続・あいのこ
己の不注意のために、廊下でぶつかってしまったのは、まぁ、こちらが悪い。
その相手が宿敵というのは、巡り合わせが悪かったのだと思う。
ぶつかった際に頭に乗せられた花冠が落ちたのは仕方ないし、その花冠が宿敵の靴裏に踏み潰されたのは不幸な事故だろう。
ただ、花冠を踏み躙ったことよりも、ぶつかった衝撃で尻餅をついたこちらを認めて不快そうな顔をしたのはいただけない。
瞬間的に湧き上がった怒りよりも重たい悲しみが、胸の奥から噴き上げて心を引き裂いた。
「あああアァああああぁぁああアあぁぁぁぁぁあああああアッッッッ」
喉から溢れたのは悲しみと憎しみの悲鳴で、ドゥリーヨダナはその瞬間、突き飛ばされて奥へと追いやられた。
ぼろぼろと、瞳から涙が落ちる。
「は? おい、どうした、おまえ」
「俺たち〔これ〕のかんむり……!」
驚いて問うたビーマが体を前に乗り出し、その拍子に花冠が更に踏み躙られる。
きれいな花が壊れて、潰れて、廊下の白に花の汁が擦り付けられる。
再び、ドゥリーヨダナの──スヨーダナの意識が表層に現れたサーヴァントの悲鳴が上がった。
「ひどい! ひどい!! おとうさまが俺たち〔これ〕のためにあんでくれたのにっ」
「おまえ、スヨーダナか?」
花冠とお父様というキーワードにビーマが気付いて問うが、幼子は正当な悲しみに泣き喚いて腕を振り回すばかり。
ぎゃぁぎゃぁと怪物が泣く響きで嘆き、スヨーダナはビーマを突き飛ばすと見るも無惨な姿となってしまった花冠を大事に抱き締めた。
「……スヨーダナ?」
カルデア中に響き渡る泣き声に慌てて駆け付けたアルジュナ・オルタが名を呼ぶと、幼子は父の姿を見て一度しゃくりあげ、更に火がついたように泣き出した。
(ただし姿はずっと髭面のおっさんである)
(主導権を取り戻した素ヨダナ、何とか分離手術ができないものか技術顧問に頼み込む)