終着点・1

終着点・1





それは、たった一つの当然の終着点




私のミスでした。


「先生を助けに行きますよ。」


どうしてあんなことを言ってしまったんでしょう。


「やりたいことをやるために、なりたい自分になるためには、大人の力がまだ私達には必要なのです。」

「誰もが助けたいと思っている人を真っ先に助けだす…それは多くの人にとって助けになるはずです。」


それらしいことをべらべらとならべ。


「あの怪盗たちが既に助けに行っているとしても…本当に可能だと思いますか?先生というカードが手元にある重大さを向こうがわかっていないわけがないでしょう。戦争が開始したと同時に何よりも厳重にしまいこみ…手中に収めようとするはずです。」

「先生の耐久力は私達以下のマスコットのようなもの…時間はありません。」


事実をいいように解釈して。


「優先順位をつけましょう。そして何よりもまず、それを『先生』にする…ただそれだけのことです。」


冷静であることを装って。


「不安なら、今度はこの超人が導いてあげましょう。アリスちゃんも皆さんも。」


「何をするのか、どうするべきか、具体的なプランまで、はっきりと言ってあげましょう。」


「超人の行いに、間違いなどないのですから。」


そんな、とりつくろった自信満々の態度で、


「…何より。」


「間違えたとしても、それを取り戻す責任は…先生(大人)がとってくれるのでしょう?」


「怖いことなど、ないではないですか。」


そう言って、らしくもない信頼を示す態度で共感させて。


その内実にあったものなど。ただ、先生がいないといろいろ面倒だから。

さっさと取り戻した方が楽になるなと思っただけで。


それで結果がこれだなんて。実に明確な失敗ではないですか。



私が発案したもの。それは、一言でいえば退路の確保作戦。

現囚人にかけられている手錠…通信デバイスを用いての先生奪還作戦を実行しているシャーレ側との連携。

ワカモさんが敵味方問わずに扇動と破壊工作を行い、戦場の状態を一時的に大混乱に落として穴を作り、FOX小隊とシロコさんが先生を救出した怪盗と合流。そのまま混乱中の戦場を突っ切る…そんな作戦。

そして、この作戦の成功確率を大きく上げるために、私が提案した一案。


相手拠点を制圧し、脱出のための中継地点を確保すると共に陽動を行うこと。


シャーレとは別軸で動ける私達が、確実な打撃を与え、無視できない動きをすることで、先生の救出確率を大幅にあげる一手。


アビドス旧校舎への襲撃である。


シロコさんや略取した補給線の情報から、そこの地下区画に、かつての対策委員会のメンバーがいることはわかっていた。

戦場が混乱した状態で打たれる、先生と後輩という重要目標への同時攻撃。間違いなく人員を消耗させ、先生救出をつつがなく進められる強力な一手…。


そうなるはずだった。



「ふぅ…おーい。そろそろ動けないかな~?いやースゴいねアリスちゃん。力もあるけどなにより諦めが悪いねぇ。何度撃っても立ち上がってくるからさぁ、おじさんもひどいことしないといけなくて心が痛むよ~。」


「う……ぐ……アリス…は…ゆう、しゃです、から…!諦め…ません!」


「え、まだ立とうとするの?うわ~気持ち悪いよ~。おじさんもう飽きてきたんだけど。ほら。」


「,っ""!?!?…ぅ"ぇ"っ!………」


銃声が鳴り響き、ろくに動けないアリスさんの細い腹に向けて、零距離でショットガンが撃ち放たれる。彼女の特別な体に大穴が空くことこそないが、その衝撃は全身に余すことなく響き、ぐりんと一瞬目が裏返った。

