第二章
京楽登場瀞霊廷内部
轟音と共に、チャドの拳から閃光が放たれる。自身の掌を眺めながら、チャドは鍛えてくれた夜一への感謝を胸の内で呟いた。
⦅随分と連発できるようになってるな。面白い力だ⦆
カワキは後ろを走り、チャドの様子を観察しながらそう考えた。
はぐれた仲間達の心配をしながら走るチャドの前に、またしても死神が立ちはだかる。死神を殴り飛ばしたその時、どこからか花びらが舞った。
「ひゅーーっ♪ やるねえ!」
通路の先を見遣ると、花の着物を羽織った男が降り立った。カワキが少し目を見開いて男を見遣る。
⦅……八番隊隊長 京楽春水。総隊長の教え子と当たるとは…幸先が良いのか悪いのか……。茶渡くんでは勝てないだろうな⦆
さて…どうするか……。冷徹に考えるカワキの前で、朗らかな笑みを浮かべた京楽が名乗りを上げた。
「八番隊隊長 京楽春水。初めまして♡」
「――…八番隊……隊長…」
剣呑な顔付きで呟くチャドの前で、京楽が大量に降ってきた花びらに埋もれる。
「…悪いが…コントにつきあってる暇はないんだ…。…通してもらうぞ」
「なんだい。もうちょっとノッてくれてもいいじゃないの。どいつもこいつもつれないなあホント…」
真面目な顔のチャドが京楽に退いてくれと告げる。力量を推し量るような目をしたカワキも追随した。
「先を急ぐんだ、そこをどいてくれ。あんたは悪党じゃなさそうだ。できれば戦いにはなりたくない…」
『私としても無駄な争いは避けたいところだ。退いてくれると助かるな――…あなたは随分と強そうだ』
花びらの山から立ち上がった京楽は、顔を緩めて頭を掻いた。
「いやぁ、かわいい女の子に褒められると照れるなぁ〜! ……しかし参ったね、どうも」
ふっと肩の力を抜くように笑うと、幾分か真剣な顔で二人に退くように促す。
「喧嘩が嫌はお互い様。だけどこっちは通られても困る。なんとか退いちゃくれないもんかね」
「…それはできない」
「…そうかい。そいじゃ仕方ない」
張り詰めた面持ちで断るチャド。カワキは一言も発することなく、真意を探るようにじっと京楽を見つめていた。
仕方ないと目を閉じた京楽が地面に座り込み、ドンと酒瓶を取り出す。
「呑もう! 仲良く!」
「……………。…は?」
呆気に取られるチャド。カワキは酒瓶を持つ手許に視線をやった。
⦅戦う気が無いのか? 実力差はわかっているはず――…この処刑自体に裏がある? 考え過ぎかな⦆
黙ったまま考え込むカワキ。意図が読めず、困惑するチャド。京楽が二人を説得するように話を続けた。
「イヤイヤ、退くのがダメならせめて ここで止まってくれないかと思ってさ。なに、少しの間でいいんだ」
『……酒は好きだよ。日本酒は特に好き。だけど生憎、それっぽっちの量じゃ私の足を止めるには足りないな』
「おっ、若いのにいける口かい? ならそうつれないこと言わずに、ちょっと付き合っておくれよ」
カワキが軽口を叩くようにして情報を引き出そうとする。京楽が気の抜けた笑顔で会話に応じた。
「今、他の隊長さん達も動いてる。じき、この戦いも終わるからさ。それまでここで少しの間、ボクと楽しく呑もうじゃ…」
「…他の隊長…?」
じきに戦いが終わると説得する京楽。しかし、他の隊長格も動いているという話に、チャドの雰囲気が一変する。
「一護や…他の連中も…。隊長格に襲われてるのか…?」
「…参ったね。失言だったかな、どうも」
『……いいや、教えてくれて助かったよ。いいことを聞いた。ありがとう、京楽さん』
京楽が口にした言葉にカワキが礼を伝えた。その頭の中で、手に入れた情報を整理していく。
⦅ある程度 予想はできていたとはいえ、隊長格が複数人動いているという情報が確定したのは大きい。やはり何かあるな⦆
ため息をついた京楽に向かってチャドが一歩踏み出した。杯を傾けて酒を呑みながら京楽がチャドを見遣る。
「…事情が変わった…。京楽さん…今すぐそこをどいてくれ…」
「…嫌だと言ったら?」
「言わせない!!!」
チャドが拳を振るい、激しい閃光とともに重い一撃を放つ。素手で打ち払った京楽が呟いた。
「…面倒なことになってきたねえ、どうも」
***
カワキ…チャドを繰り出して様子見をする最悪のポケモントレーナー。お酒が好き。アホみたいな呑み方をする上に酒に強い。他人を酔い潰す事に躊躇無し。樽でくれ。