紺碧に満たされ、硝子は輝く

紺碧に満たされ、硝子は輝く

グラ×アズに目を焼かれた名無し


ダイスと安価で紡ぐ女冒険者達の物語 完結記念

(グラス×アズリア支援SS)


※注意!

こちらは上記スレに目を焼かれたヤツが

勝手な描写やらシーンやらを加えた代物となっております。

口調やら何やらがおかしくなっている!という箇所も

少なからず出てしまっております…。

それを御了承いただける方のみ、この下をご覧ください。





















―――きっとあの時が、運命の分岐点というものだったのでしょうね。

教会に敷かれた赤い絨毯を並んで歩いているとき、白い服を纏った女性は彼にそう溢した。



「あの、眼鏡を貸していただけませんでしょうか…」


いつの間にかどうしようもなくなったこの学園。

性に乱れきり、下衆な心がむき出しとなり、少なくない回数でそれらが振るわれ凌辱の場と化す。


ただ脱がすだけでなく、辱めを与えようとするこの借りもの競争もその1つ。

あの時彼がやった事と言えば、ほんの小さな悪あがき。

本来の競技ならそれがあってもおかしくない、ささやかなものが記された紙。それを混ぜただけ。

まさかそれを彼女が引き、それを借りるために来てくれるなんて。全く思いもよらなかった。


彼女の頼みに快く答え、彼は掛けていた眼鏡を渡す。

受け取った彼女は、一礼の上で感謝の言葉を述べ走り出す。


渡した直後じゃやっぱりボヤけるか。…替えの眼鏡、手元に用意しておけばよかった。

裸眼じゃ手元の教科書すらボヤけてしまう自分の目を恨みながらも、彼は予備の眼鏡を遠くの鞄から持ち出す。


ここが普通の学園だった頃なら、彼女はもっと真っ当に称えられる学生なはずだ。

あの年で冒険者と学生を両立させるなんて困難どころじゃない。

しかし今はどうだ。一緒にやってきた転校生達も巻き込まれる形で、恥辱と凌辱は勢いを増している。

眼鏡がなくとも、彼にはこの腐り切ったのほとんどが薄暗くボヤけているように見えたかもしれない。



しかし、眼鏡を返しに来てくれた時の彼女の顔は、きっと眼鏡がなくともはっきりと見えただろう。

再び感謝の言葉を届けに来てくれたそれは、彼が憧れていた微笑みだった。

それを自分に向けられたものだと認知したとき、彼の世界がくっきりと映るようになった、そんな感覚があった。



―――そうだね。きっとそこが、運命の分岐点だったんだろう。

それを聞いた黒い服を纏う青年もまた、隣に並んで歩く彼女にそう返した。


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わかってますわね?アズリアを、大勢の前で辱めてやりなさい!


傲慢で強欲なあの生徒会長がそう言わんばかりにサインを出した。

今のこの状況、あいつにとっては千載一遇の大チャンス。

手の届かなかったものを今こそ我が物にせんとする、包み隠すことさえ放棄した欲望が文字通り顔に出ていた。


…これからやろうとすることは極めて無謀だ。

所謂若者の特権なんて言葉ではとても許されない、分の悪すぎる賭けだ。


生徒会を敵に回すことは前提、むしろ学園中がほぼそうなると思った方がいい。

今のここじゃぁ、場合によっては命だって失いかねない。

それでも…


(そんな身勝手な理由でアズリアさんを辱めるお前にこそついていけないよ、俺は)

…これ以上彼女の笑顔を穢させたくないから、やるならとことんやってやる。


―――今がその時だ。

運命の言葉が聞こえた。自分の決断に背中を押してくれたような、そんな確信があった。

覚悟は決まった。さぁ、いこう。



「おほっ、ほおおおおおおおっ♡♡♡なんでっ、私がっ、こんなっ…」

「ひっ…あっ…いっ、いやああああっ!!見るなああああああっ!!」


…とはいえ、アレはやりすぎてしまったのではと思わなくもなかったり。


このところ恋愛にうつつを抜かしっぱなしな運命によって、また1人名無しから名有りとなった少年。

(本当に人間か?)と思われたことも少なくないとか、あるいは学年随一と不名誉(?)な噂すらたったかもしれない逸物の持ち主。

名はグラス。彼の物語は、そんな所から始まった。


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「こんなふざけたことを止めてもらおう。でないとスレイ、お前に報いを受けてもらうことになるぞ」


