結わう絆(5)

結わう絆(5)


 深夜近くになって、ようやく品田家の周りから人気がなくなった。と、あまねから菓彩家に連絡が届いた。

 しかし朝になればまた人が戻ってくるかもしれないという懸念から、菓彩家一同と相談の結果、ゆみはこの隙に自宅へ戻ることになった。

 ゆみを迎えに行くと言うあまねに、兄であるゆあんは家から出ないように伝え、みつきと共に車でゆみを自宅へと送り届けてくれた。

 ゆみが玄関を潜ると、出迎えた母にすぐに抱きしめられた。


「ゆみ、不安な思いをさせてしまってすまなかった」

「ママ…」


 母の腕に抱かれてようやく心の底から安堵を感じたが、


「おかえり、ゆみ」


 傍らからかけられた低い声に、ゆみは思わず体を強張らせた。

 母にしがみついたまま、ゆみは声の主である父……品田拓海に目を向けた。

 整った顔立ちは、ゆあんやみつきのようなアイドル並みの美男子とは違うが、女なら魅力を感じずには居られない、そんな色香を確かに持っていた。

 ただ、それは今のゆみにとってあまりにも生々し過ぎた。

 あまねは自分の腕の中で娘が怯えていることに気がついた。それが夫が声をかけたタイミングだったことで、娘が何に怯えたのか、その理由も直感的に悟ってしまった。

 その隣で、夫が娘の様子を心配して覗き込もうとしてきたので、あまねは咄嗟に目でそれを制した。


「あまね……?」


 拓海は止められた理由が理解できなかったものの、


「……わかった」


 妻を信じて、その場はそれ以上何も言わずに大人しく引き下がった。

 あまねは夫に申し訳なさと感謝の気持ちを目で伝えながら、娘の頭を撫でた。


「ゆみ、今夜はもう眠るんだ。朝になったら、三人で話し合いをしよう。詳しいこともそこで説明する」


 母が頭を撫でながら、ゆっくりとした落ち着いた声でそう言ってくれたので、ゆみも大人しく頷いた。


「おやすみなさい、ママ………パパ」


 おやすみ、と両親が答えるより先に、ゆみは背を向けて自室へと小走りに駆け込んだ。


〜〜〜


 ベッドで横になって目を閉じたのも束の間、ゆみは何度も寝返りを打った。

 暗闇の中で目を閉じればすぐに得体の知れない不安が胸を締め付け、精神的疲労で朦朧とした頭の中に、拓海が知らない女と腕を組んで、背を向けて遠ざかっていく妄想が、振り払っても、振り払っても、何度だって忍び込んでくる。

 結局、一時間経っても眠ることができず、ゆみは枕を抱えて部屋を出た。


「ママ…」


 幼児の頃によくそうしてもらったように、あまねに寄り添って欲しかった。夫婦の寝室には当然父も居るが、母の腕に抱かれて眠れるなら、父の存在も素直に受け入れることができる気がした。

