終盤その5

終盤その5

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「ア、アァァァァァ!!!」


さっきからずっと涙腺が緩みっぱなしだ。涙か溢れて止まらない。

ずっと怖かった。本当は捨てられたんじゃないかって、シャンクスは来ないんじゃないかって。でも来てくれた。それが何よりも嬉しくて、申し訳なかった。


「シャン、クス……」


「ルフィ、ここまでよく頑張ってくれたな。ありがとう。後は俺達に任せて休んでいてくれ。ホンゴウ」


「任せろ。ルフィも俺達の友達だ。必ず助ける」


ルフィには船医のホンゴウさんがついてくれた。酷い窶れ方をしていたルフィだけど、これで安心だ。


「四皇"赤髪"……まさかの人物ですが、なるほど歌姫の父親だったとは。なら納得いきやす。娘の為なら黄猿の旦那も艦隊も障害になりやせんか」


「あぁ、娘の晴れ舞台だ。あの程度の障害なら軽いもんだ」


「大将と軍艦30隻を軽いと言いますか。お前さんが相手とあれば、あっしも手を抜くわけにはいきやせんな」


トバクのおっさんと呼ばれていた彼は刀を少し抜く。あの棒、刀だったんだ。

彼が戦闘体勢にはいったのを皮切りに他の海兵の人も武器を構えてシャンクス達を睨んでいる。


「もう一度言う。この子は俺達の娘だ。大切な家族だ」


私を抱えるシャンクスの腕がより強く私を抱える。もう離さないと言っているように。


「それを奪おうってんなら、死ぬ気でこい……!」


シャンクスからビリビリとした風が、覇王色の覇気が放たれた。ルフィと同じ……ううん、もっと大きくて強いものだった。

覇王色の覇気を受けて海兵の人達がバタバタと倒れていく。明らかに強そうな人達も何人か倒れたり膝をついたりしている。


「これが"赤髪"の覇気ですかい。中将の一部まで持っていくとは、恐ろしいかぎりで」


「…………」


「……止めておきやしょう。市民の皆様方がいるなかで、戦争を始めるわけにはいかねぇでしょう」


彼はゆっくりと少し抜いていた刀を鞘に戻した。宣言通り戦闘は起こさないという意思表示なのかな。


「ただ、あっしらが撤退するにはまだ理由が足りねぇ。お嬢さん、閉じ込めた人達を解放すると言いやしたね?それをこの場でやってくれやせんか。そうすればあっしらはこのまま撤退しやしょう」


そう、だよね。海兵の人達はそれが目的だったもんね。なら、やらないと。

私はシャンクスの腕の中から離れる。シャンクスは心配そうに腕を伸ばしてくるけど、片手で軽く大丈夫と押さえる。

事情を察した猿のモンスターが映像電伝虫を持ってきてくれた。これで世界中の皆に声を届ける事ができる。私は一度深呼吸をして、皆を解放する歌を口ずさむ。


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《ウタワールド・エレジア本島港》


『何で船が一隻もないんだよ!?』

『迎えの船は!?』

『いつになったら帰れるんだ!?』

『速くしてくれ!でないとここもライブ会場みたいにふっとんじまう!!』


現在エレジアの港には観客達が集い、大騒ぎになっていた。


「皆様!落ち着いて下さい!迎えは必ず来ます!なので暫く、暫くお待ちください!」


『暫くっていつまで?』

『どれだけ待てばいいんだ!』

『俺死にたくねぇよ!?』


観客達は恐怖と不安で暴徒一歩手前状態となっていた。

コビーが必死に宥めて押さえているが、それも限界に近い。


(くそっ、このままでは市民の皆さんを押さえられない!ルフィさん、早く!……?)


騒いでいた観客達が急に静になっていく。何事かと思えばコビーの耳にも原因が聞こえてきた。


「この歌声は、ウタさんの」


そう、歌姫ウタの歌がウタワールド内に響き渡っていた。

その声は正に、天使の歌声であった。

歌声を聴いた者が眠りに落ち、元の身体へと戻っていく……。


https://youtu.be/b3GCfyNKeLs

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