・素直に言えない姉妹

・素直に言えない姉妹



「それにしても……どこ行ったんだろう……」


兄が突然姿を消して1ヶ月半ほどが経とうとしていた。

別になかむつまじい兄弟とか、そういうほどではなかった。たまに喧嘩するし、一緒にゲームで遊んだりもする、ごく普通の仲だった。それでも今までずっと、いることが“普通”だった人間がある日突然いなくなった。そんな現象に直面して困惑する他なかった。


「あの変なボタンのせいだったのかな……」


おぼろげにしか覚えていないけど、側面に「押したらウマ娘になんとかかんとか」みたいなことが書いてあるボタンだった。

あのボタンはしばらくして失踪事件の調査ということで警察に回収され、今は手元に無い。


「考えててもしょうがないのかな……掲示板でも見よう……」


…あにまん掲示板。ぼくがよく見るウマ娘カテゴリは先日はなんか大荒れしていたけど、今は落ち着いた様子だ。何か面白いスレがないか探すけど、朝で人も少ないからか興味をそそられるようなものはなかった。


「デイリー育成でもしようかな……ん……?」


寝転がった状態から体を起こすと、目の前には謎の物体があった。赤いボタンのついたスイッチ状のもので、側面には文字が書いてある。


「『ウマ娘になれる代わりにあにまん民と強制的にエッチさせられるボタン』………?これって、もしかして……」


そう、兄が遺していった変なボタンと同じものではないだろうか。


「それにしても強制的にエッチって……」


仮に兄がこれを押して行方不明になったのなら、ウマ娘に変化して誰とも知らないあにまん民のところへ送られ、そして強制的に…ということになるはず。


「どうしよう……」


兄が消えた手がかりを掴みたい。せめて、無事なのかだけでも確認してみたい。一人残される妹が気がかりではあるけど…。


「押して、みよう」


ぼくはそのボタンに人差し指を触れ、押下した。すると焼き付くような熱が体を駆け上がり、床にうずくまる。


「なに、これ……?!」


視界が霞んで、意識が薄れる。体が透明になっていくような、経験したことのない感覚に包まれる。


「ぐ…………ぅ…………」


そして目の前は、暗闇になった。





次に気が付いた時、目の前には冴えない感じの男性がいた。


「……なあ、もしかして変な名前のボタン押したりしてないか?ウマ娘になれる代わりに、あにまん民とセックスするみたいな」


「それが……何か……?」


かわいらしい、女の子の声がする。今の言葉を発したのは確かにぼくのはずで、まるでぼくが女の子になったようで。


「やっぱりそうだよな、俺のとこには君と同じくウマ娘に変化して来た子がいてさ」


「…………」


この人の言葉を信用するなら、今のぼくはウマ娘になっている。

強制的にエッチ、というのがどうなのかわからないけど、ここへ送られたということはこの男はあにまん民で……どんな変態的なことをされるかわかったものではない。

………だから。


「お、おい!?」


「ヤられる前に……ヤってやる……」


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「はぁ…あいついないと暇だな」


ある日突然現れた、黒髪ロングのウマ娘。その正体はウマ娘になる代わりにあにまんとセックスする、などというふざけたボタンを押した男の成れの果てであり。

女に飢えていた俺は元男ということを気にも止めず彼女で童貞を卒業し、そして蹴飛ばされて死にかけた。あれからもう1ヶ月半近くが経って、だいぶあいつとの生活にも慣れてきた。だからこそ、一人で何もしていないと暇でしょうがない。


「にしても、自分から買い出ししに行くなんてどういう風の吹き回しだろうな」


普段は俺が毎回一人で買い出しに行っていたのだが、今日はなぜか「私がやります」と出かけて行ったのだ。


「妙なことしでかさないといいんだが……うおっ、この光は…!?」


目の前が強く光って目を瞑る。そして次に目を開けると、そこにはトレセン学園の半袖服を着た小柄なウマ娘がいて。

あれ、この光景身に覚えがあるぞ…?


「……なあ、もしかして変な名前のボタン押したりしてないか?ウマ娘になれる代わりに、あにまん民とセックスするみたいな」


「それが……何か……?」


思った通り、あいつと全く同じだ。この子も例のボタンを押した結果、あにまん民である俺のところに飛ばされたらしい。


「やっぱりそうだよな、俺のとこには君と同じくウマ娘に変化して来た子がいてさ」


「…………」


相手は何か考え込み始めたので、観察してみることにした。

髪は濃い青色のショートボブで、毛色で言えば青鹿毛か青毛だろうか。頭頂には当然のごとく馬の耳が付いており、目はあいつと同じ空色のジトッとした感じの目で、気だるげな印象がある。心なしか、顔つきも似ている気がする。

