純鉄出戻りマスター
y夢小説感がつよいマスターデュエルランクマッチ ダイヤ帯
マスターはは勝てない日が続いている。
シュライグはそんなマスターの愚痴だったりを聞いてやるのが日課となっていた。
頭を抱えているマスターを気遣えば相剣への恨み言、苦手なアンワエルドの増加への嘆きが聞こえた。そのたびにシュライグは気やすめだったり励ましの言葉だったりを掛けていた。その言葉を聞いてマスターはもう一度ランクマッチに臨み、敗退して帰ってくる。そんな日々をシュライグは過ごしていた。
しかし、シュライグはマスターがそんな状況にもかかわらず胸の内に喜びにも似た仄暗い感情が沸き上がるのを感じていた。
あまりいい傾向ではない。これではまるでマスターが敗退するのを望んでいるかのようだ。だが勝てない日々が続くマスターに対してそんな感情を見せてはならない。シュライグは純粋にマスターの勝利を願っている。それは確かなはずだった。
「ちょっとオルフェゴール調子悪くって……もっかい鉄獣でチャレンジしてみたいと思うんだよ」
ダイヤ5まで落っこちたマスターから、再度共に戦うよう要請されるまでは。
その時の感情をシュライグはあまりよく理解できていない。その要請をシュライグは咄嗟に突っぱねてしまったのだ。精霊なのだから忙しいわけでもない。強さに懸念があるわけでもない。断る理由はないはずだ。
シュライグが咄嗟に断ったとき、マスターは残念がるわけでもなくシュライグに対し個人的に話がしたいと持ち掛けた。
シュライグはそれも拒否しようとする。
「別に特段話すことはないだろう。君はオルフェゴールでランクマッチに挑戦しているはずだ。今更俺たちなど……」
「……やっぱこのごろのシュライグなんかおかしいよね」
いきなりおかしいと言われれば誰だって傷つくだろう。シュライグもそうだった。
「どういう意味だ」
「なーんか最近怒りっぽいって言うか……拗ねてる?って言うか……俺なんかした?」
「別に拗ねてるわけじゃない……というかおかしいってなんだ。俺はいつも通りだ」
マスターは訝しげにシュライグの顔ををのぞき込んできた。
「じゃあなんでこの前のカード分解の時も今回も妙に怒ってるんだよ」
「別に怒ってなどいない。この前のカード分解は君の早計を正そうと思っただけだ。今回だってオルフェゴールでランクマッチに挑戦すると決めたのだから最後までそうした方がいいと思っただけだ。」
「まあこの前の件は考えなしだったかもしれんけどさぁ?別に俺オルフェゴールで登頂するって心に決めてたわけじゃなくてなんとなくだったから……」
その言葉にシュライグの感情が決壊した。
「……じゃあなんでこのごろ一切俺たちを使わないんだ」
「へ?」
「もう俺たちは必要ないんじゃないかと思って」
口をついて出る言葉は止まらなかった。無意識に感じていたことか意識しないように抑えてつけていたものか。今のシュライグは判別がつかない。
「いやちょっと待って組んだばっかのデッキってそればっか使っちゃうよねって状態だっただけで別に」
「俺はもうマスターの力にはなれないと思っていた」
「待って待って」
シュライグは、意識していなかった、意識しないようにしていた感情があふれ出した。もう自分では止められない。
「もう必要ないとしまい込まれるならまだよかった」
「でもマスターはいつも別のデッキで勝ったこと負けたことを嬉しそうに悔しそうにわざわざ俺に話しに来る」
「じゃあこう思うだろう……こう思って当然じゃないか!?」
「その時に俺たちがいたらって、俺ならもっとうまくやれるはずだって!」
「マスターだって勝ちたいから俺たちを組んだんじゃないのか?強くなりたくて俺たち鉄獣戦線を組んだって言ったじゃないか!」
「君は勝ちたいんだろう!?負けたくないんだろう!?ならなんで君は……」
「……ええと」
マスターは黙ってそれを聞いていたが、ある程度のところで弁明を試みた。
シュライグはそれを制し続ける。
「ふざけるな、今更俺なんかに」
「確かに2シーズン俺たちは一緒にランクマッチに挑戦はした、でもそれだけだ。」
「俺みたいな半端ものじゃない仲間がいるだろう。そいつと一緒にいればいいじゃないか。俺なんかにかまってる暇はないだろう」
シュライグは突き放すように言い放つ。
(どうせ捨てられるなら期待なんかさせないでほしい)
(その方が傷つかずに済むんだ。だからこれで)
シュライグの思考はマスターの声で遮られた。
「シュライグさーーーーーん!?」
マスターは非常に慌てた様子で続ける。
「ちょ……ちょーーーっと色々予想外だったんで黙っちゃったんだけどね」
「俺は本当にその時の気分でいろいろ決めちゃうタイプなんだマジで。デッキもそう」
「だからお前さんになんか……妙に悩ませたし不安にさせたことはごめん、謝る。でも俺は結構考えなしだってことを承知しておいてほしい。俺の行動にそんなに理由はない」
プレミもめっちゃするしね!とマスターはおどけて言った。
「でもね、いっこだけは確か。俺ね、鉄獣のみんなと、シュライグさんすげー好きなの」
「だからその……使ってないときでもちょっとでも多くしゃべりたくてこうデュエルの話とか~そういう話をしちゃったと言うか~そういうことなんであんまり深い意味はないって言うか~」
だからお願い!機嫌直して!
