+絵心

+絵心


「恋…人…?」

「いや初めて自我が芽生えたロボットか」

玲王の呑気なツッコミに構っている場合ではない。こんな疑問を抱いたまま練習に戻るなんてまっぴらごめんだ、ちゃんと聞き出したら一応結論だけでもキングにも伝えてあげよう。

「えっ一緒に暮らしてんの?こいつどこの誰?」

「いつから?サッカー上手いって何?」

「どこで会ったんです?玲王くんはなんでこんな状況飲み込んでるんですか」

畳み掛ける質問に気圧されて凪が一歩下がる。しかし耳も記憶力も悪くないためすべて覚えたらしい。ひとつひとつ答えようと口を開く。

「どこの誰かは知らないけど、烏は知ってるみたいだった。有名なサッカー選手だって」

「えっそうなんだ?へー知らなかったわ」

これには玲王も驚いた顔を浮かべる。

「うーん……なんかめんどくさくなってきたな…。玲王、もう帰らない?」

「まてまてまて!!」

潔が慌てて声を上げる。まだ気になることが山積みだ、このまま放り出されてはたまらない。玲王が呆れたように笑って凪に目を向ける。

「凪〜、さすがにこのタイミングはだめだろ。とりあえず質問には答えてやれ」

「ええ…。うーんと、俺高校からは寮に入ってて一人暮らしなんだけど」

うんうん。つまり二人暮らしなことになるが、今は話の流れを止めないでおこう。

「誰とも話をしないから、話相手として植物を買おうと思って花屋に行ったら、いたんだよね、ユッキーが」

「おい」

「で、買った」

「おいって馬鹿」

千切の制止を無視して凪は話し終えてしまう。ひとつ答えがくるとふたつ疑問が湧いてくるシステムか?

さすがの潔も言葉に詰まる。恋人、ではない、らしい。ちょっとよくわからないが。

異世界の話なのか?二子も混乱しているらしく、隠れて見えない目が困惑を浮かべた。

そこへ、5人の耳に飛び込んできたのは意外な声だった。

『やーやー才能の原石共。いつまでくっちゃべってるんだ、もうお前ら以外にトレーニングルームには誰もいないぞ?』

「えっ!?あっほんとだ!」

思考が宇宙を漂ってる間に、ちらほらいた利用者は姿を消してしまったらしい。

あたりを見回す彼らを見下ろして、画面越しの絵心が閉じていた口を開く。

『今の話を聞いて混乱するのも無理はない。放っておこうかと思ったが、余計なノイズになると困るので端的に説明しておこう』

絵心も把握していてしかも若干の理解を示しているだと…!?いよいよ異世界にやってきてしまったのかもしれない。

『えー、今聞いた通り凪誠士郎は雪宮剣優という青年を自宅でサボテンの代わりに飼っているが、それ以上でもそれ以下でもない。凪誠士郎がブルーロックにいる当面の間、雪宮は御影玲王の使用人のところで世話になっているそうだ』

「あ!?」

「全然わからん!」

『話は以上。そろそろ夕飯の時間なので各自自分の棟に戻るように』

「待ってください絵心さん!」

ブツッ

無慈悲にも通信が切れる。説明を聞いて更に謎が加速するってどういうことだろう。

「ほらほら、潔も二子も帰るぞ」

「あーキツイトレーニングしなくてすんだ〜」

玲王に促され廊下を歩きながら、やっぱり天才ってこのくらいわけわかんなくないとだめなのか…?と、三人はそれぞれ頭を悩ませるのだった。

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