ただし、首から下はあまり似ていない。巨乳でそこそこ長身なあいつとは対照的に身長が低く胸も小さいロリ体型だ。

そうやって目の前の少女を品評していると、突然彼女に押されて背中が床と衝突する。


「お、おい!?」


「ヤられる前に……ヤってやる……」


どういうことだと思って黙っていると、股ぐらを掴まれる。


「ちょっと待てよ!」


「出して……出せ」


「おい、お前も男だったならソレがデリケートだってことぐらい知ってるだろ?!」


そういって引き剥がすと、少し落ち着いたのか無言でいたたまれなさそうにこちらを見ている。


「一体何がどうしたってんだ」


「あにまん民は変態で……ケダモノだから……無理やり変なことされるくらいなら……ぼくの方からと思って……」


「お前はあにまん民をなんだと思ってんだよ」


変態でケダモノなのは否定しない…が、女と見るや否や飛び掛かるほど見境なしではない。

…いや、それも自分に限っては否定しきれないけども。

そうこうしているうちに玄関の鍵を開ける音が聞こえ、黒鹿毛のウマ娘が顔を見せる。


「ただいま………誰ですかその子」


「お前と同じだよ、突然俺の部屋にポップしてきた」


「ふぅん、そうですか。……あ、冷蔵庫にケーキ入れておきますが私はダイエット中なので。消費期限前に食べてくださいよ」


「へいへい」


食べもしないのになんで買ったんだ、というのは無粋だろう。多分俺のために買ってきたんだろうから。

ただ、別に俺の誕生日とかなんかの記念日でもないのになんでだろうとは思うが。


「それで、その子はどうするんですか?」


「どうする、ねぇ……」


青鹿毛の子を見やる。放り出すわけにも行かないし、うちでしばらく面倒を見るしかないだろう。


「お前の部屋のベッド、二人で寝られるか?」


「寝られなくはないですが……ウマ娘にならなかったら関わりさえなかった他人かもしれないのに、一緒に寝るというのは…」


「他人なのに一緒に寝たのは俺らも一緒だろ」


「蹴飛ばしますよ?」


「ごめん、悪かったから脚を構えるのはやめろ。お前が言うとシャレにならん」


どうやらシモの話題はお気に召さなかったらしい。


「はぁ…全く。それでは、しばらくここで暮らすことになりますが大丈夫ですか?」


「うん……お姉さん…他人な気がしないから……」


「そう、ですか?よくわかりませんが、まあいいでしょう」


こうして、俺の家にはさらに一人同居メンバーが増えた。






その後数日間は何事もなく平穏に過ごせた。強いて言えば新入りに配慮していたらうまぴょい(隠喩)のタイミングを見失って溜まる一方だったぐらい。

しかし、その時は突然訪れた。俺が適当にネットサーフィンしていると、顔を赤らめ息を荒くする青鹿毛ウマ娘を連れてあいつが部屋に入ってきた。


「からだ……あつい……」


「どうしたんだ、風邪でも引いたのか?」


「いえ、私の時はすぐに済ませたので起きなかったみたいですが……この子は放置状態だったせいで、その…強制的に、エッチ…の効果が出てきたみたいです」


そういえばそうだった。シなかったらそんな風になるのか。


「それで、俺がその子とするってことか?」


「はい、あとついでに聞いたんですが…この子、ウマ娘になる前は私の弟だったみたいです」


「………マジで?」


本当なら、後から家族が同じあにまん民のところに送られてきたのか。偶然だろうか、それとも必然だろうか。


「はい、なんとなくお互い他人な気がしなくて確かめあったんです。そしたら名前と家族構成、その他諸々が一致していて」


「ん……不安だから……にい、姉ちゃんが側にいてほしい……」


「ということはつまり…姉妹丼ってことか?」


現実ではまず味わえないであろうシチュの一つ、姉妹丼。やはり憧れるものがあるし、是非とも一回やってみたいと思ったのだが。


「何を言ってるんですか、私は変なマネしないか見張るだけですよ」


「ええー……まあいいや、そうならさっさと済ませようか」


「乱暴にしたら……蹴るから……」


「……うーん、やっぱお前らは姉妹だわ」


嫌なとこで共通点見つけたな、と思いつつも妹の方をベッドまで連れて服に手を掛けた。





「はぁ…はぁ……なあ、お前見てるだけって言ってなかったか?」


妹の方の初めてが済んだら、服を脱ぎ捨て蕩けた顔の姉がベッドになだれ込んできて。結局連戦となったわけだ。


「だって、その……この子に変なものは見せれないと思って…ここ数日我慢してたので…」


「まあそれは俺もだけどさ」


実際溜まってたし。


「きょうだいが……あんな顔するとこ……初めて見た……」


妹にそう言われるとあいつは顔を赤らめ、その口を手で塞ぐ。


「言わなくていいんです、そういうことは…!」


「…ははっ、なんか微笑ましいわ」


「もう、あなたまで!」


1ヶ月半前までは常に静かだった我が家だが、これから先は騒がしくなりそうだ。ただし不快とかそういうわけではなく、本当にしみじみとそう感じるのだった。



青鹿毛無口ちゃん


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