終章
現世帰還後の会話 浦原さんの謝罪現世
「おかえりなさーーい♪ みなさん♪」
一反木綿のような空飛ぶ布で浦原が一行を迎えた。
「…浦原…さん…」
「…お帰んなさい、黒崎サン。聞いてますよね。アタシの事」
一護は目を逸らして「…ああ」と静かに返事をした。浦原が帽子を脱いで振り返り、その場で深く頭を下げて謝罪する。
「本当にすいませんでした…!」
頭を上げない浦原に、少し気まずそうな間があって、一護が「…やめてくれよ」と言った。
「いーんだよ、もう。別に怒ってる訳じゃねえし」
二人の様子を眉を下げ、心配そうな面持ちで井上達が見守っていた。自分を助けてくれた事、強くしてくれた事に感謝していると告げ、謝らないで欲しいと一護は言う。
一護の出した答えに納得し、井上達は浦原を許すと決めたようだった。カワキも浦原に言葉をかける。
『確かに巻き込まれたとはいえ、私は私のやるべきことをやっただけだよ。浦原さんも、どうかお気になさらず』
「…はい……」
噛み締めるように返事をした浦原。何となく、誰もが口を開かないままで時間は経過していく。ふと石田が何かを思い出したように声を上げた。
「そういえば黒崎…。むこうを出る時…浮竹さんに何か渡されてなかったか?」
「ん? あァ、これだよ」
一護が懐から代行証を取り出す。皆それぞれ一護の頭越しに手許の代行証を覗き込んだ。カワキも念の為、もう一度しっかりと確認する。
「何だそれ?」
「許可証だってよ」
一護は代行証を掲げるように手を突き出しながら、浮竹に受けた説明をそのまま復唱した。
――「一応、尸魂界にも死神代行の発生に対応した法律があってね」
――「現れた死神代行が尸魂界にとって有益であると判断された場合、古来から必ずこれを渡す決まりになっている」
「って言って貰ったんだ。色々役に立つだろうから、いつも持っとくようにしろってさ」
石田が顎に指をかけ、何か引っかかったような顔で黙り込んだ。その横顔をカワキが目だけで見つめる。
⦅石田くんも気付いたか…。注視する者は多い方が良い。私には無い気付きもあるかもしれない⦆
石田が代行証の説明に不審な点があると気付いた事は、カワキにとって都合が良かった。四六時中、一護を監視することは難しい。“目”は多ければ多いほど、気付ける事が増えるものだ。
「…って聞いてんのかよ、石田」
「え? あ…ああ、もちろん!」
黙り込んだ石田に一護が声をかける。慌てて返事をした石田は、自分の杞憂かと一旦その不審さは置いておく事にした。
「このマーク…どっちかというと代行禁止って感じのマークだな…」
「ヤなこと言うなよ…」
何気ないチャドの言葉に一護が嫌な顔をする。あながち間違いでも無いかもしれないなと考えながら、カワキは何も言わなかった。
「あ! 石田くん! 石田くん家の近くじゃない? この辺!」
「あ…ほんとだ! 浦原さん、僕この辺でいいです!」
浦原が「はいはーい♪」と軽い返事をして、布が地上に近づいていく。
「じゃあな石田! また何かあったらよろしく頼むぜ!」
降りようとする石田に一護が声をかけた。一見すると不機嫌そうにも見える顔で石田が振り返る。
「…何を言ってるんだ? 忘れたのか? 黒崎、君と僕は死神と滅却師…次に会う時は敵同士だ」
目を丸くする一同にそう言い残すと、石田は「じゃあな!」とマントをはためかせて去って行った。残った面々は無言で顔を見合わせて、同じ滅却師であるカワキを見る。カワキは真顔で補足した。
『まあ…否定はしないよ。だけど、一護は死神じゃなくて死神“代行”だ。私には次も声をかけてね』
「おう!」
一護は笑って了承を返した。カワキの言葉とこれまでの事から、石田の発言は照れ隠しだと井上は微笑みがこぼれる。
「石田くん…素直じゃないね」
「まったくだ!」
井上が笑顔でそう言って、一護は石田に悪態をついた。その後は、それぞれ家の付近で地上に降りて皆帰路に着き、尸魂界侵入という大事件は一件落着したのだった。
***
カワキ…今回の件については、マジでどうでもいいと思っている。浦原に言った言葉が全て。代行証を怪しんでる。
死神とは敵対するかもしれないが、一護は護衛対象なので連絡は早めにして欲しい。