組長先生×貴婦人
「ようクソ親父、一部屋頼む」
そんな憎たらしいことを言いながら受付の小窓を覗き込んできたのは、大柄で強面な、最も距離が長いGIレースを制覇したことがある息子だった。
「なんでオメーらオレの息子どもは、いちいちオレをムカつかせる言い草しかできねーんだよ」
「アンタがクソ親父だからだろ」
「はあ?」
愚痴を言いながらも、差し出された大きな手のひらに空き部屋の鍵を載せてやる。
腹立つからツレのご尊顔でも拝んでやれ。
息子の後ろに立つ、これから連れ込もうとしている相手を確かめて、伊達に歳は取っていないステゴも流石に面食らった。
フェノーメノが連れていたのは、彼の世代で競走生活において一番成果を残したと言える、世代の女王様だったからだ。
女王様もとい貴婦人と呼ばれたジェンティルドンナは、ステゴと目が合い軽く会釈した。
いくらでも母乳を出せそうな胸に締まった腰つき、GIバを産めそうな尻周り、更に思いのほか可愛らしい顔立ち。
硬派一徹のコイツにゃもったいない、あと何年も若ければオレも一晩お願いしたいようないい女だなどと思っていたら、すかさず息子に睨まれた。
「おいクソ親父、なにヒトのオンナエロい目で見てんだよ」
「あ? エロい目で見てんのはオマエだろーがよ。てかオマエ、よくその女口説けたな。あとでゆっくり話聞かせろよ」
「いちいちうるせーよ。ほら、もう行こう」
フェノーメノは嫌そうな顔をしながらジェンティルドンナの腰に手を回し、部屋に向かった。
かの高名な貴婦人様は、一貫して落ち着き払っているが腰に回された手を拒まないので、まああのバカ息子を憎からず思ってはいるのだろう。
しかし息子が恋人の腰に回す手に込めた力を見逃すステゴではなかった。
よっぽどあの女とヤリたかったのか、焦ってんのがミエミエなんだよ、バカ息子。
そんなんじゃ貴婦人様をホントにモノにするのはまだまだだろーよ。
宛てがわれた部屋につくなり、ジェンティルドンナは自分に触れる男に問うた。
「拘束具、ですか。あなた、そういう嗜好がおありでしたの?」
「んなもんねーよ。あのクソ親父が変に気でも回したんだろ。クソ親父、オレが素手じゃアンタをモノにできないとでも思ったか」
「実際どうかしら。道具なんて使わなくてもその身ひとつでわたくしを燃え上がらせてくださる? フェノーメノさん」
「そのつもりだからこんなところにいるんだろ。アンタも、オレも」
手を取り合い、これ以上御託はいらないとばかりに二人で円形のベッドに倒れ込む。
フェノーメノは両手で恭しく貴婦人のふくらはぎを持ち上げ、顔を近づけ足の甲に口付けた。
「アンタの足は小さいな」
しかしこの小さな足に、フェノーメノは負かされ続けたのだ。ついに一度も勝てなかったのだ。
彼女に煮え湯を飲まされ、同時に憧れた日々が蘇ってきた。
世代みんなの憧れの女王が、今夜自分の腕に抱かれる。
「フェノーメノさん、手をこちらに」
足と同じく小さな手が薄明かりの中ではためいた。
応じて手を差し出せば、彼女の両手に握りしめられ頬ずりされる。
「あなたの手は、とても大きいわ」
甘える仕草を見せつけられ、腰に火がつき我慢ならない。
競走生活時は、彼女に対して5戦5敗だった。抱いた悔しさは、いつしか恋心とベッドの上では俺が勝ちたいという邪な想いに変わっていた。
クソ親父、オレは拘束しなきゃ可愛い惚れた女も抱けないような男じゃねーんだよ。
それを証明するように、フェノーメノはジェンティルドンナの上になり、骨ばった逞しい手で彼女をがっちり組み敷いた。
貴婦人は妖艶に微笑みながら恋人からもたらされる不自由を受け入れ、自由なままの舌先で赤く彩られた唇をなぞり、ここの自由も奪ってみせてとフェノーメノをより深く誘った。
ああいいさ、一晩中時間をかけて、アンタを隅々まで奪ってみせるさ。こちとらスタミナじゃ世代で一番、それはアンタだって認めてくれてるだろ。
ステイヤーの夜は長い。