 二階の自室から一階に降りたとき、廊下の先に父の背中を見つけた。


「ッ!?」


 思わず息を呑み、体がすくんだ。そのまま凍りついたように息を潜めるゆみの視界の先で、父は背を向けたままスマホを耳に当て、誰かと通話をしていた。


「……ああ、例の写真はあの日のときに撮られたものだと思う。星奈も覚えてないか」


 漏れ聞こえた父の言葉の中に、確かに「星奈」の名が聴こえた。父の通話の相手は、星奈ひかるだとゆみは悟った。


「そうだよ。二人きりになった時の、あのタイミングだ。まさかパパラッチみたいな奴に狙われていたなんて思いもしなかった。……そうだな、今度から気をつけるよ」


 断片的に聴こえる父の言葉に、ゆみは全身から血の気が引いていくのを感じていた。

 父は、やっぱりあの写真のとおり星奈ひかると二人きりで逢瀬を重ねていたんだ。そう思うと、全身の震えが止まらなかった。

 父への愛情が音を立てて崩れていくのを感じながら、しかしゆみはその場から立ち去ることができなかった。


「わかった。今後のことについてはそっちの関係者も含めてちゃんと話し合おう。下手に誤魔化すと余計に拗れそうだ。……こんな夜中にすまなかったな。じゃあ、また」


 父が通話を終えて、振り返った。


「ゆみ…ッ!?」


 娘がそこで立ち尽くしていたなんて夢にも思わず、拓海が驚きに肩を震わせた。

 ゆみには、それが後ろめたいが故の反応に見えてしまった。疑いが確信に変わり、父への戸惑いが怒りへと変わった。


「最低……!!」

「ゆみ、どうして」


 狼狽する父に、ゆみは抱えていた枕を投げつけた。


「パパの裏切り者! パパはあたしもママも裏切ったんだ!」


 泣きじゃくりながら怒りをぶつけてくる娘に拓海は一瞬言葉を失いながらも、なんとか娘を宥めようと努めた。


「落ち着け、落ち着くんだゆみ……何を勘違いしているか知らないが……」

「近づかないで!」


 ゆみは父に背を向けて玄関へと駆け出した。もうこんな家に居たくない。怒りと気持ち悪さに気持ちがぐちゃぐちゃになったまま、爪先に靴を引っ掛けて外へと飛び出した。


「ゆみ!?」


 開け放したまま背にした玄関から、今度は母の声がしたが、ゆみは振り返ることなく走り続けた。どこに行く宛もない、ただ父から逃げたかった。

 追って来るだろう父と母を撒くために通りの角を出鱈目に曲がり、公園のフェンスを乗り越えてその敷地を横切り、別の通りへと逃げ込む。実母ゆい譲りの類稀な運動神経は、こんな時でもその才能を全力で発揮していた。

 もう十数分は夜の町を走っただろうか。家からすっかり離れた暗い通りで足を緩めたゆみの側に、一台の車が寄せてきて停車した。


「君、もしかして品田拓海の娘さん?」


 車の運転席から顔を出したのは、見知らぬ男だった。LEDの強い白色ライトを点けたスマホをゆみに向け、男は矢継ぎ早に問いかけてきた。


「品田ゆみさんだよね。品田拓海の娘の、そうでしょ。こんな夜に散歩? そうじゃないよね、走ってたよね? ちょっと理由教えてよ」

「誰……!?」


 馴れ馴れしく話しかけてくる男に、ゆみは思わず身構えた。が、その直後にスマホのカメラアプリが作動し、フラッシュとともにシャッター音が鳴った。男がいきなり写真を撮ったのだ。


「なッ……何してるの!?」


 突然写真を撮られたことに憤りを覚えると共に恐怖も覚えたゆみは、咄嗟に車から離れようと走った。

 すると男はすぐに車から降りて、スマホを向けながら追いかけてきた。


「君のお父さん、星奈ひかると不倫してるよね。もしかしてそれが理由で家出した? ねえ、お父さんどんな男なの教えてよ」

「来ないで!」


 咄嗟に脇道を曲がった。けれどそれは拙い選択だった。

 脇道の先は行き止まりになっていた。

 壁の前で立ち止まるゆみを、スマホのライトが照らし上げた。


「ちょっと話を聞かせて欲しいだけだよ。ちょっとだけだよ」


 男がゆっくりと迫ってくる。その手にはスマホが握られたままで、そのレンズはずっとゆみを向いていた。


「今さ、生配信中なんだよ。五千人のフォロワーが注目してんの。わかる? みんな君んちのこと知りたがってる。だからせめて名前だけでも教えてよ。品田拓海の娘でしょ、な? そうだよな?」