それはまさかの展開と呼ぶべきものだった。

欲望を笑みに浮かべた対戦相手を一蹴した彼女が見たのは、

同じ生徒会の一員に反旗を翻され、恥辱を止めようとしてくれる少年の姿だった。

その少年をはっきりと見つめたのはこれが初めてではない。

あの借りもの競争で、自分に快く眼鏡を渡してくれたあの時の…。


「グラス君のおかげで助かりました、本当にありがとうございます」

「い、いやっ、俺は生徒会役員としてと、当然の事をしたまでで…」



「あらあら…」


人の振り見て我が振り直せ、とは元の世界の言葉であるがよく言ったもの。

彼が彼女どんな思いを抱いているかなんて、相方からはもう一目瞭然。

なにせ自分がそうだったのだから。

とはいえ真の脅威が判明した以上、このままこの生暖かい光景を見つめるわけにはいかない。


「とにかくその淫魔とやらを倒しに行くわよ!」

ゴールは定まった、彼女の為に、一歩ずつ確実に進んでいかなくては!



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「あらあら、そんなおっきなモノをぶら下げちゃってまあ…。

貴女、ずっと前から彼女の事が好きでしたものね?」


率直に言ってよく服が破けないなと、あるいはどう隠していたんだ?と、そんな感想を抱かれるに違いない逸品だった。

太さ・大きさ・そして脈動。いずれもその童顔とは結び付きようがない代物。

テントどころか灯台、むしろ王城を張っていると表現してもまだ生易しいほどの膨れ上がり。

その手の調教師が持とうものなら、百年は名を残す女殺しとして語られる…否、突き続けられただろうそれがあった。


「言いたいことはそれだけか?

俺の目が黒い内はアズリアに手は出させんぞ」

顔を赤らめ、ブツをMAXに勃たせながらも彼は堕ちた元生徒会長をけん制する。

彼の想いが思わぬ形で本人に伝わってしまったが、それはそれでこれはこれだ。

こいつの言う通り見張り切れるわけじゃない、それでも目が届く限りは自分にできる事をやり切る。

そうでない時でも、黒幕の情報を集めてここと彼女を解放する手がかりにしてみせる。

必ずだ。



(グラスさんが私を?)

冒険者の中で想い人がいるというケースは少ないながらも零ではない。自分の相方なんてまさにそれだ。

でもそれは物語を読み終えたらその余韻に浸るように、遠い世界の事なんだとばかり思っていた。

だから、そのケースに自分が含まれているなんて、考えすらしなかった。だって、


(…でも、私の様な穢れた女じゃあ、釣り合わないですよ……)

こんな体じゃ、穢れた女では役者不足にもほどがあるのだから。



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「いやっ、こんな道端でっ、入れないでぇぇぇぇっ!!」

―――ほらね。


(…今日もいっぱい中に出されちゃったな…)

それは諦観だった。消えない刻印を消す為に始めた彼女の旅。

そこでたどった道に自身の喘ぎ声が聞こえない場所はなく、

愛液と精液の散らばっていない箇所は見つからず、幾多の調教は確実に彼女の身と心を蝕み続けている。

このまま歩き続けていれば、刻印が消える前に快楽に呑まれ切ってしまうのではないか。


(鈴さんにとっての勇君の様な、私がどれだけ穢されても支えてくれるような人なんて…)

そうでなくとも元生徒会長からあの動画を取り戻すことが出来なければ、最悪さらに拡散されてしまったら…。

彼女の受けた恥辱が、彼女の心を負の螺旋へと誘い続けている。


(…居るわけないですよね…)

今だって抵抗を許されずに犯されるだけなのだから。

今はただ、黒幕の元へたどり着く機会を待つか作るのみ。自分にできること何てそれしかない。

…一瞬浮かんだ彼の顔は、瞬く間に彼女の絶望の中へと沈んでいった。



―――それでも、過酷だった運命はこの時から、ほんのちょっとだけ優しくなり始めた。



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「グラスと言う男は信用に値すると思っておる」

そう思っているのは自分だけではなかった。彼女の相方は納得いくようにその言葉を聞いた。


「…以上がこの学園を支配している理事長の情報だ」

「淫魔の中でも始祖直系、と来たか、正面衝突はあまりしたくないのう」

そんな彼が黒幕の情報を集めたと聞いたとき、相方が真っ先に思い浮かんだのはそれを喜び感謝する彼女の姿。

その彼の前でしてしまったのだから、羞恥心と罪悪感は大きいだろう。


「み、みんなが真面目に話してるときにす、すみませんっ……」

「だ、大丈夫だよ、アズリア、俺達がやっておくから…」

「い、いえっ、私がやらかしてしまったので、私一人でやっておきますよっ…」


(最近は堪えられるようになってきたのにみんなの前でやっちゃって落ち込んでるなあ、アズリア。)

