約束

約束


「なるべく早く帰るから」

「うん、いってらっしゃい」


昔のままの幼い顔、さらさらの髪、俺にだけ見せる(と思っている)屈託のない笑顔。

こうやって見送られる日にも慣れてきた。

慣れないのは、緩く着た着物の上からでも分かるほど目立つようになったお腹だ。


ほたるの髪を撫で、そのまま軽く口づけを交わす。

薄く化粧をしている肌はすべすべで、穏やかに微笑んで見送ってくれる。


守るものが多くなるとより仕事に身が入るが、それ以上にほたるもお腹の子も愛おしいと思う気持ちが大きくなる。

今日は早く帰れるだろうか…


身近に父となった人がいないため、生活が全て手探り状態だ。

夫としての役目も、妊婦の生活も分からない。


ほたるは二週間前に産休に入ってから時間のほとんどを家で過ごしているらしいが、たまに四番隊へ行くときは青鹿と会うと言う。


護廷の噂話でもしているのだろうか。

俺の変な噂(聞かれたらまずい話があるわけでもないが)をされていないことを祈る。

ま、青鹿なら平気か。


昔からかわいい顔に似合わず口(詠唱)より先に手(刀)が出るほたるは、斬術に長けていた。

非力ではあるがコツを掴むのが上手かっため、最近は女性隊士向けの剣術指導も行っている。


『小椿さんってすごかったんだよ!』

と、ほたるが尊敬するという人の話は何回か聞いたことがある。


きっと家でじっとしているのは性に合わないんだろうな。

体も重くて、動きにくいだろうし…

痛みはないだろうか。よく眠れているだろうか。


でも、もう少しの辛抱だ。

もう少しで、きっと…!



「あ、修兵くん!」

「ん?なんだ?」


「修兵くんは、まだここに居ちゃだめだよ」



え…?



ハッとして、目が覚める。



心臓の鼓動が大きく、血の気が引いて冷や汗が出るのが分かる。

一定のリズムで鳴る電子機器の音と、少し遠くでカラカラとキャスターを引くような音が聞こえる。


ここは、救護室か?


眼を動かすと、口を覆う酸素マスクが視界に入る。

自分の荒い息で曇ったり澄んだりが繰り返される。


確か、滅却師の侵攻で、俺は…


ここは、恐らく四番隊の救護詰所だ。

ここで俺が生きてるってことは、勝ったのか?


世界を護れたのなら、良かったが…


あぁ…腹が、腕が、脚が、頭が、

胸が痛い



俺は、お前に生かされたのかな…

なのに、俺はお前を生かすことができなかった。


それでも、お前は俺を責めることはしないんだろうな。

霊術院のとき、お前をあんだけ見てれば分かるよ、そういう人だってのは。



俺がお前のところにいつか行ったとき。

怒ってるんだろうけどそれでもただただかわいいだけの顔で


意気地無し!ヘタレ!


なんて言われないように、

俺は、お前が居ない世界を護るよ。



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