なぶられる彼女に助けの手をさしのべる仲間は一人もいない。皆、同じような重症で倒れているのだから。


私の計算違いだったことは二つ。

一つは、先生の監禁されている新校舎ではなく、旧校舎に小鳥遊ホシノが陣取っていたこと。


そしてもう一つは、小鳥遊ホシノが異常な強さを手にしていたこと。


最強、と言ってもしょせん一生徒。限度がある。

確かにツルギ委員長は化け物染みた強さと耐久性の持ち主だった。だが、あのトリニティ脱出の決死行の後、半日は寝込んだのだ。

いくら最強と呼称される存在と言えど、精鋭で囲んで叩いて袋叩きにすれば、数時間程度の時間稼ぎ程度は決して不可能ではない。

だが、彼女はおかしい。生徒という範疇を明らかに超えている。まるで、何かもっと、別のもの…例えるなら巨大な怪物と戦っているような…


「…………。」

「…。こっちに来る判断はさ〜悪くなかったと思うよ?でもさ、もう少し慎重にやるべきだったんじゃない?まあもうどうでもいいけどさ。」


アビドスの旧校舎前、侵入を試みた私達の前にゆらりと部下達を引き連れて現れた彼女は、文字通り私達を圧倒した。

たった一人に壊滅され、部下達が倒れる私達を取り囲む。なす術もない敗北。訪れる結末を、敗者に決める権利はない。


「さて、じゃあどうしよっか。おじさんはね~、別に君たちのことはどうでもいいんだよね。色々やってくれたみたいだけど、特に怒っても恨んでもいないんだ。」


そう言ってこちらを見下す彼女の目はひどく乾いたものだ。


「でも私の後輩たちに手を出そうとしたのは許せないな~。なに勝手に外に出そうとしてくれてんのさ…!あの子達は私が守らないといけないんだよ!っ…t…!この状況で連れ出すとか許すわけないだろ…!?!?…まあ、君たちはこうして失敗しちゃったわけだけどね。」


昼行灯のような緩やかな言説が急に炎のように苛烈に燃え盛り、突然鎮火する。

この女には、もはや正気がない。

言説が矛盾している、行動が一致していない。

これが、キヴォトスを堕とさんと各地に魔手を伸ばし、混乱を呼び、戦争を引き起こした組織の首魁。

砂糖によって誰よりも狂わされている女だった。


「ん~冷静に考えてたらなんだかムカついてきたよ。よし、じゃあ、君たちには転校してもらうことにしよっか。」

「うへへ、嬉しいな~。一度にこんなに転校生が来るなんて夢みたいだよ~。」

「まあここ最近は毎日転校生が来てるんだけどさ。いつだって仲間が増えるのは嬉しいものだよねぇ?」


へらへらと笑い、ショットガンを片手で弄びながら、こちらの返事などまるで聞かずに彼女は語る。周囲の部下達もその言葉にニコニコと虚ろな声で返事をするが、彼女はそのオーディエンスには無反応だ。

事実、聞く気がないのだろう。その視界にこちらが、彼らが入っているのかさえ、怪しいものだ。


「そこ。」


「ぐっ……!」


ドカンッと銃声が轟き、どうにか立ち上がろうとしていたミネさんに銃弾の雨が降り注ぐ。こちらの反応など気にしていないように見えて、敵意の感知だけはずば抜けているのが始末に負えない。


「やれやれ…みんな筋金入りの問題児みたいだね~。」

「これは一人ずつハナコちゃんにお話してもらわないとダメかな~?」

「ねぇ、誰がいいかなアリスちゃん?」


つい、と銃口で地にへたり込んでいるアリスさんの首を彼女は持ち上げさせた。アリスさんは先ほどの一撃で意識を保つのも限界らしく、半分閉じかかった眼で、ふざけたような軽薄な笑みを浮かべる小鳥遊ホシノの顔をぼうっと見ていた。


「一番最初に転校させる子、アリスちゃんが選びなよ。」


「救護を掲げていた癖に自分の学校の生徒会長を助けられなかった団長さん?」

「フウカちゃんはここで働いた方が幸せなんじゃない?ハルナちゃんも大人しいし…ゲヘナじゃ報われないでしょ。」

「カズサちゃんも何が気に入らないのか知らないけどチクチクしちゃってさ。私みたいにもっとゆるく生きたほうが楽だよ~?」

「ここってわりと倒れる人も多いんだよね~、みんな明日にでも死んじゃいそうなんだ~…助けてくれる人がいるならおじさん助かるな~。まあ次の日にはまた倒れてるから、そのうち毎日死体を見るかもだけど。」