 男が少しずつ迫ってきて、ゆみは恐怖から後ずさりをしたものの、すぐに壁へと背中が当たった。逃げ場のない状況に追い詰められた。


「じゃあ俺が質問するから、それに頷くだけでいいから、それぐらいできるだろ? な?」


 嫌だ、と拒絶の意思を込めて首を横に振った。


「はぁ!? できねえって意味わかんね! 五千人見てんだぞ、配信舐めてんのか!?」


 突然態度を豹変させた男の手がゆみの肩を掴んだ。思わず目をつぶったゆみだったが、


「っ!?」


 次の瞬間、男の悲鳴が夜闇に響き渡った。同時に、肩を掴んでいた手が離れたのを察して目を開けると、そこに見慣れた女の姿があった。


「娘に手を出したんだ。覚悟してもらおうか」


 母あまねが、男の手を背中側に捻り上げていた。男の手からスマホが落ち、足元のコンクリー上で跳ね返った。


「痛え……ッ! あだだだ、折れるぅうッ!! 警察呼ぶぞ!? 暴行で訴えるからな!?」

「構わんぞ。だがお前がウチの娘を追いかけ回して手を出そうとした様子を自分で生配信していたのを忘れるな」

「あ…!?」


 母が手を離すと、男は慌ててスマホを拾い上げ、その場から逃げようとした。

 だが、その前に立ち塞がった新たな影があった。

 男はギョッとして立ち止まったが、すぐにその人物が誰であるか気がついて、スマホを構えた。

 ライトに照らされて、そこに拓海が立っていた。


「狙っていたのは、俺なんだろう?」


 ライトの灯りに目を逸らすことなく、そのカメラを睨みつけながら、拓海は言った。

 その眼光に気圧され、男は思わず後ずさった。


「動画投稿だか生配信だか知らないが、お前たちが知りたいなら教えてやる。星奈ひかるは、大切な友人だ!」


 父は、男と、男が構えるカメラの向こうにいるものたちに向けて真っ向から言い放った。


「星奈ひかるは、俺の妻と、そして前の妻の、大切な友人だ。俺たちの関係に、隠し立てするようなことも、恥じることも、なに一つありはしない!」

「じゃ、じゃあ……」


 男は震えながら、消え入りそうな声でこう訊いた。


「……あ、あの写真は?」

「前の妻が亡くなったとき、泣いてくれた。その時の写真だ」

「へ?」


 間の抜けた声を上げた男に、拓海は怒りを必死に押し殺しながら言った。


「ゆいが……前の妻が死んだその日に、ウチに駆けつけて……最期を看取ることもできずに泣き崩れた、その日のことを盗み撮られた写真だ。今から十四年も前のことを今さら掘り返して不倫だ何だとも騒ぎ立てた挙句、よくも娘を追い回してくれたな……!」

「ひっ……」


 男がさらに後ずさったが、その背中が壁に当たった。今度は男が逆に袋小路に追い詰められていた。

 カメラを向けた先には拓海と、そして背にゆみを庇いながらあまねも並び立っている。

 男は品田一家にカメラを向けながら、スマホ画面に映る生配信へのコメントに目を向けた。男にとって拓海が語った真相などどうでも良かった。ことの真相よりも、このアクシデントを配信することで動画視聴者が増えて収入がより増えることの方が重要だった。

 落とした衝撃でひび割れた画面の中、彼の動画視聴者は目論見通り増え続けていたが……

 ……滝のように流れるコメントに、男は青ざめた。そのコメントの大半が男の行為が悪質だと非難するものだった。

 炎上だ。中には警察にもう通報したというコメントも散見されていた。

 男は咄嗟にスマホのカメラを切り、配信を停止した。


「す、すんません、すんませんすんません!」


 男は慌ててスマホをポケットに収めると謝罪を繰り返しながら品田一家の脇を抜けて、車に乗り込み逃げるように立ち去って行った。


〜〜〜


 家族三人で家に帰りつくと、父と母は写真についてゆみに説明してくれた。


「モザイクをかけてわざとわかりづらくされていたから、念の為にあの時の関係者……ひかるや、あの日に駆けつけてくれたみんなに連絡して確認を取っていたんだ。ゆみにはその後で説明しようと思ったが、裏目に出てしまったな」


