結婚をしてから人生が変わった

結婚をしてから人生が変わった


 初めて妻に触れた夜のことは覚えていないが、お前はとても可愛かったと最近になって教えられた。

「平子隊長あなたはかわいい、心底思っているよ、私が守ってやろう、側にいなさい、てずっと喋っとった。もうこの時点でオモロイやろ?そいでいて俺には全く触ろうとせぇへん、しまいに頼みます平子真子ってな?難儀な奴やなと。まァだから俺以外と深酒せん方がええでお前、あんま可愛いトコ見せんな」

 おんな上司が酔った部下に手を出した。お前みたいな奴は女に好き放題されたなんて誰にも話さへんと思ったんや。悪かった、許せる訳ないな。お前がその気なら訴えてくれ。

 女が頭を下げるのは肉食獣。獣に隙を見せその後何度も貪られ遂には子まで成した妻は今の僕をなんだと思っているのだろう。

 人間、父親、夫、そのいずれにも該当しない、いつか手酷くあなたと世界を裏切る男だろうか。

 どうか僕を平子真子の夫以外の道は既に無しと騙しきってくれ、僕なりの誠意と優しさであなたと子を想おう。

 あなたは後ろを振り向き、惣右介は可愛いところもある平子真子の夫だと騙されてくれないだろうか。


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 妻の2度目の出産が近づいたある日、遂に庭を整えることに決めた。訪問客など浦原喜助以外ないに等しい我が家なので長年放置していたが、それなりの景色と遊具があれば妻はともかく子ども達は喜ぶのではないか、そう考えたのだ。

 色々な研究はしてきたが、庭いじりは行ったことがない。それでも娘と共に庭の寸法を図り、木の苗や明るい花の種を選んで買いこみ、作業を始めることにしたのだ。

 必要と思しき道具は蔵の中に置かれていた。柄の長いシャベルとスコップを手に、娘と共にいざ庭へと向かう。まずは雑草の除去から。草花を抜き取りながらも、休日に一体何をやっているのかと回想する。

 ここへ来たのはいつかの夏。当時僕の身代わりをしていた男が妻に妊娠を告げられ、責任を取ると言った後この家を探し出した。彼の考えなど想像に難くないが、僕としては平子一派に加え、腹の子も何らかの実験台に利用できると思った事がこの生活を始める理由の一つだった。そのはずだったというのに。

 娘はただの子どもだ。浦原喜助に懐き、覚えたての知識を家族に披露してくれる子ども。かと思えば突っ走った行動をとる油断ならない子ども。成長するにつれ、妻に似た印象的な笑顔をのぞかせるようになった子ども。

 流石あなたの子ですねと言えば、拗ね方と鼻っ柱の強いところはお前そっくりやと笑われる僕の娘。あの子が、そして生まれてくる子がこの家にいる限り僕は死神、夫、父親以外の身動きはとれない。

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 朝の名残を残した空は、これからの気温上昇を予測させる色をしている。少し手入れをするだけでも、滴るような汗が噴き出てきて止まらなかった。

 抜いた残骸を一つにまとめて立ち上がれば、鍛えているはずの腰が軋みため息をつく。これでは娘にお父さんじゃない、おじさんやな、と言われてしまうかもしれない。そんなくだらないことを想像し、1人苦笑する。

 実際、妻はともかく娘がそのように呼ぶことがないと知った上での妄想だった。誰かが娘に教えない限り、こういった物言いは当分覚えないだろう。

 そういえば、あの子はどこへ行ったのか。いつまで経っても終わらんの、お水飲んでくる!と言い家に戻ったところまでは覚えている。縁側には並々と水の入ったコップが置かれていた。

 開け放してあった居間を覗く。机の上には飲み掛けの麦茶、床には寝転がっていたのだろう、敷布団があるがもぬけの殻だ。ぐしゃぐしゃの布団の中には『ひよ里特製お手玉』も入っており、また苦笑する。使い終わったものは直すよう教えているというのに。

 寝室へ向かう。ここにいなければ、あとは寝室か蔵くらいしか候補がない。部屋数もさほど多くない平凡な家だ。襖をゆっくりと開き、布団を見下ろす。

 そこには探していた宝箱が昏々と眠っていた。向日葵よりも濃く、夕焼けより淡い髪を梳く。いささかの躊躇がないわけでもなかったが、細い肩に手をかけながら、ゆっくりと揺さぶる。

「おーい、清良、きぃさん。そろそろお昼の時間だよ。おにぎりを握るんじゃなかったかい?」

 睫が何度か震えて、瞳が覗く。ゆっくりと黒色の視線が僕を捉えると、

「ううん、お父さんが全部したいんやって」

 再び瞼を落とす。

 姿形は母親、気性は父親。寝穢いのは一体誰に似たのだろうか?



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藍染惣右介:父親。副隊長。ドスケベ。妻子に脳を焼かれ現実を生きる事を選択。野望、夢、人生を諦めたつもりは無いが夫、父親をひたすらもがいて葛藤している。この日は休日

平子真子:母親。隊長。スケベ。藍染に乗っかられたが土下座した。夫を信じる気は多少出てきたが浦原に頼み家政婦にウルキオラの左目の様な装置を仕込んで貰っている。この日は仕事

藍染清良:娘ちゃん。きよら。父母共に死神任務が忙しいため、浦原が用意した家政婦と共に成長しながら暮らしている。父の為に飲み水を縁側に置いたが飲まれた形跡がない為「成程」と平子♀のギャグ顔で藍染仕草(スンッ)を行う

浦原喜助:娘の許嫁。浦原より弱い男に娘はやらん。諸々研究は進んでおり、藍染平子♀家族との仲も深まっている。庭に霊圧利用遊具を設置する(させられる)

東仙要:娘が輿入れすれば活動を再開するという言葉を信じているが夫人の第二子懐妊で道のりが険しいと感じている

藍染惣右介(ハゲ):藍染の平子♀への懸想と半ば信仰じみた執着に気づいており、妊娠を告げられた直後結婚を申し込み、副隊長の仕事をしながら婚姻に必要な書類手続き、新居等全て手配した。使用人として生後間もない娘の世話をしていたが、何者かに殺害される

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