第五話「砂蛇様」その4「砂蛇様」(表現規制修正済ソフト仕様版)

第五話「砂蛇様」その4「砂蛇様」(表現規制修正済ソフト仕様版)

概念不法投棄の人



※アドビス砂漠の砂糖本スレまとめのリンクから来られた方へ

 2023/12/29 に物語の構成を変更したためにサブタイトルが一部改変されています。

 この物語の旧タイトルは『第四話「砂蛇様」その4「砂蛇様」(表現規制修正済ソフト仕様版)』で合っています。




 身体に感じる砂粒の感触と頬を撫でる砂の混じった風が私の意識を浮かび上がらせます。


「………?」


 目を開ければ一面砂に覆われた地面が広がっています。


「あれ……わたし……」


 ゆっくりと起き上がるとそこは一面の砂……砂漠が広がっていました。


「ここは……どこ?……私……アビドス高校に居たはずなのに……」


 まだズキズキと痛む頭を精一杯動かして記憶を呼び起こしていきます。

 私はハナコ様に連れられてアビドス高校のヒナ様とホシノ様と出会って、転校手続きと救護部の部長への就任を承諾して……ホシノ様から見た事無い様な美しい輝きを放つ"特別"な砂糖を貰って――。


「気づいたら此処に居たんだ……でもどうして……?」


 何故砂糖を吸ったら砂漠に居るのかわかりません。


「とにかく……ハナコ様達と連絡を取らないと……」


 突然私が消えてしまってお三方はとても心配してるかもしれない、とにかく私は無事ですと連絡を入れなきゃ、とポケットに手を忍ばせた所で通信端末も愛銃もない事に気が付きました。


「あれ……無い……ちゃんと持ってきたはずなのに……どうしよう……」


 後ろを見ても左右横を見ても水平線の向こうまで果てしなく広がる雲一つない青空と砂漠の景色だけ。太陽があるので方角は分かりますがアビドス高校がどの方角にあるのか全く分かりません。


「とにかく歩かなきゃ……」


 ここにじっとしていても仕方ないのでまずはどこかオアシスか日差しを遮り砂嵐などから身を護れる場所を探そう。そう思い足を一歩踏み出した時でした。


「きゃああああっ!?」


 突然、足元の砂が巻き上がり、私を取り囲むように巨大な砂の渦が立ち上ってしまいました。これでは身動きが取れません。


「な、なにっこれっ!?………ひぃぃ!!?」


 私を囲い込む巨大な砂嵐の渦。そして何か視線を感じて後ろを振り返ると、分厚い砂の渦の壁の向こう側に巨大な生き物の影が見えたのです。


「あ、ああ……」


 私の背より遥かに高い、とぐろを巻く巨大なヘビのような生き物の影が見えます。蛇の頭の部分と見られる影には赤い光が二つ、目のように輝いていてそれに視線が釘付けになってしました。



"--------,----------""---,---?----------"


 何かが私のナカに流れ込んできます。私にはそれが砂の渦の向こうの巨大な生き物――ヘビさんが私に語り掛けて来た、そう感じたんです。言葉も声も聞こえなかったのに――。


「…………」


(私、このヘビさんを知ってる…?どこかで会った事があるの……?)


 どうしてそう感じたのか知りません。こんな巨大な生き物見た事もあったことも無いはずなのに……。

 いつの間にかこのヘビさんに対する恐怖心は消えていて私は無意識にも手を差し伸べるように砂の渦の向こう側の生き物へ腕を伸ばしたのでした。




蛇がその重たい鎌首をゆっくり持ち上げると目の前に一人の少女が居ました。


"よく来たな小娘、待っていたぞ"


蛇は品定めをするように少女の全身を眺め回します。


"ほう、ホルスの砂糖を使いその衝動に耐えたのか……"


少女の纏う砂糖の香りの残滓。それは蛇がホルスと呼ぶ少女に与えた砂糖の放つ香りと同じ物でした。

自身の鱗の剥がれ落ちた欠片から生み出し、濃度を薄めた絞り粕。それでもキヴォトスの少女達には一瞬で命を奪うほどの劇薬。

あのホルスですらも初めて与えられた時は血反吐を吐き、のたうち回ったほどの劇物。


"ガハッ…ぐるじ…だすけ…ユメ…せんぱ…い…。いや…だ…死に…たく…ない"


