糸は断たれた

糸は断たれた




 瀞霊廷の遥か上空。霊王宮に一護達と乗り込んだ撫子は、真っ先に見知った顔に目を奪われる。


 他の滅却師が倒れ伏す中で、石田雨竜が倒れている。倒れたまま、ぴくりとも動かない。

 その表情はどこか安らかで、穏やかで、まるで眠っているようだった。

「……うそ」

 撫子は恐る恐る、倒れた滅却師に近づき跪く。

「雨竜……?」

 そっと、その体を揺する。反応はない。現実から目を逸らしたい。

「起きてよ寝坊助サン、ねえ」

 撫子の視界が滲む。他の誰かの声が遠い。胸部と腹部を見て、呼吸を確認する。しかし。

「いき、してない」

 呼吸をしていない。手を伸ばして頬に触れる。——温度がない。

 否が応でも、石田雨竜の死という現実を突き付けられる。


 ——その手が、好きだった。

「嫌……」

 グレーの目が、好きだった。

「……いやぁ……」

 よく回る口が、好きだった。

「雨竜……」

 不器用なところが、好きだった。

「うりゅう」

 呼ぶ声が、好きだった。

「うりゅう……うりゅう……!」

 石田雨竜が、好きだった。

「あぁ……あああ……!」


 石田雨竜だった亡骸に縋りつき、抱き締める。

 霊王宮の抜けるような青空に、少女の泣き叫ぶ声が響き渡った。



 かくして、三界の安寧は守られた。三界はこれからも続いていく。

 しばらくして、平子撫子がその消息を絶った。

 何も残さず、誰にも告げず、最初から居なかったかのように。


 平子撫子は、いまだ消息不明のままだ。


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