」

 繋いだままの右手から熱が伝わる。涙が溢れ、先程までの罪悪感が嬉しさで塗り潰される。強くけれども優しく握られた右手からは彼の本気度が伝わってくる。

「ありがとう…る゛ふぃ゛…」

 わたしはこの日を生涯忘れる事ができないだろう。

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