つい先程まで己に反抗し抵抗を続け、隙あらば攻撃をしてこようとしていた生意気な小娘が血だらけになりながら無様にも砂の上を死に掛けの芋虫のように這いずり回り、必死に今は亡き心の拠り所にしている女の幻影に縋りつき助けを請おうと空中へ腕を伸ばす姿はとても愉快で滑稽で今でも思い出すだけで愉悦してしまいます。

そんな砂糖にこの少女は耐え切り自分の足で砂の上に立ち、こちらを見つめてます。

その瞳には最初の戸惑いや不安、こちらに対する恐怖心に染まった色はいつの間にか消えていました。

やがて少女はこちらへと腕を差し伸べました。


まるで蛇を受け入れると言わんばかりに。


蛇は嗤いました。


"良いだろう。それほど望むなら……お前を喰ってやろう"





"-----。-------,---------"



「………?へっ?きゃあああっ!?」


 ヘビさんが何を言った瞬間、私の足元の砂から1匹の白いヘビが飛び出してきて私の身体を縛り上げるように絡みついてきました。


「あがっ…痛いよぉ…苦しいよぉ…」


 ギリギリと締め上げられて身体中が悲鳴をあげます。足から胸まで締め上げたヘビさんが私を見下ろしています。

 しばらくするとヘビさんの頭がゆっくりと私の胸元まで下がってきました。


「な、なに…?……ひぃぃっ!?」


 ヘビさんが私の胸元にちょんと触れると私の身体の表面――服の部分がまるで水面のように波打ったのです。

 私の体の表面がまるで水のように柔らかくなったのを確認するとヘビさんは一気に私の胸の中へ身体の中へと潜り込み始めました。


ズルッ…ズブッ…ズブブブブブッ……


「ああああっ!うわぁああああ!!止めてっ!!いやぁっ!!入って来ないでぇぇぇ!!」


 私の身体の中に溶け込むように入ってきたヘビさんに搔き回され激しい衝撃が伝わってきます。容赦なくどんどん体の中の奥へ入って行くヘビさん。

 それと同時にヘビさんから私の体の中へ凄まじいチカラのような物が流し込まれてきて激しく身体が揺さぶられます。私の身体がバラバラに破裂するんじゃないかと思うくらいの衝撃と激痛です。


「嫌ぁあ"あ"あ"あ"あ"あ"!!痛いっ!!い"だい"ぃ"ぃ"ぃ"ぃ"ぃ"~~!!止めてぇぇぇ!助けてぇぇぇぇぇ!!!壊れるっ…これ以上はわたし壊れるぅぅぅぅぁぁあ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"!!!!!」


 助けて、許して、どうして――。


 私は必死にヘビさんに謝ります。私、何か悪いことしましたか?私、ヘビさんを怒らすような事しましたか?お願いです。ゆるしてください助けてください。

 ごめんなさい、ごめんなさい。ヘビさんの言う事聞きます。なんでもします。だから、お願いだから、私を壊さないでください。



「う"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"~~~~!!!!」



膨大なチカラの奔流に振り回される少女の悲痛な絶叫がひたすら砂漠へと木霊し続けました。





"素晴らしい!!素晴らしい!!素晴らしい!!"



蛇は悦びました。大いに悦びました。

もし、蛇が人間の姿をしていれば玉座にふんぞり返って座り、己の肩幅よりも大きく広げた両手を叩いて打ち鳴らし大嗤いをした事でしょう。

己の分身を使い、この少女の胎内に侵入して、この少女の持つ"器"の大きさを知りヘビは歓喜しました。


キヴォトスの少女たちが操り纏う神秘の力――、その力を源である少女たちの持つ器。


この少女の持つ器は矮小な力しか持たない塵レベル少女にはあまりにも不釣り合いな大きさと器の奥底に眠るまだ一度も使われていない膨大な力を持っていたのです。

蛇は試しにこの器がどのくらいの物か確かめるために己の持っている力を器へと流し込みます。しかし、何時まで経ってもこの少女の器は溢れたり砕け散ることなく蛇の持つ膨大なチカラの奔流に耐え吸収し続けるのです。

