終焉の日
「レッドゾーンが・・・ちっ、そうゆうことだったのかよ」
ドギラゴン剣が毒づく。
多くの犠牲、そして一人の少女の涙を経て、マスター・イニシャルズ、VV8、そしてドキンダムXを打倒したカルデア一行。だが、あと一歩のところでドキンダムXの禁断の力を吸収し、ブラックアウトとなったレッドゾーンの、本来の使命を果たさんと起動した「禁断の星、爆ぜろ赫き一閃」により、ついに「終焉の禁断 ドルマゲドン※」がドルマゲドン・ビックバンを起こし、降臨してしまう。
ドギラゴン剣とミラダンテⅫが力を合わせ起こした「完全防御革命」によって、爆発そのものは防ぐことができたものの、爆風が晴れ、その先に待っていたのは目を覆いたくなるほどの絶望だった。
「アレはドキンダムX!?」
「こちら観測できる範囲で先ほどと同ランクの個体が9体。それ以外にも幼体と思われる個体がうじゃうじゃと!いちいち数えるのも馬鹿らしい程に!」
「噓だろ・・・1体でもあれだけだったってのに・・・」
「追加の報告です。ドルマゲドン※の周囲にドキンダムXとは異なる6つの反応があります。恐らくは先ほどのマスター・イニシャルズかと」
「ええい。いくらなんでも無茶苦茶にもほどがあるだろう!ほら、せめて弱体化していたり・・・」
「観測データを見る限りないかとー。どこを見ても先ほどと比較して劣る部分はありませんので」
戦場では誰もが一時の間、言葉を失っていた。
それも当然だろう。今まで斃してきた敵、その大半が同時に蘇ったのだ。最大最悪の敵と共に。
かつて世界の半分を消し飛ばした戦いに勝利した英雄は思考する。
(みんな呆然としちまってる。このままじゃあ) 勝てるものも勝てなくなる。
(あいつらがいれば・・・オレにあの時の力があれば・・・!)せめてドキンダムXの一体でも倒せれば状況は・・・こちらの士気は変わるだろう。
いつかを共に駆けた彼の相棒、勝利を望む熱血の銀河竜。だが、その魂はかつての戦いののちドラグハートから開放され去ってしまった。
(いや、まて。サーヴァントは全盛期で再現されると聞いた・・・なら、きっと、必ず)
「おい。カルデア。今からサーヴァントを呼べるか?!」
「リソースだけなら何とか一騎分あるけど一体誰を?」
「オレだ。オレに召喚術式を使ってくれ。少しいじる必要があるかも知れないが、細かいコトはギュウジン丸がやるだろ」
「あてがあるのですね?」
「ああ。ドキンダムX一体。いやドキンダムXは全部オレが、オレ達がどうにかする」
「議論している時間はありませんね。分かりました。許可します。ギュウジン丸はこちらのサポートを。マスターは召喚の補助にまわってください」
・・・
・・・・・・
・・・・・・・・・・
「抑止の環より来たれ、天秤の守り手よ!!」
変化(それ)は劇的だった。
モルトの肉体が一回り大きくなる。半身をそれぞれ相棒たるギンガ、ラオウの力が包み込む、背から鳳凰とも龍ともとれる美しい翼が4枚、そして龍を思わせる尾が生え、変化・・・変身は完了した。
「サーヴァント:セイバー『超戦龍覇 モルトNEXT』召喚に応じ参上した」
その凄まじいまでの力は先ほどと同じ人物とは思えないほど。
これこそが、彼の全盛期。相棒と、友と、愛と、共に「その次」へと至った、一つの歴史の転換点となった戦いに勝利した英雄の、真の姿である。
そして更に自ら姿を変化させる。今回は一騎による戦いではないのだから。
(いや。オレは一人で戦ったコトなんてなかったか。いつも隣にはアイラが、この手にはギンガがいた。——オマエ達と一緒なら、オレはなにとだって戦える!!)
「爆流——奥義!」
『爆炎龍覇 モルトSAGA』
より、複数のドラグハートを使いこなす事に特化したモルトの新たな姿。
「みんな。ドキンダムXはオレ達で倒す。全てだ。だから」
——あとは任せた。そう告げる変わりに、少しだけ微笑んで
「少し、力を貸してくれ。」
竜の力を受けるほどに、呼べるドラグハートの数は増える。今回は文句無しだ。かつてのように。あの時の友はいないが、新たに得た友が力を貸していた。
彼は熱く燃える心のままに相棒の名を叫ぶ。
「こい!!ガイギンガ!!オウギンガ!!バトガイ銀河!!ガイバーン!!ガイラオウ!!ガイNEXT!!ガイギンガ・ソウル!!オウギンガ・ゼロ!!リトルビッグホーン!!ザンテツビッグホーン!!クサリビッグホーン!!――そして・・・もう一度、歴史の果てから来てくれ!!バトライ武神!!」
世界、次元、歴史。あらゆるものを飛び越えて、無数のドラグハート達が今、この戦場に集結する——。
それはかつて以上の光景。本来は決して、同時に存在しえないはずの竜。
座から呼ばれた事により、彼に多くの者が力を貸した事により、彼の熱き叫びが届いたことにより起きた奇跡。
「さぁ、いくぞ!!みんな!!!—————勝負だ!!!」
竜達は空をゆく。
禁断の世界にも希望があると示すために。その道の“次”を示すために。
・・・
・・・・・・
・・・・・・・・・
「ああ」
英雄は息を吐き空をみる。
その姿は酷いものだった。
翼は折れ、尾は千切れ、最強の武器たる拳はひび割れている。全身、どこを見ても傷がない所は見当たらない。
だが、その表情(かお)には満足気な笑みが浮かんでいた。
彼の視線の先ではドギラゴン達とカルデア一行がドルマゲドン※と戦っていた。恐れがないわけではなく、けれど、恐怖をかみ殺して、その先の勝利を信じている。
きっと彼らは負けはしないだろう。
本当の事を言うならば、自分もそこへ駆け付けたい気もあった。だが彼は自身の状態を理解している。今の自分が行ったところで足手まといがせいぜいだろう。
だから地で、彼らの勝利を信じている。最後まで立ち上がるモノは、強いのだと知っている。——それが、いつか5人の友とみた景色だった。
「お前ももう休め、相棒。とっくに限界だろう?」
結局最後まで残ったのはコイツだった。彼が村で引き抜いた伝説の剣に宿った魂、異なる世界で勝利の名を冠した竜、一つの星そのもの。熱血星龍 ガイギンガ。
「まったく・・・相変わらずだったでござるなモルトよ。だがその熱血、変わっていなくて安心したぞ。それと——これは奴から渡された、いや「これからお前が託されるもの」だ。」
「これはドギラゴンの?一体どういう? っ!?」
その剣は、この世界に代々伝わるモノ。歴代の継承者の銘が刻まれた最強の切札。そして「この剣をモルトが託された姿」も英霊の座には存在する。ならば。
「体が!?」
「では拙者はここまでござる。なかなかに楽しかったぞ。モルト。いや、『爆剣士 グレンモルト剣』拙者の魂は・・・」
最後の言葉を終える前にギンガは光の粒となって世界に溶けた。けれど、
「——ああ。」
声とならなくとも、その魂には
「オレも久しぶりにオマエ達と戦えて嬉しかった!最高だったぜ!相棒!」
「わかってるさオマエ達の魂は、いつまでもオレと一緒だ!!!」
新たな、未来に受け取る剣を手に、英雄はもう一度、空を駆ける。