 母はため息混じりに呟きながら、自分のスマホで例の写真……どこかの建物の前で父と星奈ひかるが寄り添っている写真を表示させ、ゆみの前に差し出した。

 ゆみは目を逸らしたかったが、母から、


「背景をよく見るんだ」


 そう言われて、モザイクがかけられたその背景に目を凝らした。


「……あれ?」


 どこか見覚えがある気がした。そう、モザイクが届いていない画面の隅の方に写っている、壁の一部。これはもしかして……

 母の隣で、父が頷いた。

「これは、福あんだよ。お客さん用の正面玄関だ」

「あ……あー!?」


 確かにそうだ。間違いない。これは見慣れたもう一つの我が家・ゲストハウス福あんの玄関先だった。

 父は続けた。


「これは十四年前、ゆいが亡くなった通夜の時の写真だよ。たくさんの友人たちが訪れてくれた。星奈もその一人でな……特に彼女は当時外国に居たんだが、連絡を受けてすぐ駆けつけてくれたんだ……私服なのは、空港から真っ直ぐウチに来てくれたからだよ」


 通夜には星奈ひかるの他に多くの友人たちが集まり、皆その早すぎる別れを悲しんでいた。

 ひかるは一度外に出て、そこで泣いていたところを拓海が偶然見つけて、泣く彼女に肩を貸したのだと言う。


「泣いていたのは、ひかるだけではないさ」


 と母も当時を思い出して言った。


「私も、他のみんなも泣いていた。互いに身を寄せ合って、悲しみに暮れていた。パパ…拓海さんに縋って泣いていたのも一人や二人じゃない」

「星奈に肩を貸していたのは確かほんの十数秒だけだったはずだ。何度も言うが、あくまで友人としてだからな?」

「う、うん…」


 少し戸惑ったものの、ゆみは父を信じる気持ちになっていた。


「事情はわかったよ。パパ、最低なんて言ってごめんなさい。それと、迷惑かけてごめんなさい」

「気にするな。誤解させてしまったパパたちにも非はあるんだ。お前を不安にさせちまって、俺こそすまなかった」

「パパ……」


 同じく頭を下げてくれた父の姿に、ゆみは今度こそ心からの信頼と愛情を取り戻した。

 ただ疑問もある。


「でも、なんでそれを写真に撮られちゃったの? 十四年前って、星奈さんまだ宇宙飛行士じゃない一般人だったんでしょ?」

「確かにそうだが、そうじゃない人もあの時一緒に居たんだよ」

「そうじゃない人?」


ゆみの疑問に、母が答えた。


「香久夜まどかだ。ひかるの仲間……ひかるとは中学時代からずっと交友のある友人だよ」


 ゆみは、まどかという名前には覚えは無いが、香久夜の苗字には聴き覚えがあった。


「香久夜って、まさか総理大臣の!?」


 その言葉に父が頷いた。


「そう、現総理大臣・香久夜 冬貴氏のひとり娘だ。当時はまだ総理大臣じゃなかったが、既に有力な政治家だった。その娘だから、マスコミに色々とつけ回されて苦労してたみたいでな。星奈と俺はそれに巻き込まれたようだ」

「まどかは今、内閣府の高官として宇宙開発に携わっている。ひかるとは宇宙開発の重要なパートナーでもあるんだ」


 現職総理大臣の娘と公私共に親しいパートナーの星奈ひかるがスキャンダルを起こせば、現政権への揺さぶりになる。それを狙って、何者かが十四年前の写真を掘り出し、それを誤解を招きやすいように加工し、虚偽の情報を付随してネット上に流布したフェイクニュース。

