終盤その2

終盤その2

62

《ウタワールド・ライブ会場》


『ウタちゃんが黒くなっちゃた!?』

『なんか天気もいきなり悪くなってきた?』

『な、なんかやばくないか?』

『ウタちゃん、怖い顔してる……』

『どうなってんだよこれ!?ただのライブじゃなかったのか!?』


観客の皆の困惑の声が聞こえてくる。今までだったらその困惑を沈める為に歌ったと思う。だけど今はそんな気分になれなかった。


「ル、フ、ィイイイイ……!!!」


あんなに夢を語り合った、あんなに沢山勝負をした、愛しい愛しい幼馴染み。なのにあいつは私の夢も歌も否定する。そんなのは新時代にはいらない!……いらないんだ!


「ようやく本気になったんだな、ウタ」


件のルフィは私の怒りが伝わったのか伝わってないのか、よくわからないことを言っている。この期に及んでふざけているの?


「私は、最初から本気だよルフィ」


「……そうか」


「まさかとは思うけど怖じ気づいた?でももう遅いよ」


「違う。やっとお前の本音が聞けそうだと思っただけだ」


「なにそれ?嫌み?……そんなわけないか、ルフィだもんね」


怒りに燃えている筈なのに何故か落ち着いて話が出来ている事に自分で驚く。あれかな?怒りすぎて一周回って冷静になるってやつ。


「観客の皆様!しばし僕の声に耳を傾けてください!」


その声に振り向く。ステージに新たな闖入者が現れていた。あれは、海軍の人?


「僕は海軍本部大佐コビーといいます。少しだけお時間を下さい!」


『コビー?ロッキーポート事件の英雄だ!』

『コビーさんだ!』

『コビー大佐だ!』

『英雄だ!』

『これで安心だ!』


あのコビーって人、有名人なんだ?皆の不安が消えていっていくのがわかる。


「もう既にお気付きの方もいらっしゃるかもしれませんが、ここは危険です!歌姫ウタと麦わらのルフィの戦闘の余波が観客席の皆様にもおよぶ危険性があります!至急避難を!」


『避難?』

『避難だって?』

『ウタちゃんが俺達を傷つけるかよ!』

『でも明らかに様子がおかしいよ?』

『言う通りにした方がいいんじゃ……』

『お、俺は行くぞ!こんなの普通のライブじゃねぇよ!』


一人、また一人と立ち上がり、ついには会場のほとんどの人が避難を開始し始めた。


「係の者が誘導しています!慌てず騒がず移動してください!」


係の者……よく見るとそれはルフィの友達だった。いったいいつの間に。まぁどうでもいいや、今はルフィを■す事が重要だし。


「ルフィ!」


そのルフィの友達の一人、金髪の変な眉毛の人がルフィに呼び掛けてきた。


「大雑把にだかウタちゃんの育ての親のゴードンから事情を聞いた!お前がどこまで把握してるか解らんが、ウタちゃんを一人にさせんなよ!」


「当たり前だ!」


「解ってんならいい!頼んだぜ船長!」


そう言って彼は避難誘導に戻った。

ゴードン、何を言ったんだろう。なんにしても海賊にプライベートをペラペラ喋るなんて幻滅したよ。


「ルフィ、信頼されてるんだね」


「あぁ、仲間だからな」


ビキリ。と、脳の底がひび割れる様な感覚がした。

仲間だから信頼する、信頼される。それは、私が一番したくて、一番出来なかった事だ。だからこれは


「ルフィ……あんたは!いちいち!癪に障んのよ!!」


ただの八つ当たりなんだと思う。


私は高速でルフィに肉薄して槍の連続攻撃を加える。ルフィはそれを全て殴り返した。

殴り返された衝撃で思わずたたらを踏むけど、負けじと槍先から大型の音符の弾丸を打ち出す。ルフィはそれを知っていたかのように軽やかにジャンプで避けた。

私の上をとったルフィはそのまま拳を振り下ろしてきた。咄嗟に盾でガードする。


「くうっ」


なんて重い一撃……!膝をつきそうになるが耐える。そのまま盾から音符の衝撃波を出してルフィを引きはがはす。空中で無防備になったルフィを五線譜の帯で拘束。そのまま海に放り投げようとして


「ガァ!」


ルフィは拘束を無理矢理破壊した。

あり得ない、ウタワールドでそんなことが出来るのは私だけの筈……。考えている間にもルフィはこちらに向かってくる。


対して私は音符の騎士を大量に喚び出して全てをルフィに突撃させる。ルフィは突撃してきた音符の騎士を全て殴り倒しながらゆっくりとこちらに近づいてくる。


"負けるかもしれない"


音符の騎士の大軍をすり潰しながら近づくルフィを目にしてそんなことが頭に浮かぶ。

あり得ないあり得ないあり得ない!この世界では私が最強なんだ!絶対なんだ!ルフィが強くてもそれは絶対に覆らない!


証明しなくちゃ、私が最強だって!


私は音符の騎士の召喚を止める。するとルフィが少しだけ怪訝な顔をした。


「どうした?諦めたのか?」


「違うよルフィ。これじゃいつまで経っても決着はつかない。だから」


私は槍先に力を集める。それは音符でも五線譜でもない、真っ赤な雷の球を形作る。私にこんなことが出来たのか疑問に思ったけど、それはすぐに音の彼方に消えていった。


「私の全身全霊で、ルフィ、あんたを否定する」


深紅の雷球は力を込めれば込めるほど大きくなっていき、その余波で人のいなくなった会場を破壊していく。

あのコビーって人には感謝しないとね。あの人がいなかったらルフィ以外の人を■しちゃうところだった。


「それがお前の全力か」


「そうだよルフィ。最後の忠告だよ、海賊止めなよ」


我ながら未練がましい。■すと決めたのにルフィとまだ一緒にいたいと考えている。

ねぇルフィ、私の気持ちが解るんだよね?ならさ、海賊なんか止めて一緒にこの世界で生きようよ。

その気持ちが伝わったのか伝わっていないのかは分からない。ただ、ルフィの答えは私の望んだものではなかった。


「断る!おれは仲間と、そしてお前と一緒に海に出る!だから、おれも全力でお前の一撃に答える!」

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