土下座して両手をすり合わせながら懇願するマスターの姿は少し滑稽で、シュライグはつい吹き出してしまった。ここまで直接的に好意を伝えられるとも思わなかった。ただマスターへの苛立ちがなくなったわけではない。
シュライグはマスターのそばに近寄って聞いた。
「……マスター」
「なんでございますか……」
「俺たちを必要としているってことでいいか」
「はい!はい!そうでございます!」
必死なマスターに対して少し意地悪がしたくなったシュライグは、一つの質問を投げかけた。
「じゃあ……これ以降俺たちだけを使うと言えるか」
「へ?」
「他のデッキを使わないってことだ」
「……え?」
「そう言えるなら……もう一度一緒に戦ってもいい」
マスターは困惑している。表情からそれは容易に見て取れた。これは意地の悪い質問だ。シュライグも本気でそうさせたいわけではない。というよりそうしないでほしい。でもこっちをあれだけモヤモヤさせたんだから、これぐらい悩ませたっていいだろう。
シュライグはそう思っていたが、
「無理です」
割とさっさと解答された。
「だって~頑張って組んだんだぜ~~~~俺だってウィッチもジャンドも他のももっと使いたいもん~~~~無理だよ~~~~~~~」
じたばたしながら懇願する様子は駄々っ子のようだ。もうちょっと、というか1日は悩んでほしかった。そうはいっても仕方がない。駄々っ子をあやすようにシュライグは問いかけた。
「それじゃあ力は貸せないぞ?マスター?」
「やだやだ鉄獣も使いたいよ~~~~~~~~ !!」
それ以外!それ以外で何とかお願い!そういってさらに懇願してくるマスターの姿勢が琴線に触れたのかもしれない。シュライグは条件を変えることにした。
「じゃあ……何か俺だけのものをくれ」
「どういうの?」
「君が考えてほしい。何か……安心できるような。」
(もう不安にならないように)
そう考えてシュライグは言った。
マスターは少しの間考えて、ひらめいたように顔を輝かせてこういった。
「じゃあ、俺のエースの称号をあげよう!」
実際鉄獣が一番戦績良いもんねえだとか言いながら、マスターはへにゃへにゃ笑う。
「エース……エースか……」
存外に心地いい称号をシュライグはかみしめるように繰り返した。マスターはお気に召しましたかと言いたげにこちらの顔を覗き込んでくる。そんなマスターにシュライグは
「わかった、もう一度よろしく頼む。」
そういって笑いかけた。
結局純鉄獣でランクマッチに再度挑戦したマスターは、何とか月末にはダイヤ1に滑り込むことができた。
「はえ~まにあったねえ」
「プレミ多いし……どうなるかと思ったよ」
安堵するマスターの横ではキットが憤慨している。
「ていうかベアブルムの召喚制限忘れてベアブルム素材にアナコンダ出してどうすんのよ!スタンバってたデスフェニさんに謝れ!」
「ごめんなさ~い!」
「キット……ヘッドロックはほどほどにしておけ……」
キットに折檻されるマスターを見ながらシュライグは初めてプラチナ1に到達したときのことを思い出していた。
『……勝った!?昇格!?』
『ああ、マスター。やったな』
『……俺、マスターデュエルでデュエル始めたんだ』
『そうか』
『俺……全然勝てなくて、プラチナ1なんて夢のまた夢だと思ってた』
『でもプラチナ1、来れたんだな、俺』
『シュライグ!お前がいたからここまで来れた!ほんとにありがとう!』
マスターは今までにないほどの笑顔を浮かべていた。
シュライグはその笑顔を、隣でまた見たいと思ったのだ。
「マスター、彼は」
「ジャックナイツパラディオンアストラム君です。壊獣パラディオンのために来てもらいました。」
「その魔法カードは」
「リミッター解除です。超時空戦闘機用です。」
「……勇者実装に備えて資産を貯めると聞いていたんだがな」
「いやぁ後攻ワンキルってロマンじゃん。憧れは止められねえんだ」
「……マスター」
「……アストラム君は汎用リンクってことで……許しては……いただけない、で、しょう、か……?」
「当分デイリー報酬はこっちで管理させてもらう」
「そんなー」