紅玉の独白
![](/file/a9af09ab45ff3139314d6.png)
最近、旦那様の雰囲気があの特異点で出会ったばかりの頃に戻ってきた。
これはつまり、イリヤさん達三人や、わたし達姉妹の愛が旦那様を癒せているということだ。
ただの自惚れの可能性もなくはない。けれど、これが自惚れだとは思いたくない自分がいる。
…時折、心を透明にしているかのように冷静な判断を下す旦那様。それを見た時のわたしは、何故だか胸が苦しくなる。
───あの人が心を壊してしまったらどうしよう、笑顔の仮面を貼り付けた人形になってしまったらどうしよう……と怖くなる。
だって、初めて誰かをこんなにも好きになった。手に入れた人型ボディで旦那様に抱かれてから、その想いはより大きく、強くなった。多分、自覚してなかっただけでとっくのとうに好きだったんだと思う。
穏やかな微笑みが好き。童心に帰って目を輝かせるのが好き。わたしの料理を美味しいと言ってくれるのが好き。───イリヤさん達に向けていたのと同じ愛や肉欲を、わたしとサファイアちゃんにも向けてくれるのが好き。
気づけば『好き』だらけになっていた。藤丸立香という旦那様のことを、世界で一番愛していた。
だからこそ、それが壊れてなくなってしまうのには耐えられない。
わたしは旦那様を癒やしてあげたい。痛みも、苦しみも、悲しみも、絶望も。カルデアに集う英雄達にはできないこと、魔術世界にしか生きられない者達にはできないことを、わたし達とイリヤさん達でやってあげたいのだ。…まあ。偉そうに言うわたしも、魔術世界でしか生きられないのだけれど。
けど、それでも。わたし達は旦那様を日常に帰す。離別などで旦那様の傷にもならず、添い遂げてみせる。
そのために、わたしは今日も今日とて薬を調合するのだ。それがわたしの得意分野で、誰かの力になる手段なのだから。
…え? お掃除? それはまあ、サファイアちゃんに任せるということで。三度もやらかしたら少しは懲りますよー…。