組長先生のピアノを聴くのが好きな貴婦人
!!!擬人化注意!!!
とある恋人同士が深く愛し合ったのちの午前2時。
フェノーメノから何度も愛されて、心地よい疲労に負け気づけばうたた寝していたジェンティルドンナは、拙いピアノ演奏によって目を覚ました。
毒々しい真っ赤なベッドに寝ているのは自分だけ。
裸のままの恋しい彼は、部屋に備えつけられた簡素な椅子に座り、決して上手ではないものの電子ピアノを一生懸命弾いていた。
お嬢様らしくピアノを嗜んでいるジェンティルドンナは、保育士を目指すフェノーメノのために何度もレッスンをつけてあげてきた。
彼が頑張って弾くのは、華やかなクラシックでも愛を歌ったポップスでもなく、幼い子供たちと歌うための簡素な曲ばかりだ。
今フェノーメノが弾いているのは、かろうじて暗譜できるようになったばかりの「きらきら星」だ。
交情の余韻を残し乱れたままの彼の黒髪の合間から、切れ長の鋭い目が覗いている。
ねえフェノーメノさん、わたくしはあなたの、そういう真剣な眼差しがとても好きなのよ。
注がれる熱い視線に気づき、フェノーメノの手が止まった。
「起きたか」
「やめてしまうの? わたくしはあなたの演奏を聴いていたいわ」
「アンタからすればオレのピアノなんか下手くそだろ」
ジェンティルドンナは微笑んで首を振る。
「わたくしはあなたが真剣に何かをしている時の顔も、その大きな手と長い指が動くところを見るのも好きなのよ」
「なら、もっと近くで見てみるか」
誘われて、貴婦人はベッドから起き上がり、優美な裸体を恋人に晒して歩み寄った。
彼の背後に立ち、止まったままの手を取って鍵盤の上に導いてやる。
そうすると自然に、二人の身体が接触する。
こんなふうに重ねてみると、自分たちの手のサイズは随分違って、二人とも口に出さないままそれぞれの大きさと小ささに感じ入り、ときめきを覚えていた。
「ほら……弾いてみて」
耳元で甘く請われても、フェノーメノは肩に当たる豊満なふくらみに気を取られてそれどころではなくなってしまう。
「おい……そのでけぇムネ当てんなよ。集中させる気ないだろ」
「あら。ついさっきまで散々好きにしていたのに、今更照れるの?」
貴婦人は優雅に笑みをこぼし、可愛い彼の背中に抱きつく。
魅惑の感触が背中いっぱいに広がり、フェノーメノは高まる欲望に堪えかね身震いした。
「アンタ、まだオレに抱かれ足りなかったか」
「あなたがわたくしを抱き足りないからそう思うのよ。違う?」
「違いねえな」
立ち上がり、フェノーメノの広げた腕は貴婦人の背中に回され、硬い胸板に押し付けるように彼女を掻き抱いた。