蛇は流し込むチカラの量を容赦なく増やし続けます。気が付けばキヴォトスの少女なら耐え切れず器と神秘が破壊され肉体は人の形を保てず消滅するか、反転して異形の姿へとなる果てるそのくらいの量の力をこの少女の器へ容赦なく注ぎ続けます。それくらいの量のチカラを流し込んでも少女の器はビクともしません。

少女も人格が破壊される気配など見せず、流れ込むチカラの衝撃に泣き叫ぶ程度です。

この少女に秘めた本当の価値に気づいた蛇は大層悦びました。



"素晴らしい!!素晴らしい!!キヴォトスにまだこんな逸材が眠っていたとは!!"



暁のホルスと呼ばれキヴォトス最高の神秘を持つ少女を手中に収めた時、蛇はもうこれ以上の逸材はここキヴォトスは無く、それを持つ己は絶対勝者だと思っていたのです。

しかし、未だ目覚めぬただの原石(石ころ)ではあるもののこの少女はそれに並ぶだけの価値を持っていたのです。


"ああ、この器を早く我が物にしたい…。"


今すぐにもこの少女を操り、その秘めた力を存分に揮いこの世界を徹底的に破壊し尽くしたい。いやこの世界だけでは足りぬ、次元の壁を超え別時間軸のキヴォトスに侵攻しそこもまとめて打ち滅ぼす。蛇は己の欲望をさらに膨らませ滾らせます。


"だがしかし、実に惜しいな…。"


あの暁のホルスと並ぶ――、いや、もしかしたらホルスをも超えるかもしれない可能性を秘めた少女の器。

しかし、その器の力を発揮すべき少女の神秘があまりにも脆弱過ぎたのです。



"ああ、何故このような滓レベルの神秘がこの器を手に入れれたのだ?何故この素晴らしい器はこのような滓な神秘を選んだのだ?"



蛇は憤りを覚えます。この少女の神秘は武力も攻撃スキルも一切持たず、ただひたすら人のために祈り人を癒すために力を揮う能力だけしか持たない役立たずの塵なのです。世界をあっけなく圧し潰せるほどの力を秘めた素晴らしい器を持っているのも関わらず。



"理解できぬ!理解できぬ!こんな事があるはずがない…!"



器にはその大きさに合った神秘が授かり、神秘にはその能力に合った器を授かる。それがこの世界の理。

なのにこの少女の神秘と器はあまりにもかけ離れたものでありました。


蛇にとって祈りと癒しの能力とは力を持てぬ弱者が縋るみすぼらしい力――。

絶対強者である蛇に祈りや癒しなど必要ありません。天に祈らないといけない状況にも、傷つき癒しを求める状況にもなることが絶対に無いからです。

まず、己を傷つけ、追い詰めるような存在がこの世に居ない事。万が一にでも傷が付くような事があったとしても餌にしている生徒を喰らいそれでも足りぬ場合は己の分身でもあるアビドス砂漠の砂を喰らえば傷などたちどころに治るのです。

攻撃こそがすべてであり、祈りや癒しなどわざわざ神秘と器のリソースを割いてまで行使する価値のない弱者の力。それが蛇の考えです。


"おのれ……小賢しい真似を……"


蛇がその気になればこの器に居座る滓を粉砕し除去する事は可能です。しかし、それは同時にこの器を失う事を意味します。

少女の神秘はその器に強く深く根を張り結びついていていました。まるでこの器がこの神秘を護る様に――、それこそ神秘と取り除くには器を砕かないといけない一心同体と言わんばかりに…。


"まぁ…良い。やり様はまだある。"


蛇は直ぐに考えを変えます。器からこの塵芥神秘を引き剥がすのが不可能なら、この少女を己が直接支配し、器の内部から自分に染め上げれば良いのです。そして己で染め上げた器を内部から支配し乗っ取ればあとはこの塵芥は簡単に剥がれ落ち取り除けるであろうと。

