紐無しバンジー

紐無しバンジー


もし、好きな女性のタイプを聞かれたら、「太陽のような女性」と答えるだろう。


それを「抽象的すぎてつまらない」と言われたとしても、七海としてはそれが答えだから、もうどうしようもない。けれども、なによりどうしようもないのは、その太陽が沈んだままだということだ。



彼女は、誕生日の前日、七海を屋上に呼び出した。次はどんなイタズラに付き合わされるのだろう、と思いながら、階段をのぼったのを覚えている。そうしてのぼりきったあとの七海を待ち受けていたのは、イタズラよりも衝撃的な出来事だった。


「好きだよ、建人」


顔を赤くして、でも、イタズラするときのような笑顔で彼女は告白した。七海に。

階段をのぼっているあいだ、イタズラされることしか考えてなかった七海は、すぐに言葉が出てこなかった。それを、どう受け取ったのか、彼女は「いいよ」と言った。


「いいよ。返事は今日じゃなくても」


明日聞かせてよ、と長い黒髪を風になびかせながら彼女は言った。明日は、彼女の誕生日だ。天与呪縛によって、18才で死んでしまう彼女の、18回目の誕生日。


そんなことがあるのだろうか。本当に。

彼女はこんなにも生き生きとしているのに。

なのに明日、本当に彼女は死んでしまうのだろうか。

七海を残して。


「神門…」


「ヤだなぁ、建人。そんな顔しないでよ。まるで私が今すぐ死んじゃうみたいなさー」


死なないよー、と彼女…神門は言った。


「ホラ、こんなにも元気なんだよー」


と、力こぶを作って笑っている。


「だからさ、明日…明日はたっくさんおめでとうって言ってよ。18才になれてよかったねって。それで最後に返事を聞かせてよ」


待ってるから、と神門は言った。


言ったのに。


結局、七海は彼女に返事が言えないまま大人になった。

「バイバイ、建人。また明日」と笑った彼女は、七海と別れたあと、そのまま屋上から飛び降りた。

どうして自殺したのか、七海にはわからない。七海の返事を聞く気がなかったのかも、わからない。


ただひとつだけわかることは、つぶれてしまった彼女はもう二度と、あの太陽の色をした目を七海に向けてくれないことだ。

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