「それとも、そこの大口叩く割には大したことしてくれない生徒会の象徴みたいな人…は別にいらないかな~。」


「……うる…さい”…です…アリスの…なかま、たちを……!」


「お?なんだ、まだ元気だね~。一発いっとこっか。」


つらつらとふざけるようにくりだされる揶揄する言葉に、アリスさんの目にギリリとした光が戻ってきますが、小鳥遊ホシノは淡々とショットガンを振り上げると、そのまま彼女の頭に振り下ろします。鈍い音が響き渡り、がくりとアリスさんの首がまた垂れ下がります。姿勢ももはや座っていることすらやっとのようで、その小さな背はぐらぐらと揺れています。取り囲むアビドスの生徒達はホシノそっくりの張りついたような笑みで楽しそうに眺めています。


皆、その様子を見ることしかできません。

唇を噛み、虚ろに見つめ、憤怒の籠った瞳で睨みつけ、涙ぐみながら動かぬ体に絶望し。

勇者が、悪にただなぶられる様子をみることしかできません。

失敗。

明らかな失敗。

この私の選択がこの結果を引き起こした。


(なんで、なんでこんなことになったんですかっ……!?)

(私が失敗した??あり得ない。私は超人なのですよ?)

(この私の選択に失敗などありません。あるとすればそれは私の意識外の予測不可能な要因が急に襲い掛かってきた、仕方のない偶然でしかないのです。)

(そう、そもそもこの状況が私の望んだものではないのですから仕方がないではないですか。)

(最初からイヤだったんですよ。でもイヤイヤ協力せざるをえない状況に彼女がしたのです。ですからここまでたまたまつきあうことになっただけにしかすぎません。)

(そう!悪くない!私は悪くない!悪いのはいつだってこの超人を理解しない……)



「まあ安心しなよ~。お砂糖さえあれば、痛かったことも、苦しかったこともどうでもよくなって、みーんな幸せになれるからさ。」





「はぁ?」





思わず、口をついてでた。

撃たれた傷が痛くて苦しかったことも。忙しかった自己正当も。周囲から突き刺さる刺すような視線も。

何もかも投げ捨ててでも。

その言葉は。

その言葉にだけは、心からの呆れたような声が出ざるを得なかった。


脳裏によぎる。これまで見てきたことが思い出される。

救護テントで、ゲヘナで、トリニティで、ミレニアムで、百鬼夜行で、レッドウィンターで、砂糖によって苦しんでいる、悲しんでいる、怒っている生徒達を見た。

あのような支配する気を微塵も感じない、ただただ悪夢をバラ撒いていくだけの砂糖で皆が幸せになる?


「砂糖…ドラッグでみんなが幸せになれる?そんなわけがないじゃないですか。本気で言っているんですか?」

「みんな?みんなって誰ですか?砂糖に踊らされた愉快なお仲間達のことですか?残された被害者達にも砂糖を投与して笑わせればいいなんて醜悪なことを言うつもりですか??」

「あぁ、それならここにいるあなたの後輩たちは『みんな』ではないんですね、ここには砂糖が運び込まれていないんですから!」


「……なんだ。おまえ。」



感情的に、衝動的に、超人らしくもなく、思いの丈を得ていた情報と繋げて、フラフラの身体で思わず一気に吐き出して。

その言葉の何が琴線に触れたのか知らないが、小鳥遊ホシノはうるさそうに、怒りのこもった瞳でこちらを睨み付けた。

先ほどまでの張り付いたような笑みも、あおるような調子も、戦闘中の冷静さもない。

ただの怒り、苛立ち。…そして、殺意。


「ヒッ…」


思わず小さく悲鳴が漏れた。

短い返答と目線でどうしようもなく理解できる。私は死ぬ、殺される。小鳥遊ホシノにとって私はとてつもなく目障りな存在に、今この瞬間、私はなっている。取り囲むアビドスの生徒達も感情を浮かべない白い目で、私が邪魔だと睨んでいる。