調教と快楽によって彼女のお漏らしは悪化してしまっている。

今回はマオさんが直ぐにフォローしてくれたけど、後ろめたくなってしまうのは無理もない。


(ここでフォローすべきなのは相方のわたし…)

この学園に来る前の私ならそうしただろう、でも…


(…いや、きっと違うな。アズリアに手を差し伸べるべきなのは…)

その役目は彼に違いない。女の感がそう告げているもの、ならばその感に従うべきよね。


(よし、わたしが一肌脱ぎますか)

相方は彼に彼女の事を任せんが為に先陣を切った。

文句の一声が出そうになった人がいたけれど、なんとかなって一安心。



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「本当にすみません…いつもいつも肝心な時に漏らしてっばかりで…」

「君だって元々そうだってわけではないのだろう、悪いのは君の身体を壊したシトリス達のはずだ」

何度も詫びながら頭を下げる彼女。

こうなったのは彼女の望みのはずがないというのに、どうして運命というやつは彼女にばかり…。

今は制服のおかげでほとんど見えないけど、消えない刻印にしたってそうだ。


…そんな彼女の心をなんとか慰めたいとは思い、落ち着く目的で入った部屋は。

まさか自分がそれ以上に動揺することになるなんて。



「グラスさんの部屋に入っても大丈夫なんですか、その…」

落ち着いて私。いや本当に。自分の顔が熱くなっているのが触れなくても分かってしまう。

自分のうっかりを彼らにフォローしてもらっただけじゃ飽き足らず、ここであわあわしてしまってどうするんですか。



(女子を自分の部屋に入れるなんては、初めてだっ…、しかも、アズリアさんをっ……)

「お、俺はぜっ、ぜんぜん大丈夫だが、アズリアさんこそそのっ、男の部屋になんか入って大丈夫、ですか…」

落ち着け自分。いや本当に。大丈夫の意味を調べてこい。もう動揺が顔と言葉に現れすぎている。

あの元生徒会長の事をどうこう言ってられないじゃないか。


そんな入室直後ガチガチなお二人でしたが、なんとか落ち着きましたとさ。


「グラスさんはしっかりと相手の情報を探って来てくれたのに私はまたお漏らししちゃって…

同じ学園の人としても恥ずかしいですっ…」

「いや、この学園の出身者で既に冒険者として結果を出している君はむしろ学園の誇りさ」

「そう、なんですかね……」

「そうだよ、だからそんなに自分を卑下しないでもっと胸を張って欲しいな。

その…君が悲痛な表情だとが俺も見ていて胸が痛むし…」

ここの誇りなんて、自分が言われるとは思わなかった。

胸を張ってほしいと、背中を押してくれる人がいるなんて思わなかった。

自分の表情で、男性の誰かの胸が痛むなんて思わなかった。


「グラスさんは優しいんですね…そんな事言われちゃったなら」

…そして、自分の心がこんなに高鳴りし始めるなんて、思ってもみなかった。

ここまで言われたのなら、やっぱりそれに答えてみせたい。


「私ももう少し、頑張ってみます」

きっと今までよりも出来る、そんな確信があるから。


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「そうか、君達が理事長の部屋を…やっぱり君は凄いよ、アズリア」

「え、えへへっ…グラスさんに褒められて、嬉しい、です……」

もう言葉を聞いているだけで相方はニヤニヤしてしまう。

気を利かせた甲斐があって、二人の距離が少しずつ縮まっている。

苦労と受難を浴び続けた彼女にだって、人並の幸せを得る資格はあるに決まっている。


「わたしと協力しての結果…だけど別にいっか♪」

さぁ…人の恋路を邪魔しそうな奴らは、とっとと追い出しちゃいましょう!


