・素直になれないヒト
「さてと、デイリー終わらせたしウマカテでも見るか」
俺は平均的である種模範的なオタク。彼女いない歴=年齢で女性経験ナシ、魔法使いまであと5年といったところ。
いつも通り代わり映えのしない仕事から帰ってきたら風呂に入ってあにまんを見ながら飯を食い、そしてウマ娘のデイリーをやるのがルーティーンだ。
「おっ、今日シングレの更新日か…マイルCS?見に行くか」
ウマカテに最新話感想スレを発見し、ヤンジャンアプリを開こうとしたその時。
「きゃっっ!?」
目の前にまばゆい光。思わず目を瞑ると女の子の驚く声が聞こえる。何が起きてるんだ。いやマジで何事?
「いたた……ここは………」
光が消えて現れたのは、青を基調とした制服……そう、トレセン学園の冬服を着たウマ耳の女の子……ウマ娘だ。
「えっ、ウマ娘?」
俺は目を疑う。寝落ちして夢でも見てるんじゃなかろうか。目の前に突如としてウマ娘が現れるなんて、夢じゃなかったらなんだと言うんだ。
「あれ…ぼ、私…本当にウマ娘に?成功…?!」
そのウマ娘は自分の身体を見回して、何かを確認している様子だ。俺は黙ってその様子を見ていたが、黙ったままでいるのも不安になって口を開く。
「あの……何が?」
「えっ……ああ。そういうこと、でしたね……ちっ…」
え、今俺舌打ちされた?初対面なのに。
いや、確かにイケメンではないのは自覚してるけど舌打ちは酷くない?
「えっと…説明、して…くれないかな…?」
「はい……私、押したんです。ボタンを」
「ボタン?」
「『ウマ娘になれる代わりにあにまん民と強制的にエッチさせられるボタン』です」
今なんかとんでもないワードが聞こえた気がするんだが。聞き間違いじゃないよな。
「ウマ娘になれる代わりに……なんて?」
「二度も言わせないでください!……ウマ娘になれる代わりに、あにまん民と強制的にエッチさせられるボタンです」
ウマ娘になれる代わりに、あにまん民と…セックスしないといけないボタン。
「なんだそれ」
「とにかく、そういうボタンがあったんです。それで……可愛くて強い美少女になれるならって押したんです」
つまり、そのボタンを押して彼女(?)はウマ娘になり。そしてあにまん民である俺の元に飛ばされてきて、当然その後は。
「じゃあつまり、そういうことだよな?」
確かめるように聞くと、彼女は目をそらしつつもうなずく。
ここで改めて目の前のウマ娘を見る。
髪は艶のある美しい黒鹿毛のロングストレートで、目は美しい空色の瞳。イメージとしては…あえて言うなら、エイシンフラッシュをロングヘアにして前髪をぱっつんの姫カットにした感じが近いだろうか。
身長は床に座っているから詳しくはわからないが、俺より少し低いくらい。
そして胸は服の上からでもはっきりとわかるサイズで、最低でもEカップはありそうだ。
……ここを逃したら、こんな上玉を相手にできることなんてまずないだろう。例え元男だとしても、俺の答えは決まっていた。
「じゃあ……しようか」
俺はそのウマ娘を、床に押し倒した。
「はぁ……ふぅ……」
激しい運動の後に不足した酸素を呼吸で取り入れながら、一仕事終えたモノを引き抜く。
父さん、母さん、俺はついに成し遂げました。
ようやく卒業したという達成感を、出した後の満足感と共に噛み締めていると。
「死んでくださいこの変態」
「お゛ご゛っ゛?!」
腹部に強い圧迫感を感じた後、体が宙に浮き、そして壁に叩きつけられる。
「ごはっ゛…………お゛っ………」
内臓が傷付いたのか、血の臭いが腹の底から上がってくるのを感じる。
「じ、じぬぅ……っ゛…」
酸欠で苦しい。マヂで死にそう。
目の前を何かが光を遮るが、何かもわからない。視界も薄れてきたのだ。
俺、マジで死ぬの?せっかくDT脱したのに?…そんなのってなくない?
そうして脳内で抗議するうちに意識も薄れてくる。
おやすみなさい、俺。
「…………はっ!?」
目が覚める。うん、やっぱ夢だったのか。
…それにしては体中に鈍い痛みを感じるなあ。なんか口内も鉄っぽい味がするなあ。
「あら、死んでなかったんですね」
「えっ」
聞き覚えのある少女の声が聞こえて、振り向くと黒鹿毛のウマ娘が立っていた。
「……夢、じゃ…なかった」
「私としてはいっそ夢だった方が良かったんですけどね。ウマ娘になった代償とは言え、あなたみたいなパッとしない人に純潔を捧げるなんて。しかもあにまん民」
「待てよ、じゃあ…蹴飛ばしたのも、夢じゃない…」
今になって記憶がはっきりしてきた。行為を終えた直後、俺は彼女に蹴飛ばされて壁に叩きつけられたのだ。
「ウマ娘の脚力で、蹴るな……こ、殺す気か……」
「あにまん民ごときがウマ娘で童貞を卒業する代償としては妥当ではありませんか?」
「う…うるさい…」
実際、あの極上の体験を思えば蹴られるくらいは仕方ないかも……いや、やっぱ死にかけたのはいくらなんでも納得できない。
「まあ良いです。死ななかったのなら、私をキズ物にした責任を取ってもらうことにします」
「責任…?まさか結婚…」
正直、美少女のウマ娘と言ってもこんな口の悪い相手は嫌なのだが。
「勘違いしないでください、私が一人立ちするまで居候させてもらうだけです」
「それでもちょっと…」
「あなたに拒否権があるとでも?」
そう言って彼女はスマホをチラリと見やる。……何するつもりだ。ろくなことしなさそうなのは想像できるが。
「はあ…わかったよ。でもここは俺の家だし、ある程度俺の言うことには従ってもらうからな」
「そうですか。それでは、よろしくお願いします」
───こうして、元男のウマ娘との二人暮らしが始まった。