第四次、とある辺境にて
(オリジナル魔法少女注意)『──────────』
敵地の真っ只中を、悠然と歩む影が一つ。
時代が移り変わるたびに開かれた、三度の魔法少女達による大戦、その産物、その結晶。
グール技術と度重なる機械改造によりその身体を大きく歪なものとした魔法少女……アイアンバッシュ。
ざりざりと太く長い鎖が地面を削り、全身を覆う防弾コートの内側からは尖った鉄の棒や獣の爪めいて歪曲したナイフが突き出ている様は圧倒的な凶暴性を孕んでいるように見える。
『……』
ふと、その足が止まった。一瞬の静寂。
『‼』
アイアンバッシュのコートから、鉄骨を組み合わせた無骨なアームが突き出す。
ガキィンッ‼という音と共に、アームに火花が散った。
アイアンバッシュの視線は、その時既に放たれたであろう方向のその先を睨み、高倍率レンズカメラアイに差し替えられた右目が狙撃銃を構えた攻撃者を捉えていた。
『──────‼』
声として認識出来ない咆哮と共に再びアイアンバッシュのコートがはためき、内部より手裏剣じみた旋盤カッターが四枚、空気を裂いて唸りを上げながら攻撃者へと襲来する。
二枚のカッターが、攻撃者の持っていた狙撃銃を三つの鉄屑に切り刻む。そして残る二枚のカッターは攻撃者の首と顔に殺到し──────。
ギン、キィンッ‼と硬質な音を立てて、軍服の攻撃者に向けて放たれたカッターは弾かれた。
苦悶の顔が無数に貼り付けられた軍服を纏ったその魔法少女の体はまるで金属質な光沢を纏い、銅像の如き様相を放っている。
『──────』
それに対するアイアンバッシュの行動は迅速であった。
悠然とした歩みから一転、コートを翻し猛然と軍服の魔法少女へと突撃する。
鉄骨を組み合わせた無骨なアーム。銅像の魔法少女を一撃の下に粉砕せんと振り下ろし……空を切る。
アイアンバッシュの顔の横を、蝶が舞った。
「シィッ‼」
『‼』
銅像から蝶に変身していた魔法少女が奇襲として放った蹴りをアイアンバッシュがギリギリで防御できたのは、なんでもありの魔法少女との戦闘を多数経験していたからに他ならない。
とはいえ、際どいタイミングでの防御。
姿勢が崩れアイアンバッシュの巨躯が地面を削り、コートから多数の武器を取り落としながら後退する。
「どうも、アイアンバッシュ」
蝶から再び元の悍ましい軍服姿に戻った少女は、長い髪を手櫛で整えながら、口を開いた。
「同郷のよしみ、ここで引導を渡してやるよ」
アイアンバッシュもまた、ナイアの言葉に応えるように、コートを引き裂きながら隠していた姿を顕にした。
細い肉体に食い込む多数の鉄屑と機械。背中からは無骨なアームや太い鎖が飛び出し、四肢は機械やコードが乱雑に組み合わさったものに置き換えられている。
その口は太い糸で縫い止められ、カメラアイに換装された片目が鋭く眼の前の敵を見据えていた。
『──────────‼』
アイアンバッシュが、吼え猛る。
全身に組み込まれた兵器が駆動し、唸りを上げる。
荒れ狂う暴威を前にして、ナイアはただ不敵に笑みを浮かべ、コンバットナイフを構えた。