イヤだ。死にたくない。

私は超人なのだ。まだなすべきことがたくさん残っている。

連邦生徒会生徒会長にならなくてはならない、愚民達を導かなくてはならない。連邦生徒会にだってまだ戻れていない。

私は、まだ…


恐怖で怯え、開いていく瞳孔。こちらに一歩ずつ近づいてくる小鳥遊ホシノの動きがゆっくりに見える。自分の視界が急激に開けていき、その場にいる人物の姿がくっきりと見えていく。

倒れている勇者の協力者達が私とホシノを見ている。

……地面に倒れているアリスさんが顔を上げて、小鳥遊ホシノに震える腕を伸ばしながら、私のことを半分しか空いていない目で、泣きそうに見ている。


…。


……。


…………。




あぁ。




冷静に考えなくてはいけませんね。

ここからアリスさんを逃がさなくては砂糖を、砂漠を浄化できない。

アリスさん一人ではない、皆が逃げだせなくては、これから激化していくであろう戦争を切り抜けられない。

使える手札は残っていますか?使う条件は?

今の私にあって、アビドスにないものはなんでしょうか?


さて、超人であるのなら、ここから必然の奇跡などいくらでも起こせるはずでしょう。

ですが、ええ。

誠に、誠に残念なことに。

一瞬の内に駆け巡る走馬灯の中で、私の脳裏に浮かんだ選択肢は一つだけなのです。

あぁ、あの女なら、もっと冴えた結果を出せたのでしょうか。そもそもこんな状況にすらしていないかもしれませんね。

だからこれはまあ、ミスをしてなお、超人であろうとする無駄で無様な足掻きなのでしょう。こんな状況でとれる選択肢が一つだけしか浮かばない、そんな私の。

なんて、なんて滑稽で。


まるで遊び人のようではないですか。



「ねえ、小鳥遊ホシノ。あなた結局なにがしたいんですか?」


どうしても言わなくてはならない。


「アビドスを復興?こんなヤク中ども集めてですか?そんなものが『学校』だなんて大爆笑ものですよ。」


それらしいことをべらべらと並べ立てろ。


「そもそもアビドスなんて廃校になればよかったじゃないですか。生徒会長を失って、環境は悪化の一途。しかも麻薬発生の根源?そんな場所にあるとわかった時点で、後輩達を引き連れてさっさと廃校にするべきだったでしょう。」


