第六章

第六章

藍染のイメチェン

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双殛の丘


「ま…待て…。あんた…なんで俺達が…西流魂街から来るってわかってたんだ…?」

「…おかしな事を訊くね。決まってるだろう。西流魂街は浦原喜助の拠点だからだよ。彼の作る穿界門で侵入できるのは西流魂街だけだ」

「…な…」


 本当に何も知らない様子の一護の顔を見て、藍染が訝しむ。その顔から微笑みの仮面が剥がれた。


「…何だその顔は。君達は彼の部下だろう? 君達は浦原喜助の命令で朽木ルキアの奪還に来たんじゃないのか?」

⦅一護はまんまと利用された、というわけか⦆


 一護は藍染の言葉を飲み込み切れないようだった。カワキは冷静に、どこからが浦原の仕込みだったのかを記憶から辿る。


「…ど…どういう…」

「…成程。どうやら、何も聞かされてはいないようだね。…まあ良い。最後だ、僕が教えておこう」


 死神の限界。虚化。崩玉。特殊な義骸。浦原の策略……。藍染の口からは次々と一連の事件の背景が語られる。話は四十六室の暗殺に差し掛かった。


「…だが幸い数ヶ月後に君は現世で発見された。僕はすぐに四十六室を――」

「藍染!!!!」


⦅来たか……。今のうちに――…⦆


 地響きをさせて、藍染の背後へ狛村が降り立った。怒りと共に振り下ろされた白刃を藍染が指先で受け止める。


「…随分久しぶりだね。その素顔を見るのは。どういう心境の変化かな…狛村くん」

「何故…そうして笑っていられるのだ…藍染!!! 我等全員を謀った貴公の裏切り…儂は決して赦しはせぬ!!」


 藍染は狛村が繰り出す掌底を飛び退いて回避した。狛村の怒りの炎は東仙に対しても燃え続けているようだった。

 激しい剣幕で争う隊長格同士の戦いを横目に、カワキは静かに、けれど確実に。己が受けた傷を癒やしていく。


「破道の九十“黒棺”」

(――……同じ隊長格同士で…ここまで手も足も出ねえのかよ――――…)


 戦況は刻一刻と悪化していく。狛村を倒した藍染が再びルキアの首輪に指をかけて話を仕切り直した。


「済まない。君達との話の途中だったね」


 斬り裂かれた腹の止血は済んだ。だが満足に動けるまでには至らない。藍染が会話する気でいる事は幸いだった。カワキは森に潜む獣のように鋭い眼差しで、藍染を見据えたまま治療を進める。


⦅一護の傷も止血しないと……⦆


 話を再開した藍染は、四十六室を暗殺して成り代わっていたことを明かす。そして、ルキアから崩玉を取り出すために大霊書回廊で浦原の研究を調べたと、懐から筒の様なものを取り出した。


⦅大霊書回廊――危うく鉢合わせるところだった…⦆


 カワキは少し前に、その大霊書回廊へ足を踏み入れていた。荒らされた形跡が無かった理由に納得しつつ、鉢合わせになっていたかもしれない可能性に眉を顰めた。


「…そう。これがその――」


 藍染の話は進む。取り出された筒はスイッチの様な造りになっていた。カチッと音を立てて上部を押すと、藍染達の周囲を丸く囲むように先の尖った竹のようなものが現れる。一護から血の気が引いた。


「…待――――」

「解だ」


 藍染の右手がルキアの胸を貫いた。胸に穴が開いて、引き抜かれた手にはケースに入った小さな球体がつままれている。ルキアが膝から崩れ落ちた。


「…驚いたな。こんな小さなものなのか…。これが“崩玉”…」

⦅あれが――…。死神の虚化が実現しては、メダリオンが置き物になるな――…侵攻の計画が狂う…⦆


 カワキは食い入るように、崩玉をじっと見つめていた。ルキアの胸の穴が波打つように塞がっていく。藍染はその技術を称賛しながらも、ルキアの首輪を掴んで持ち上げた。


「君はもう用済みだ。殺せ。ギン」

「…しゃあないなァ。射殺せ“神鎗”」


 市丸の刀からルキアを庇ったのは白哉だった。ルキアは悲痛な声で「兄様」と何度も呼びかけ、藍染から白哉の頭を抱きすくめて庇う。刀に手をかけた藍染が引き抜くより、夜一と砕蜂が抑える方が早かった。


「…これはまた随分と懐かしい顔だな」

「動くな。筋一本でも動かせば」

「即座に首を刎ねる」


 なんだ。結局殺さなかったのか。まあ今は戦力が多いに越したことは無い。カワキは砕蜂と共に現れた夜一の姿に、そう考えながらゆっくりと起き上がった。そのまま一護のそばで治療に移る。


「……成程」


 藍染の呟きと同時に、地響きを響かせながら、家屋を潰して三人の門番達がやって来た。逆に窮地に追い込まれた夜一達だったが、空から兕丹坊と共に空鶴が降りて来る。二人の助力で門番達が薙ぎ倒された。


「……ぅ…カワキ…」

『止血はしておくけど、まだ動かないでね』


 ――どうせ動けないだろうけど。

 最後の言葉は口には出さず、カワキは一護の傷を止血した。死なない程度の治療だけに留めたのは、動けるまでに回復しては、この無謀が人の形をしたような少年は藍染に向かって行くと予想できたからだった。


「ひゃあ、派手やなァ…どないしよ?」

「動かないで」


 増援は次々にやって来る。松本が背中から市丸の腕を掴み、刀を首に突きつける。到着した死神達も藍染一派を取り囲んで刀を構えた。


「…終わりじゃ。藍染」


 夜一の言葉に藍染は笑った。訝しむ夜一。


「…どうした。何が可笑しい藍染」

「…ああ、済まない。時間だ」

「! 離れろ砕蜂!!」


 二人が退避すると同時に、四角い光が藍染達に降り注いだ。空が裂けて、大きな手が差し込まれる。大虚だ。それも何十体もの。

 『――…まさか…』と呟いたカワキの脳裏に、かつて石田が撒き餌を使用した時の事件が過ぎった。

 光に包まれた藍染達は地面ごと空の裂け目に向かって持ち上げられて行く。


「逃げる気かいこの…!」


 追いかけようとした射場を、総隊長が「止めい」の一言で制止した。反膜(ネガシオン)を知る総隊長は、あの光が降り注いだ瞬間から藍染には触れることもできないと言う。


「…大虚とまで手を組んだのか…。…何の為にだ」

「高みを求めて」

「地に堕ちたか藍染…!」


 宙に浮かぶ藍染に、地上から浮竹が問いかけた。厳しい表情の浮竹に、藍染は笑みを消して告げる。


「…傲りが過ぎるぞ浮竹。最初から誰も天に立ってなどいない。君も、僕も、神すらも。だがその耐え難い天の座の空白も終わる」


 「これからは――」と続く言葉を紡ぎながら眼鏡を外した。そのまま前髪をかき上げる。


「私が天に立つ」


***

カワキ…藍染が長話してる間に残りHPが7割くらいまで回復。自分の治療は全力。


一護…カワキに応急処置はしてもらえた。


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