その後は適当に別の神秘を植え付ければよいのです。幸いにも代わりの神秘ならいくらでもそこら辺に転がっています。


醜い政争に嫌気を差し道化の道へ堕ち、気が付けば己の毛嫌いしていたはずの存在と同じに成り果てた依り代の少女

小さな身体に大きな責務を無理矢理背負わされそれを投げ出して逃げた依り代の小さな少女

砂糖に溺れた仲間を見捨てられず正気にも関わらず同じ道を堕ちて行く惨めな小ウサギの少女

悪役になり切ろうと必死に演じるも己の持つ慈悲と聖善の心を隠し切れない便利屋を名乗る小間使いの少女

同じ祈りの力でも神の名の下に自分達とは違う存在を異端と称し叩き潰し排除する神の巫女(シスター)を名乗る少女達

砂糖に歪まされた正義を本来の正義だと盲信し実現しようと力を揮い踊る哀れな黒衣の少女達


何ならホルスの神秘を徴収しこの器に植え付けても構わない。器の大半を支配されても未だ抵抗を続け蛇に忠誠を示さない小娘なぞもはや不要ですらある。


"仕方があるまい…。"


蛇は考えを変え己の計画を一部変えます。少々気に障るがくだらないプライドは少し引っ込めこの器の少女を力を与えて己の手足として使ってやろうと決めます。



"悦べ小娘よ。お前に我の力を特別に分け与えてやろう。お前のような塵芥如きが本来なら受ける事の出来ない大変栄誉ある事ぞ。"



蛇は己の分身を少女の胎内の奥深くへと潜り込ませます。己の力の一部――核(コア)を産み付けるために――。



"これでお前は我の一部になり、我の力を振るえるようになる。塵芥のお前が神に並べるのだ。喜び感謝し、我に絶対の忠誠を誓え。完成した器を我に差し出すその時までじっくりと可愛がってやろう"



蛇が少女の胎内奥深くに核を産み付けると、泣き叫んでいた少女は涙でぐしゃぐしゃの顔に一瞬だけ幸せそうな笑顔を浮かべました。








「う"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"~~~………ハァ、ハァ、ハァ、ハァ……あ…れ…?」



 私の体内を激しく掻き回し食い破ろうとしていた悍ましいチカラの暴力的な奔流が突然ピタリと止みました。

 身体中汗びっしょりで顔は涙と鼻水と涎と吐瀉物でぐちゃぐちゃになり、両足は身体の中から噴き出した体液と排泄物ででベトベトになってます。

 肺が必死に酸素を取り込もうと何度も呼吸をはやく繰り返し頭は頭痛がガンガンと鳴り響いてます。


「ハァ、ハァ、ハァ…た…たすかった…の…私…?」


 未だ蛇さんに身体を縛り上げられた上に身体の中へヘビさんの頭が入り込んだままの状態ですが…何も起こりそうにありません。


「よかった……たすかった……」


 安堵の余り、再び両目からは涙が溢れて来ました。よかった…ヘビさんに許してもらえた……そう思ったのは間違いだったとすぐに気が付かされます。


「ああぁあああっうぐぅぅぅぅぅ……だ、だめぇぇえええ~~!!」


 私の胸から胎内へ潜り込んでいたヘビさんがいきなり動き出して私のナカのさらに奥へと潜り込んでいきます。

 先程のチカラの奔流に比べたら優しいのかもしれませんが、身体のナカをかき回し潜り込んでいくヘビさんの動きに身体が激しく揺さぶられます。


「いやぁああああ!だめぇっぇぇぇえええ!!それ以上ぅっ…奥に行かないでぇぇっうううわああああああー!!」


 私のナカを掻き分けメリメリと押し広げて一番最深部……命の源へとヘビさんが到達するとソコでヘビさんが大きく震え膨らみます。





 ひと際大きく膨らんだヘビさんが何かを私のナカへ吐き出し産み付けました。それは吐き出されると私の胎内へゆっくりと沈み込み私の身体中に染み渡る様に広がっていきました。


