紅玉の独白

紅玉の独白


最近、旦那様の雰囲気があの特異点で出会ったばかりの頃に戻ってきた。

これはつまり、イリヤさん達三人や、わたし達姉妹の愛が旦那様を癒せているということだ。

ただの自惚れの可能性もなくはない。けれど、これが自惚れだとは思いたくない自分がいる。


…時折、心を透明にしているかのように冷静な判断を下す旦那様。それを見た時のわたしは、何故だか胸が苦しくなる。

───あの人が心を壊してしまったらどうしよう、笑顔の仮面を貼り付けた人形になってしまったらどうしよう……と怖くなる。

だって、初めて誰かをこんなにも好きになった。手に入れた人型ボディで旦那様に抱かれてから、その想いはより大きく、強くなった。多分、自覚してなかっただけでとっくのとうに好きだったんだと思う。

穏やかな微笑みが好き。童心に帰って目を輝かせるのが好き。わたしの料理を美味しいと言ってくれるのが好き。───イリヤさん達に向けていたのと同じ愛や肉欲を、わたしとサファイアちゃんにも向けてくれるのが好き。

気づけば『好き』だらけになっていた。藤丸立香という旦那様のことを、世界で一番愛していた。

だからこそ、それが壊れてなくなってしまうのには耐えられない。

わたしは旦那様を癒やしてあげたい。痛みも、苦しみも、悲しみも、絶望も。カルデアに集う英雄達にはできないこと、魔術世界にしか生きられない者達にはできないことを、わたし達とイリヤさん達でやってあげたいのだ。…まあ。偉そうに言うわたしも、魔術世界でしか生きられないのだけれど。

けど、それでも。わたし達は旦那様を日常に帰す。離別などで旦那様の傷にもならず、添い遂げてみせる。

そのために、わたしは今日も今日とて薬を調合するのだ。それがわたしの得意分野で、誰かの力になる手段なのだから。


…え? お掃除? それはまあ、サファイアちゃんに任せるということで。三度もやらかしたら少しは懲りますよー…。

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