事実をいいように解釈しろ。


「廃校になったなら、他の学校にいけばいいですし。学校が変わったからって関係が消えるわけではないでしょう?むしろよい環境にいる方がよい影響を受けられますよね?」


さも冷静であるように振舞え。


「どうして砂糖に手を染めて、人を不幸にしてまでアビドスなんて場所にしがみついてるんです?とんと理解ができないのですが……」


自信満々なように取り繕え。


「自分のやりたいこともわかっていない、迷走するあなたには、何も成すことはできませんよ。…ですが、そんなあなたに提案です、今ならこの超人である私が…」


そう言って、らしくもなく。震える心を押さえつけて、胸を張り、目の前に突きつけられた銃口を睨み付けた。


「もういい。お前、黙れ。」


心底乾いたその声。怒りに満ち、それを通り越して、もはや眼前のソレを排除することしか考えていない冷徹な声。

そうなってなお、周囲への警戒を無くしていないあたり、本当に恐ろしい女だ。


けれど、だからこそ。

ここまでわざわざ近づいてきて、わたしに銃口を突きつけている。その行為が、私の計画の成功を示していた。



突如、小鳥遊ホシノの視界に小さな黒い影がよぎる。

握りこぶし大のそれは、下から上に向かって投げ上げられたモノ。キヴォトスならばごく当たり前のように誰もが持っているもの。


しかし、目の前にいる臆病で自己保身ばかりが得意そうな女から、それが差し出されるとは、頭に血が上った小鳥遊ホシノは思いもしていなかった。


響く爆発音と衝撃は、至近距離にいた二人を包み込む。

今の小鳥遊ホシノにそれは大した傷にもならない。むしろ、それを差し出したカヤの方が致命的な傷を負う。

しかし、傷の如何などカヤにとって問題ではない。

ほしかったのは間、驚愕。小鳥遊ホシノが自分だけを見ている状況で、周囲が全員自分達を見ている状況で、予期していない行動をすることによって生まれる意識の間隙。


痛みにうめき、衝撃にのけぞりながら、カヤはミレニアム製の手錠に向かって叫んだ。


「ヒマリさん、どうせここまですべて聞いていたんでしょう!!車をだしてください!」


『……承知しました。』


叫んだ声に涼やかな声が一瞬のためらいの後に手錠から返された。

囲んでいたアビドスの生徒達を轢き飛ばしながら、同じくミレニアムから送られたゲヘナ給食部の車が突っ込んでくる。運転席には誰も座っていない。無線通信で動かしているのだろう。

既知の情報を組み合わせ、これができるという賭けにでた。

一瞬にして訪れた目まぐるしい展開に、驚愕と混乱に包まれる場のなかで、確実に動ける人に叫ぶ。


「ミネさん!救護願います!!」


「!っ…はい!!!」


膝をつき盾を構えていた救護騎士団団長は、私の言葉ですぐさま弾かれるようにその場から駆け出し、地に転がっている仲間たちを回収し、車へと投げ上げていく。


「っ……はっ!逃がさないよ!」


数十秒間。手りゅう弾の破裂音の後、車が校舎前に突っ込んできて、ミネ団長が駆けだすまでのわずか数十秒。それが私が挑発と自爆で稼げた時間だった。それは小鳥遊ホシノが正気を取り戻すまではあまりに十分すぎるほどの時間である。既に私から視線を離し、車をスクラップにしてやろうとショットガンを構えて、弾を放ちながら、突撃しようとしていた。

ここまでは上手くいった。だが、数十秒間では足りない。まったくもって足りていない。

痛む喉を開いて、血を吐きそうになりながら叫ぶ。


「小鳥遊ホシノ!先生はあなたのことをこう言っていましたよ!!」


止まらない。この程度では悪ぶっている女の足を止められない。


「今でも大事な生徒だと!守ってあげたいと!!」


止まらない。監禁してしまった時点で、もはや過去の美しさは、彼女の足をもつれさせない。


「本当に馬鹿な人ですよね!あなたが救いを望んでいるとは限らないのに!」


止まらない。自覚していることをつついている程度では、まだ足りない。

だから、


「まあ、その後こうも言っていましたよ!」



「『ホシノと二人きりで逃げてしまうのもいいかもしれない』って!」



止まった。


「先生がそんなこと言う訳ないだろうがぁっっ!!」


一括。憎しみと怒りと、すこしばかりの悲しさを込めた、そんな激昂が、振り返った彼女の口から吐き出された。

同時に、車がその場から発進して遠ざかっていく。だいぶ装甲には穴が開いているが、それでも走り去るには十分な速度はでている。アビドスの生徒達が銃を撃っているが、追いつくのはもはや難しいだろう。


これが、たった一つだけ浮かんだ選択肢。

誰かが、この場に残って小鳥遊ホシノを足止めし、それ以外は離脱する。

それができたのが、この私だけで。だから実行するしかなかった。


ここまで苦しい思いを、痛い思いを、らしくもなく無茶をしてやったのです。

無事に逃げ切って欲しいものです。

もう、やせ我慢も限界です。全身の痛みで悲鳴も泣き言も溢れ出る寸前なのです。


そう思い、崩れ落ちかける身体をどうにか支えながら、走り去る車を見る。

車の後部座席から、ひょこりと、すっかり見慣れてしまった顔がでて、確かに、私と目が合った。




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