編曲はエチュードと共に
4Q今日は夜の見張りの担当の日。“偉大なる航路“(グランドライン)だから油断はできないけど、今日は比較的安定してるし任せるわ。なんかあったらすぐ呼ぶこと!!!!とナミに言われている。
意識を覚醒させ、仮眠をとっていたブルックはドアを開ける。暗い空には星々がきらめいていた。その輝きは、霧に満ちた魔の海に50年もいたブルックにとっては骨身に染みるものだった。
「まぁ...私、染みる身もないんですけどね...ヨホホホ...!!!」
いつものスカルジョークを口にしつつ、デッキに出ると、海に落ちないように…と船首近くに備え付けられたらしい専用の椅子にウタが座っているのが見えた。
「そういえば今日はウタさんとの見張りでしたね…」
ウタ、“生きている人形“。
ブルックにとってウタや一味とはまだ短い付き合いであるが、ウタは戦闘ではあまり力になれないからなのか、よく一味のためにとにかく何かをしようとしていることを聞いていた。その中でも特によく話していたのは船長であるルフィで、一人目の“仲間“であり、なんとその付き合いは航海に出る以前からのもので、幼なじみとも言える存在らしい。
歌が好きで、音楽に合わせて踊ったり、自分たちの寝る間にゴキブリを退治したり、夜の食料庫にこっそりと侵入しようとする自分たちから食料を守ったり…。他にもあれこれそれこれいろいろな話を宴で聞いた。
…折角2人ですし、歌が好きなら少し深い音楽のお話とか気に入ってくれますかね…?と、話題について思考していたら、いつの間にかウタがいる船首に着いていた。
「先に見張っていてくれていたんですね。今日はいつもより少し暗いですが…ほ」
「キィっ…!!」
星がきれいですねという前に、ウタが突然話を遮り、何かを渡そうとしてきていた。
「...少しお借りしますね」
腰を低くし、椅子に立っているウタと目線を合わせ、布の手で大事そうに持っていたものを手に取る。
紙の大きさはバラつきがあるし、ところどころ裂けてしまっていてボロボロだったが、そこには確かに見慣れた五線譜、その上には見たことも、奏でたことも、歌ったこともない全く知らないメロディーが書かれていた。
暗い環境で、書かれている音符も歌詞のような文字も汚く、判読が難しい状態ではあったが、剣士である以前に音楽家であるブルックにとって、ウタが渡してきたものが楽譜だと理解するのに時間はかからなかった。
「これは…楽譜ですか…?」
「……」
問いかけを返すも返事は帰ってこない。だが、表情も何も見えたりしないはずの、ウタから確かな“覚悟”を感じた。
楽譜を読みながら、ブルックは思い返す。
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
「なんて立派なお墓…!!!」
「いーのよいーのよこれくらい何でもねェ うははははは」
「花 おれ摘んできた!!」
一味の協力、死闘の末、影を取り戻し、仲間にしてもらってから二日後、フランキーとウソップに船に積んであった仲間たちの墓をスリラーバークに作ってもらった。
…本当に立派なお墓だ。“正面”からラブーンと再会するために、音貝(トーンダイアル)に録音された我々が愛したこの唄を届けるために、新しい仲間たちと冒険に出ます…。見守っていてください。離れるのは寂しいですが、せめてもの手向けに…
思いを胸にヴァイオリンを取りだす。
自分を歓迎してくれた宴を思い出しながら、やはりビンクスの酒ですかね…と演奏する曲を考えていた最中、ふと疑問が生じた。仲間に入ることを喜んでくれたあの日。もう一人の音楽家は踊ったり、時々キレイな“声“を出してはいたが“歌う”ことまではしなかった。
「あ。そういえばフランキーさん」
「ん?なんだ?」
「あの…ウタさんのことなんですけど…。ウタさんの“声“って…」
「“声ェ“?あァ…あのオルゴールのことか」
「あのオルゴール…どうにかして…ウタさんに歌わせることはできないんでしょうか…?」
「あァ…あれはな…どうしようもねェんだ」
「どうしようもないとは…?」
「オレは船大工だからよ あんまり詳しくはねェんだが…オルゴールの仕組みぐらいは理解しているつもりだった」
「あのオルゴールは…”壊れてねェ”んだ」
「………なるほど」
続けて疑問を言葉にする。
「でもウタさんは“声”を発していますよね…」
「あァ…そこも含めて全くもって原理がわからねェんだ ピンがないってのによォ… それでいて元に戻すとしっかり音が鳴るときた。」
「まァ…“生きている人形“自体 今まで聞いたこともなかった 船旅を続けてればアイツの何かが…故郷とかも分かんのかも知れねェ」
「…そうですね」
「おれの薬が人形にも効くならよかったんだけどな…」
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
目覚めたまま見る夢 決して醒めはしない
水平線の彼方 その影に手を振るよ
いつまでも あなたへ 届くように 歌うわ
大きく広げた帆が 纏う 青い風になれ
ただひとつの夢 誰も奪えない
私が消え去っても 歌は響き続ける
どこまでも あなたへ 届くように 歌うわ
大海原を駆ける 新しい風になれ
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
………
―――どうすればいいのだろうか
思い返すのに要した時間はほんの束の間だっただろう。それでも、冷たい夜風は容赦なく体を冷やす。こちらの都合など、一切考えてくれなかった。
……確信まで至ったわけではない。でも、思考に刺さるこの鋭い針から伝わる痛みは止まらない。
―――突きつけるのか
過ぎ去る時間、一秒、十秒、一分、時間は濁流のように過ぎていく。選択が迫られる。思考が鈍る。
―――自分と同じ苦しみを?