「ああっ…う…ああ…うぐっ…あああ……ああんっ!!」


ズルッ…ズルルルルッ…ヌポンッ。


 ブルブルと震え続ける私の身体の中から満足げな表情をしたヘビさんが出てきました。


 そのまま私の鼻先へとやって来たヘビさんと目が合います。真っ赤な宝石のようなヘビさんの輝く瞳を見つめてると何だか少し頭がぼうっとしてきて……。


「んっ……ちゅぷ……」


 気が付いたら私はヘビさんと口づけを交わしていたのです。


(そんな……私…ヘビさんとキス…してるなんて…)


 私に襲い掛かり身体の中をぐちゃぐちゃに蹂躙した怖いヘビさんなのに……まるでハナコ様とシテるような感覚に陥った私はヘビさんと熱い口づけを交わし続けます。


「んむっ…にゅ…ちゅっ…はぅ…んっ……んぐっ!?」


カプッ…チクッ…ピリリ……


(あうっ……痛い…)


 ハナコ様とするように唇を押し分けたヘビさんを口内へ迎え入れて舌を絡ませようと自分の舌を差し出すとそこにヘビさんが思いっ切り牙を突き立てて噛みつきました。

 わたしの舌へ突き刺さり深く食い込んだヘビさんの牙から何かが染み出して私の舌を通じて全身にへと伝わります。

 脳にもそれは伝わり、ピリピリ…チリチリ…パチパチと甘い刺激を受けるとぼんやりと温かい何かに頭を包み込まれてしまったような気がしてきました。

 噛まれた痛みで思わず閉じていた視界がゆっくり開くと目の前にはあのヘビさんが居て再び瞳と視線が合います。


「…………」


 すると不思議な事に何故か私にはこのヘビさんがとても大切で愛おしい存在に見えて来て、締め付けるように身体に巻き付いた胴体は私を優しく抱きしめてくれてる様に感じて来て――。


「大好きです……砂蛇様♡」


 気が付けば今度は私の方からヘビさん――いえ砂蛇様へ感謝の口づけをします。上で熱い口づけを交わしながら緩んだ隙間から少し自由になった腕を伸ばしてご自身の体液でヌメる砂蛇様の逞しい胴体を手で何度も撫でます。


 やがて、私に巻き付いていた胴体を完全に緩めると砂蛇様はゆっくりと私から離れて行きます。


"-------、--------。--------。-----、----------。----------"


 砂渦の分厚い壁の向こうへ白い砂蛇様の分身体が戻ると巨大な砂蛇様の影がゆらりと揺れ、光る瞳の赤い輝きとともに砂蛇様が私に何かをおっしゃりました。

 私には相変わらず砂蛇様の声は聞こえず言葉も理解できません。でも私の身体と心には伝わったようです。私の唇が勝手に動き言葉を声にして紡いでいきます。



「ありがとうございます砂蛇様。私に授けてくださった核(ちから)、大切に守り育んでいきます。絶対の忠誠を誓い…この身体をあなた様に捧げるその日まで……」



 私の感謝の言葉に満足されたのか砂蛇様はゆっくりと姿を消していきました。砂嵐が止み、再び静かな砂漠に戻るとわたしのそのまま砂の上に倒れました。

 倒れ込むとゆっくりと私の周りの砂が沈んでいき、私はそのまま砂漠の砂の中へ飲み込まれて消えて行きました。












「ハナエちゃん!!」


「ハナエっ!!!」


 ポタポタと頬に落ちる水滴と大きな声がしたので思わず目を開けると、泣き顔をしたハナコ様とヒナ様が私の顔を覗き込んでいました。

 お二人の背後に見える天井と後頭部と背中に伝わる冷たく硬い感触がここが砂漠では無いと私に告げます。私の頬に落ちる水滴の正体はお二人の涙でした。


「あ、あの……私……」


 ゆっくりと起き上がりかけたところでヒナ様が私に抱き着いてきました。


「ハナエッ!!本当に良かった…本当に良かった…私っ、あなたが死んでしまうんじゃないかって……」


 私の腕の中で震え続けるヒナ様の背中を何度もさすって「大丈夫です。私はちゃんと生きてますから」と声を掛けます。


「ハナエちゃん…無事で、本当に無事でよ"がっ"た"で"す"う"ぅ"っ"……」


 後ろからはハナコ様が泣きながら抱き着いて来て私は「おふたりとも…私は大丈夫ですから…どうか、どうかご安心を」と声を掛け続けました。


「あー…そのー…ええっと……」


 ふと顔を上げれば手持ち無沙汰そうに――というよりはどうすれば良いのか、私にくっつきたいけどヒナ様とハナコ様に前後占められてて場所が無くて困ってる感じで頬を掻いているホシノ様と視線が合います。