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「アズリアじゃないか、先生の指導を受けに来たのか、よしよし、偉いぞ」

考えてみれば当然の事だったのに、なぜこう対面するまで考慮の外だったのか。

(元)生徒会長だけじゃない、自らの教育内容と相対する属性を得意とする教師までも腐り切っていた。

黒幕の傘下だったというのなら、その指導を受けていた彼女がどうなっていたかなんて想像に容易いじゃないか。


「その必要はありませんよ、アズリアは俺が面倒を見続けますから」

だがそれもここまでだ、自分の発した言葉には責任が伴う。

これ以上、こんな学園の毒牙に彼女たちを苦しませるわけにはいかない!



「私達は先生のものにも、理事長のものにもなるつもりはありませんっ、学園を元に戻してもらいます」

面倒を見続ける、その言葉の意味をまだ深く考えようとしてはいけない。

少なくともら、自分の顔がリンゴより赤くなることまではわかってしまったから。

まずは黒幕たちを倒して、私の動画とこの学園を解放する。

気づかぬうちに芽吹き始めたかもしれない想いと向き合うのは、そこからです!



「2人ともシトリス達の前に苦しんでる…」

卑劣な手で攻め手を欠けさせるだけでなく、彼女の相方も怪しげな魔法をかけられた。

黒幕が直にやるようなものだ、その効果と卑劣さについては考えるまでもない。


―――今がその時だ。

また運命の言葉が聞こえた。ここで手をこまねいていれば、彼女にどうしようもない絶望が降り注ぐ可能性があると。

ならば自分のやるべき事はなんだ?唱えるべきものは何か?難易度?効果が発揮しきれるか分からない?

知ったことか、決断したのなら果たすまで。自分がこの学園で、この人生で鍛え上げた魔法はまさに―――


「ここで俺が支えずしてどうすると言うのか!」

―――この時の為じゃないか!!!