 それがこの騒動の真相だった。


「星奈を通じて香久夜氏にも写真のことは伝えてある。近いうちにこれがフェイクニュースだと世間に発表されるそうだ……」


 父はそう言いながら、やりきれない感情をその顔に浮かべた。

 いくら世間への誤解を解くためとはいえ、亡くなった妻の思い出を曝け出すような真似をしなければならなくなったことに、複雑な思いがあった。

 だがそもそも、こんな騒動になったきっかけは……


「すまなかった、二人とも。今回の騒動の責任は俺にある」


 拓海は居住まいを正して、あまねとゆみに向かって深く頭を下げた。


「パパ?」

「この写真に目をつけられたのは、俺が星奈との対談で調子に乗ったせいだ。カメラマンに煽てられて…その……星奈を抱いちまって」


 父の言葉に、すぐに母が割り込んで訂正した。


「お姫様抱っこな? 誤解を招くような言い方をしないでくれ、パパ」

「うぇ!? あ、そうか、す、すまん。そのお姫様抱っこなんかしたせいで、変にネットで盛り上がって、店にも迷惑かけちまったし……」


 話しながら、父はどんどん平身平頭になって、その言葉もしどろもどろになっていった。


(さっきはあんなにカッコよかったのに……)


 ゆみは配信者の前に立ちはだかった父の姿と、今の姿を思い比べた。


(でも、どっちのパパも好き)


 今は素直にそう思えた。


「ねえパパ」

「ん?」

「あたし、腹ペコった!」

「は?」


 間の抜けた表情を浮かべた父に、ゆみは、にししっと笑った。


「いっぱい心配かけられたから、お詫びに美味しい朝ごはん作って♪」


 時刻はもうすでに朝の四時近く。拓海は時計を見て、それからあまねに目を向けた。


「そうだな。パパの反省の印に豪華な朝ごはんが食べたいな」


 妻と娘から笑みを向けられ、拓海は身を起こして、腕まくりをした。


「よおし、じゃあ俺の全力を尽くして家族の信頼を取り戻すとしよう!」

「わーい、パパ大好き💕」

「今日は和食の気分だ。頼むぞ、パパ」

「任せろ! 最高のおむすびを握ってやるからな」


 立ち上がり、台所へ行く途中、拓海はふと居間の片隅に目を向けた。

 そこの戸棚に飾られた二枚の写真……和実よねと、そして前妻・ゆいの笑顔がそこにあった。

 彼女たちにもお詫びにおむすびを握らなきゃな。そう考えながら、拓海はエプロンをかけてキッチンに立つ。

 その背中を、ゆみは母と共に目を細めて眺めていた。


「あ、そうだ。ママにも訊きたいことがあったんだった」

「なんだ?」

「ママの部屋でこの写真を見つけた」


 中高生ぐらいの拓海と、ひかるが腕を組んだあの写真を見せると、母が、


「げ」


 とうめいた。


「ママ?」

「あー、これはな……」


 あまねは気まずそうな顔で目を逸らしながら言った。


「この写真を撮ったのは、私なんだ」

「どゆこと?」

「当時のパパはな、ゆいママのことが大好きだったのに告白もできないヘタレでな……それにゆいも拓海さんへの気持ちに全然無自覚で、それはもう側から見ててやきもきさせられて……」


 今度は母がしどろもどろになっていた。


「……拓海さんが他の女の子と仲良くしてたら、ゆいがヤキモチ妬いて自分の気持ちに素直になるかもしれないと思って、それでひかるに相談して、こういう写真をだな、その、無理やりにだな……」

「……あまねちゃん?」

「ひぃ!?」


 今は亡き親友そっくりな顔と目つきで睨まれて、あまねはその場で土下座した。

 そんな家族の様子を、戸棚に飾られたゆいの笑顔が見守っていた……


〜〜〜


 都内某所、香久夜まどかは親友にして宇宙開発のパートナーでもある星奈ひかると、今回の件について電話で話し合っていた。


「そう、拓海さんは公表に同意してくれたのね。……わかってる。品田家のプライバシーにも関わることだもの。発表は慎重に行うわ」

『ありがとう、まどかさん』


 二十年来の付き合いだ。友人のその声に、安堵と共に、別の何かが隠されているのをまどかは感じとった。


「ねえ、ひかる。一つ教えて欲しいのですけど」

『いいよ、なに?』

「雑誌の対談相手、どうして拓海さんを指定したんですの?」

『………』


 その問いに、ひかるはしばらく沈黙し後、くすりと笑って、こう呟いた。


『内緒♪』

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