「あの…その…えっと……ごめんなさい!ハナエちゃん!」


 暫く視線と行き場の無い腕を空中に彷徨わせていたホシノ様が突然大きな声と共に頭を下げて謝罪の言葉を述べてくださりました。


「おじさんが無茶振りしたせいでハナエちゃんを苦しめて死に掛けさせてしまって…本当にごめんなさいっっ!!」


 頭が足元に引っ付くのではと思うくらい頭を下げるホシノ様になんだか申し訳なくなってきました。


「あの…ええっと…顔を上げてくださいホシノ様。私でしたら何ともないですから…」


「何を言ってるのハナエっ!!あなた口や鼻から大量に吐血して倒れたのよ!!…………本当に何もないの?」


 ヒナ様に言われて私は自分の顔に手を当てます。頬にはタオルか何かで拭ったのか拭き残しの血がこびり付いていて乾いた赤黒い破片となってポロポロと落ちます。部屋の隅に置かれたゴミ箱には血で染まったティッシュやタオルが何枚も突っ込んでありました。

 どうやら吐血したのは本当の様でした。でもそれよりも今は泣いているお二人を安心させる方が大事でした。


「はい、私はもう大丈夫ですから……ヒナ様もハナコ様もご安心してください。ほらっ!」


 私は起き上がるとその場でピョンピョンと飛び跳ねてみました。身体には力が漲りとても軽く感じました。大量出血による眩暈や貧血の症状も何故かありません。

 最初は飛び跳ねようとする私を必死に抑えようとしたお二人ですが、私が笑顔でジャンプを繰り返すと何も起こらない事にようやく安堵してくださいました。






 その後、執務室に正座をして『私はハナエちゃんに高純度アビドス糖のイッキ呑みを強要したシュガハラ犯です』と書かれた札を首から下げてヒナ様のお説教を受けるホシノ様を残して、私はハナコ様と寮へと戻りました。

 校舎を出ると外は真っ暗になっていました。私はかなり長い時間気を失っていたようです。


「その…あの…本当に大丈夫ですか?ハナエちゃん?」


「あ、はい!もうどこも痛くも苦しくも無いですよ!ほらっ!この通りですっ!ハナエは元気いっぱい♪ご安心ください♪ハナコ様っ♪」


「あっ!もういいっもういいですからっ!」


 私の自室のドアの前でハナコ様がもう一度心配そうに尋ねてくるので私は元気ですよっと飛び跳ねてみようとしてハナコ様に両肩を抑えられてしまいました。


「ご心配かけてすみません。あと…制服汚してすみませんハナコ様」


 私はハナコ様に謝罪します。折角ハナコ様がトリニティから持って来てくださった私の制服。その制服は私が吐き出した血でどす黒く染まってしまいもう着れそうにありませんでした。


「いいえ、構いませんよ。ハナエちゃんの制服の替えはまだありますし、アビドスの制服が届いたらそっちを切れば良いのですから。それよりもハナエちゃんが無事で本当に良かったです」


 もう心臓に悪かったんですよ、とハナコ様に言われて私はご心配おかけしてすみませんともう一度謝ります。このままでは謝罪し合い合戦に入ってしまいそうだったのでお休みの挨拶を交わして部屋に戻ろうとドアを開けた時でした。