記憶というフィルムに刻まれた像は否応なしに自らを囲み、阻む。
―――あの“少女”に?
でも、それでも―――――――――――――
自らを阻む像を一瞬にして切り刻む。
ブルックは、心を決めた。
「腹を割って…お話しましょう。まぁ腹なんてないですがね...」
「ウタさん。あなたがその楽譜を渡すというのは相当な“覚悟”なのでしょう。
でも受け取ることはできません…!!」
「ギ…………………」
「ちょっと!!だけ!!待っててください!!!!」
できる限りの最高速で、船内においてあった練習曲の楽譜とピアノを引っ張り出す。
「よいしょっと…」
ゴン!!!!
「あ「ギィッ!?」」
速さに気を取られていて、ピアノを落としてしまった。
「おっと失礼 ヨホホ」
「さて…ウタさん 今から“ピアノの音“を出しますから…同じ音で発声してみてください」
「…………」
ウタは明らかに混乱している雰囲気だったが、少し間を置いて頷いてくれた。
~♪~♪~♪~♪~♪~♪~♪♪♪~♪♪~♪
「~♪~♪~♪~♪~♪~♪~………...~♪」
やはり…
「…ウタさん。あなたは気づいてないかもしれませんが… あなたのオルゴールの音…綺麗になっているんです 少しずつ…本当に少しずつではありますが…」
「…!!」
「…きっと貴女は…歌える日が…来ます」
「だから…そんな暗い顔しないでください 私が“消え去っても歌は響き続ける”なんて…そんなこと言わないでください…!!!!」
あなたは変化している、あなたには意思がある。あなたは確かに“人間”だ。姿形の問題ではない。魂が確かに、眩い光を放っているのだ。
何もおかしくはないのです。こんな姿の私を“仲間”と、音楽家としてくれたあの日を思い浮かべながら、ウタに伝える。
「ラブーンが元気だとわかった、影も戻った、魔の海域も抜けた、音貝がラブーンに届ける為の唄になった、50年の月日、辛くない日などなかった、希望なんて正直見えもしなかった…、でもねウタさん 私…!!生きててよかった…本当に本当に生きててよかったんです…!!!!」
「きっと多くのものを失ったのでしょう」
「きっと...辛かったのでしょう」
----きっともう大切な物を失いたくないのでしょう。
だからこそ伝えなくては、その“覚悟“は言ってしまえば逃避だ。逃げるなとは言わない。止まったっていい。それでも、それでも‼ 例えその道が厳しい道だったとしても!!進まなければならない事を伝えなければ…!!
「何があったのかまではわかりませんが...命まで捨てようとするのは流石に見ていられません...!!」
「きぃぃ…きぃぃぃぃぃ…!!きぃぃ……!!」
溢れ出る感情を搾り出したような声と共にウタが自らに飛び込んでくる。
布の体を優しく受け止め、ウタの頭をまるで少女に教を説く先生のようになでる。
「貴女は“人間”、“人間”はひとりじゃ生きていけないんです… ウタさん 貴女に残っているものは何ですか…!!」
「き...きききぎ...いぎきぃぃぃぃ…!!!!」
だから…その楽譜は…あなたが持っておくべきです。
その時が来た時、それを伝えたい人がいるでしょう?
----それに
----“人間”どうこう以前に、彼女は“仲間“だ
----私だけじゃなく、一味の皆さんもいる
----一人じゃないんですから
----きっと、きっと、乗り越えられる
演奏技術を習得するために作られた練習曲。練習用ではあるものの、芸術的要素の高い楽曲まで幅広い段階がある。
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
スレ消費させてしまうのは申し訳ないので、この場を借ります。
まずはお読みいただきありがとうございました…!!
これが本来書く予定だった二本のうち一本です。普段創作などをしない身で、初作品。
拙い文章になるだろうとは思いましたが、それ以上にブルックとウタの絡みが書きたい意思が上回って、課題などをこなしつつ、趣味のゲームの時間も削りながら書いたのがこの作品です。
細かい描写にはとりあえず触れませんが、タイトルの編曲はもともと、このSS内に組み込んであったダルセーニョ、そしてセーニョのループから抜けるには編曲するしかないだろうというのと、”心を編曲”するといった意味で付けました。
エチュードは最後に書いた通り、練習曲です。音階の確認をしてから、少し音を組み合わせる程度の難易度できっとブルックが”色々と考えて”作曲したのでしょう。
(この辺の意味合いも違ったらゴメンナサイ 大目に見てくれるとありがたいです)
分裂してベガパンク状態のものも含め、もう何個か作成途中のものとネタがありますので、作成途中のものはできれば年内目指して、投下できればなと考えています。
とりあえず、次の作品ができたらまたスレ覗きに行きますので、感想とか色々くれると本当にうれしいです!!
改めてにはなりますが、拙い文章だったにも関わらず、読んでいただきありがとうございました!!