第11話 脚部不安

第11話 脚部不安



「JBCには出走出来ません」

「えぇー!?」

ここは品川の病院。先生に出走不可の押印をされたのは、ピンクの髪のウマ娘。ハルノナナクサである。驚く彼女の脚には、痛々しいテーピングが施されていた。

「どうにかなりませんか!?」

「なりませんね。安静にしていて下さい」

「そんなぁ〜!」

トレーナーに慰められながら、診察室を後にする。ハルノナナクサはレディスプレリュード制覇後、右足に違和感を感じていた。何かと思って調べてみた所、腫れや熱感が見られる脚部不安という状態に陥っている事がわかった。

「JBCレディスクラシック……走りたかったなぁ……」

落ち込むのも無理は無い。目標としていたJpnIのレースに出られなくなってしまったのだから。脚部不安から復帰するには安静にする必要があり、トレーニングはもちろんレースへの出走も厳禁だ。

「仕方ない。無理をして君の脚が壊れてしまったら大変だ。諦めて、別の機会を探そう」

「はーい……」

とはいえ、メンタル面の落ち込みを回復させるのは難しく。レースの予定はもちろん、練習メニューもまっさらになってしまったので、部屋で項垂れるだけになってしまった。

「はぁ……」

傷んでしまった右足を擦りながら、ベッドの上でため息をつく。トレーニングも出来ない為、退屈で仕方が無いのだ。

「……よーし。いっその事、思いっきり遊んじゃうぞ!」

そんな訳で、退屈を紛らわす為に遊ぶことを決意した。ゲームセンターに足を運んだり、カフェで優雅にお茶を楽しんだり、年頃の娘らしく、暇つぶしを楽しむことにした。

「でも一人だとなんとも虚しい……誰か一緒に来てくれないかな……」

大井にも友達はいるが、皆トレーニングに勤しんでいるため、誰とも時間の都合が合わないのだ。そんな退屈な彼女に一筋の光が差し込むかのように、見知った顔が通りかかるのを発見した。

「あっ!カスタードちゃん!」

「ん?……ナナクサか。奇遇だな」

そこにいたのはカスタード。同室のウマ娘だ。最初こそハルノナナクサには興味が無いような素振りを見せていたが、C3からハイペースで出世する姿を見て、少し興味が湧いてきたようである。

「偶然だね!トレーニングはおやすみなの?」

「そんな所だ。お前こそトレーニングはしなくて良いのか?」

「実は脚部不安が起きちゃって…休まないといけないんだ」

「……!…そうか。可哀想にな」

「気遣いありがとう!ねね、良かったら一緒に遊ばない?」

「一緒にか……まあ、退屈していた所だ。付き合ってやるよ」

「ほんと!?やったー!ずっと一人で寂しかったんだよー!」

「分かった、分かったから私にくっつくな……」

そんな訳で、カスタードも同行して一緒に遊ぶ事になった。二人で回ったゲームセンターは面白かったし、二人で頼んだデザートは格別の味わいだった。他にも様々な場所を二人で巡り、あっという間に時間は過ぎていくのだった。

「今日はありがとう!とっても楽しかったよ!」

「そうか。それなら良かった。私も良い退屈しのぎになった」

「そっか!じゃあ、予定が合ったらまた遊ぼうね!」

「…………ああ」

そう言って返事をするカスタードの顔は、なんだか暗かった。何か訳があるのだろうか。不安そうに見つめるナナクサに、カスタードは軽く笑って見せた。

「私も脚部不安なんだ。それも、かなり重傷のな」

「えっ!?」

そう言われてみれば、確かに辻褄は合っている。彼女は常に部屋のベッドに横になっていたし、トレーニングの時間になっても姿を見かけることは無かった。

「だからトレーナーからトレーニング制限を受けている。こうしてお前と遊んでいるのも、この脚が脆かったからだな」

「そうなんだ……」

「最も、重傷だからと言って走るのを諦めた訳じゃない。復帰後の帝王賞は私が頂く」

「帝王賞……!それって砂のGIレースだよね」

「その通りだ。そこに勝つ為に、今は安静にしているって訳だ」

「なるほど…だったら、カスタードちゃんは私のライバルだね」

「ライバル……?」

「私も復帰したら、帝王賞制覇を目指すから!GIで勝つのが私の目標だからね!」

「ふっ。そういう事か。面白い、受けて立ってやろうじゃないか」

「言ったね。それじゃあ、帝王賞で勝負だ!」

「「(勝つのは私だ!)」」

同室のライバルを見つけたハルノナナクサ。脚部不安にこそ泣かされたが、次の大きな目標を見つける良い舞台となった。果たして彼女は、帝王賞を制覇する事が出来るのだろうか。


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