「あれ、何か身体が楽になってる…」

「バ、バカなっ、我の呪いがこんなにも容易くっ……」

「グラス君には敵わないなあっ……。どれだけお礼をしても足りないよ、もう…」

ここで彼が施してくれた回復術は、この決戦において起死回生と呼ぶにふさわしい力だった。

それこそ学園の先生たちでもこれほどの力を発揮できるか分からないほどだっただろう。

その原動力とは何だったのか。


「あんたっ、いつの間にそれほどの、魔法を会得していたと言うのっ……」

それは彼が今までに経験したことのない感覚だった。文字通り自分の魔力が、成せる事が手に取るようにわかる。

あれ程の効果を発揮した回復魔法、それに動揺した奴らの隙をそのままつけるほどに。

膝をついた、欲望むき出しだった女が負け惜しみの如く吠える。

なら自分も堂々と欲望のままに答えればいい。


「俺はただ、どうしても共に並び立ちたくて支えたかった人がいただけさ、

だからここまで強くなれた」

無属性の魔法の難易度がどれほどのものか、学園のみならず魔法を知るものにとって知らない者はいない。

それを承知で彼はこの属性を選び、学び、鍛え上げた。それこそ「お得意の」と称されるほどに。

その原動力はたった一つの純粋な欲望…。


「えっ、それって……」

元生徒会長から語られる形で知ってしまった、彼の欲望。

学園の誇りと言ってくれてうれしかった。自分にかけられた術を解いてくれた時は、どんな感謝でも足りないと思った。

彼と出会い、何度も助けてくれ、そしてその心のままの言葉を聞き、ついに自分も自覚した。

己が彼に抱いたものもまた、全く同じ純粋な欲望…。


―――愛である、と。



「これで、最後だ、シトリスっ!」

「この我がっ、こんな奴らにっ、負けるなどぉぉぉ…」

…その正しき欲望の前に、邪魔者が吹っ飛ばされるのは世の常でもある。

そんな奴の悪あがきも、控えていた冒険者たちのおかげで露と消えた。

もし他冒険者たちが出てこざるを得なかった場合、彼女のビデオがどうなっていたか。

前回のように、無事な解決に至らなかったかは定かではない。


ただ少なくとも今回は、彼の行動が大活躍と呼ばれるにふさわしく、

彼女にさらなる悲劇が降りかかることを防げた大きな要因であったことは自明の理であった。



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「それよりアズリア、グラスとはどうなったのよ!」

「そ、それはですね…」

治安の悪かった学園も、これでようやく落ち着いてくれる。



「こ、今度2人で出かける事になったんです!」

これが今までの依頼なんて目じゃない、どれほどの難易度だったか。

もう口から出るのは言葉とすら言い難いほどのちぐはぐ、目を見つめると顔が蒸発しかねない熱さになっちゃう。

彼と顔を合わせられないながらも、やっとの想いで誘いの言葉を出せたときは、

答えが届くまで正に時間が止まったような感覚だった。

だから、その言葉に頷いてくれたと気づいたときは、もう自分がどんな表情だったのかすら分からなくなっちゃった。

でも、それが所謂舞い上がるというものであったこと。今までない幸福に満たされていたことははっきりと覚えている。



「へ~、良かったじゃないこの世界にグラスほどの良い男なんてまずいないんだし

絶対に逃しちゃ駄目よ!」

「鈴さんこそっ!勇君と離れてるうちに他の人に取られないように気を付けて下さいよ!」

「言われるまでもないわよ!勇は、どんな遠くにいても

最後はわたしの所に戻ってきてくれるって確信してるもの!」

相方とこんな風に同じ話題を笑顔で話せるなんて、何より自分がそうなれるなんて思いもよらなかった。

今の私はまた、彼に見せられるようないい笑顔になれているといいな。


―――運命は時に厳しく、時に優しく。それに導かれるがごとく彼女は、幸せというものを手にできたのだ。



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「いや、大丈夫だよ、アズリア、マオさんっ! 俺が支えますっ!」

聞きたくてたまらない声が届いた

ずっとずっと待っていた、来てくれた。

あふれ出した涙は留まる事を知らない。


「グラス君っ、やっぱり、来てくれたっ……」

どれほどの快楽があったのか、どれだけの恥辱にまみれたか。その全てに耐えられたのは、

愛する彼が来てくれる。その希望にすがったから。

そしてそれは果たされた。彼女のヒーローは今ここに。

さぁ、反撃の時だ。



そしてその光景を、堕ちるところまで堕ちた元生徒会長も眺めていた。

どれだけ欲しても、手を尽くしても、結局自分の手から零れ落ちてしまう、彼女の全てを。


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「これで、グラスと私の立場を入れ替えれば、アズリアをこの手に……」

もう手段なんて選んでいられない。恥辱と屈辱、色欲でもなお足りないというのなら

外道に堕ちてでも手に入れてやる。



「私は貴方をあの裏切り眼鏡の暴虐から助けだして」

「今もこうして2人で愛を確かめ合ってるじゃないですか」

そう、そうしてあの学園と彼女を救った。そうなっているのに


「なのにどうして……」

そんな胸が引き裂けそうな目をしているの?


