第16話 バルクアップ!
ハルノナナクサが中央に移籍して1ヶ月が経過した。当陣営はGIを制覇する為にフェブラリーSに出走登録を行った。東京大賞典を制覇したハルノナナクサなら賞金も十分に加算されている為、直行でも問題なく登録された。
「ダートで1600mのマイル戦だ。正直、君では厳しい戦いになるかもしれない」
「距離が短いから…だよね」
「その通りだ。他にも懸念点はいくつかあるが……一番の原因はスマートファルコンの参戦だな」
スマートファルコン。忘れもしない帝王賞での屈辱。はるか5バ身先でゴールしていた彼女の背中。彼女に逃げ切られてしまえば、あの時の再現になってしまうだろう。
「彼女を警戒しつつ、一番でゴールしないといけない。出来るか?」
「難しいけど、やってみるよ!」
「よし、良い返事だ。彼女をマークしつつ、得意のロングスパートで差し切ろう」
「うん!」
そして、フェブラリーSの日がやってきた。天気はカラッとした快晴。東京レース場、左回り。
「ファル子ちゃん!」
「あっ、ナナクサちゃん!」
「今日は負けないからね!」
「ファル子も負ける気は無いよ!お互い、精一杯ぶつかろうね!」
「うん!いざ勝負!」
…
結果から言うと、スマートファルコンの圧勝であった。後ろから差し込むレース運びは出来たのだが、それでもスマートファルコンのペースに追い付けず、大きく離されての3着。
『やはり強いぞ!スマートファルコン!今回も後ろを離して優勝して魅せました!』
「はぁ…はぁ…負けた……」
スマートファルコンにはもちろん、他の面子にも負けてしまった。距離の短さはあるだろうが、それでも地力の違いを感じさせられる一戦であった。どうにか変わらなければ、次もスマートファルコンに蹂躙されるだけだ。
「悔しいよトレーナー!」
「ああ……俺も悔しいよ。勝たせてやれなくてごめんな」
「大丈夫……だけど、このままやられっぱなしは辛いかな」
「そうだな。次ぶつかる事があった時に備えて、君を鍛えないとな」
「うん!……そうだ。走ってて思ったんだけど…私ってパワーが足りないんじゃないかな?」
「それは俺も思った。君の脚のパワーが上がれば、今回みたいに置いていかれる事も無くなるはずだ」
となれば、パワーを付けるためのトレーニングを行うべきだろう。その日から、ハルノナナクサはパワーアップの為のトレーニングを行うことになった。
「98……99……100!」
具体的には、筋肉トレーニングや食事量の増加によるバルクアップ。体重はもちろん、筋肉量を増やすことでレースで発揮出来るパワーを根本から増やす作戦だ。
「目指せチャンピオン〜!」
次の目標はチャンピオンズカップ。かなり余裕を持たせたスケジュールになっているが、脚部不安を考慮してレース数を少なくしているのが原因だ。
「あっ、トレーナー!」
「おう。頑張ってるみたいだな」
「えへへ、まあね。パワーを付けてファル子ちゃんに追い付くぞー!」
「良い調子だ。…それにしても、身長伸びたんじゃないか?」
「そうかな?言われてみれば、ちょっと背が高くなったような…」
バルクアップの効果……と言うよりは成長期だからだろうが、ハルノナナクサは身長が伸びてスリーサイズも成長していた。身体が大きくなればそれだけパワーも出るので、喜ばしい成長と言って良いだろう。
「今の私ならファル子ちゃんに勝てるかな?」
「きっと勝てるさ。勝ってチャンピオンになろう」
「うん!チャンピオンになるぞー!」
それから、バルクアップを行うハルノナナクサの調子はすこぶる良かったという。果たして、彼女は砂の隼を捕らえることが出来るのか。