「あの…ハナエちゃん?」


「はい?どうされましたかハナコ様?」


 ハナコ様が何かに気づいたように私の方を見つめてます。


「いえ…ハナエちゃん、いつの間に髪飾り変えたのかな、と思いまして…」


「ほえっ?髪飾りですか?」


「ええ、ハナエちゃんのツインテールの部分ですよ、うふふっ銀細工の髪飾りとても似合ってますよ♡」


 そう言うと「おやすみなさいハナエちゃん」と言ってハナコ様は自室へと戻られました。





「あれ?本当だ……いつの間に……?」


 寮の自室へ戻って部屋の姿見の前に立ってみると私のツインテールの房の部分――、いつもは×型の絆創膏風の髪飾りが付いていた場所には代わりに銀色の金属で出来たヘビの髪飾りが付いていました。


「これ、どうやって外せばいいんだろう……」


 縛ると言うよりはふんわりと纏わりつくように巻き付いているはずなのに外したりずらそうとしてもビクともしません。髪飾りの方は諦めて髪の方をヘビの髪飾りから引き抜こうとしてもびくともしません。見た目に反してきつく縛りつけられてる様に感じました。


「どうしようこれ……」


 私は寝る時にツインテールは解くようにしてます。また服装に応じて紙を耳下や首元でくくる二つ結びをするのですがこれでは髪型の変更も出来ないし、髪の毛を洗うのも苦労しそうです。


「あの……ヘビさんお願いがあるんですけど……。私、これから寝るので髪を解きたいんですけど……少しどいてもらえませんか?」


 姿見に映る銀細工の髪飾りのヘビさんに思わす頼み込んでしまいます。ふと我に返って自分は髪飾りに何を言ってるんだろうかと思ったその時――。


ニュルッ!ニュルルルッ!


「わっ!?ひゃぁあっ!?」


 髪飾りのヘビさんの目の部分が赤く光ったと思ったらまるで生き物のように動きだし、そのままシュルルルっと私の髪の房の中に潜り込んでしまいました。

 私は慌てて髪の毛の房に手を突っ込んで見ますがヘビさんは何処にも居なくてまるで手品のようにどこかへ消えてしまったようです。


 ツインテールを解き、髪を下ろした後、櫛で髪を丹念に解いてみましたがヘビさんはやはり私の髪や頭のどこにも居ませんでした。


「何か悪い事しちゃったかな……?」


 部屋の灯りを消して布団にもぐった後、ふとそう思いました。

 いつの間にか付けていた、不思議なヘビの髪飾り。もしかしたらあの砂漠で砂蛇様から頂いたものかもしれない、だったら謝らないといけないな…そんな事を考えてました。


「ううっ…眠くなってきました」


 思い起こせば一昨日の晩あたりからまともにベッドで布団と枕に包まれてゆっくり寝てなかったのを思い出しました。

 この二日で私の世界は大きく変わりました。失った物、新たに得たもの――。

 激動の2日間を超えて疲れ果てていた私はすぐにでも夢の世界に旅経っていきました。






夢の中であの砂漠で砂蛇様に再び出会いました。


そこで砂蛇様に色々と教わりました。砂漠の砂糖の事、私の神秘の事、私が授かった身体の奥で疼く砂蛇様のお力の事。


力のコントロールや色んなスキルの名前と使い方。


沢山教わった……そんな気がしました。




(おわり)

イベントクリアを確認しました。クリア報酬の「★★★朝顔ハナエ(アポピス)」を入手しました。

これにより、分岐個別シナリオイベント「アポピス化朝顔ハナエ ラスボスシナリオ」ルートが解禁されました。

「★★★朝顔ハナエ(アポピス)」カードを育成し、特定のキャラを揃え、親愛度やフラグ管理を目標値にするとこのシナリオイベントルートへと突入します。

このイベントシナリオを完走しラスボス戦クリア時の編成や成績、道中のプチイベント選択肢によるフラグ化やキャラクターの親愛度により、下記の5つのルート専用エンディング(書き下ろし専用イベントスチル付き)がどれか一つ閲覧できます。


トゥルーエンド『親愛』

ハッピーエンド『大団円!!私達救護騎士団は永遠に不滅です!!』

ノーマルエンド『うさぎさんとへびさん』

ビターエンド 『やさしい蛇の飼い方』

バッドエンド 『救護騎士団団長には3つの名と顔がある』

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