「スレイさんっ、もうやめましょうよ…。…違うって、私にはわかるんです」

―――どうしてだろう、どうしてこうも自分は手に入れられないのか。

報いなのか、裁きなのか、はたまた罰なのか。


文字通り悪魔に…否。始祖に何もかもを売り渡したのに。

この先の未来を、可能性を、尊厳を。そしてやっと、この魔法を手に入れたのに。

彼女から愛し合ったという記憶を奪い、自分のものにできればそれでよかった。

あの男に向けられたすべての感情が自分に向き、思い描いたものが現実となり、身も心も満たされる。


そう思っていたのに。


「本当は違うんだって、何となくですけど…」


こうまで運命は、私の望みの一つをも叶えないのか。



「スレイさんっ、本当の事を、教えてくださいっ、私は、どうしても知りたいんですっ!」


その泣き叫ぶような顔と言葉に宿っていたものは、快楽に耐えながらのものだけではない。

引き裂かれる魂を繋ぎとめんばかりに、何をもってしても喪いたくない…正に鬼気迫らん程の感情。

決して自分には向けられていない想いがあった。


「アズリアさんはどうしてそこまでっ…!」


分からない。分かりたくない。

認められない。認めたくない。


「このまま私と、愛し合うと言うのは、いけないのですか……」


これ以上苦しまなくてもいいのに、ここで全てが終わるまで快楽を共に分かち合う。もはやそれだけでいいのに。

そんなみっともない心をむき出しにした自分の名を溢しながらも、彼女は言葉を紡ぐ。



「私にはもう、心に決めた人がいますから、その人や私の大切な仲間の為に、戻らなきゃ」


彼との記憶はないはずなのに、それは自分に変わったはずなのに。

どんなに汚されようと心まで奪うことはできない、本当の愛の前には通用しない。

そんな甘ったるい物語のような光景を目の前で叩きつけられるとは。


こうまで言葉にされてしまっては、もう認めるしかないじゃない。

彼女の心は、すでに彼が優しく包み込んでいるのだと。

だから…


「―――スレイさんだって、その内の一人なんですよ……」


…ここまでやった自分にそんな言葉を、そんな優しい顔で向けてくれるなんて、思いもよらなかった。




「散々あなたを雌豚扱いしてイかせ続けて来た、私の事をまだそこまで…」


―――これが最後の機会だ。

運命の言葉が聞こえた。なぜか分からないながらも、脳裏によぎるような、そんな確信があった。


薄ら笑いすら込み上げてくる。

さんざんあの男を露骨にし、私の望みと未来を殴りつけ、

挙句の果てには力を持たぬ淫魔にも劣る身へと追いやった運命が。

最後の最後には私にまで機会を与えようというの?


―――上等よ。


「貴方は凄いんだが大馬鹿者なんだか分かりませんわね…」



さぁ、覚悟を決めなさい。―――今がその時よ。



「…分かりましたわ」


小さくそう答え、彼女から思い出を奪っていた魔法を解いてあげる。

その裏で彼女の拘束を解きながら、続けて転移魔法を発動させる。

私に責めを任せっきりで、次の調教の準備をのこのこやっていた連中も流石に気づいたようだが、もう遅い。

送り届ける場所は、彼女がどうやってここに来たか、そして始祖がどこにいるかが分かっている以上直ぐに定まった。

普通は転移なんて大魔法を使えるはずもないが、そこは始祖から与えられた魔法の源…アイツの魔力を使えばいい。

もうその魔法は使えなくなるだろうし、1人分の片道になるがそれだけで十二分よ。


…この魔法が発動しきった後に、自分に何が起こるかなんて言うまでもない。

彼女に向けられるはずだった恥辱がこちらに向かうだけ。

あまりにも多くの罪と欲望を背負った身には当然の末路。

それでも…


「私の負けです、せいぜいあの眼鏡と幸せになりなさいな」


思った通りに何かを叫びながら手を伸ばす彼女を光が包みこむ。

これでいい。あの運命に従う形になったのは癪だが、

あんなに必死に自分を見てくれた彼女を見られたのなら、助けられたのなら悪く無い。


―――私にここまでさせたんですもの、彼女を幸せにさせなきゃ許さないわよ。

決して届かない、最後まで勝てなかったあの男への言葉が、ほんのちょっぴり漏れてしまった。



「あの、私は、その……」

「大丈夫ですよ、スレイさん。私は貴方の事を信じてますから…」

自分のせいでどんな目に合ってきたのか、どんなに穢されてしまったのか。

それなのに、こんな風に思ってくれるなんて…


「その、私にはグラス君がいるから貴方の想いには答えることは出来ませんけど……」

「あ、アズリアさあ~んっ!!」

私にはこれで十分。これ以上を望んではいけない。

これ以上の望みなんてあるものか。

これがあるのなら、この先の贖罪の道を歩んでいける。

そして、いつかそれが果たされた時は、今度こそ彼女と…



「アズリアには悪いが彼女のやった事はとても重い事だからな」

「大丈夫ですよ。私もスレイさんも、分かってますから」

本当の友達になれる、そうお互いに信じたいから。




こうしてアズリアという少女と、それを取り巻く少年少女の物語は一つの区切りをつけた。

この先彼女にどんな未来が訪れるのか、それは運命…ダイスの神様でさえ知る由もない。

例えその道が閉ざされることがないとしても、どれだけの苦難と欲望が待ち構えているのか。

彼女に刻まれた数多の刻印にと、調教され続けた肉体がどれほどの快楽に呑まれるのか。




それでも、今ここで分かっている事もある。


「…大丈夫さ、アズリア。君なら―――いや、」


ほんのちょっぴりの不安を抱いた彼女の手を、温かい手が握る。

顔を赤らめながらも見つめてくれる、優しい笑顔の少年の言葉が続く。


「―――俺たちなら、きっと。」

少女の隣には、己の全てを受け止め、染め上げ、支え、そして満たしてくれる。

運命が授けてくれて、彼女と彼が繋ぎ止めた…そんなかけがえのない縁が結ばれている事が。




―――そしてこの先の運命。


決して遠くない時の先、刻印のなくなった女性、アズリアが純白のドレスを纏い、

祝福の鐘の元に誓いを立て、黒いスーツを着た青年、グラスと唇を重ねる。そんな未来が。



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