第二章「儚い少女たちの祝宴」終幕
※第二章の書きたいところを書いたものです。
※登場人物の関係性や出来事などは私の想像に基づいて書いています。
※また追々追加すると思います。
※ヤコウたちがだいぶ悪どいことをしています。
「アイコ? 嘘、しっかりしてよ……アイコ……」
花弁が雨に揺れる。
一人の少女が倒れている。
一人の少女が名前を呼んでいる。
赤い制服が雨に濡れ、重く体にまとわりつく。
こんなこと、するつもりじゃなかった。
舞台の演出について口論になってしまって。ちょうど親から重圧をかけられていて。ふと足元を見ると持ち上げることができそうな煉瓦があって。
気がついたら、足元にアイコが倒れていて。
彼女の頭部と、持っている煉瓦に血がベッタリとついていて。
確かに、アイコの輝く笑顔が、優しさが、辛い時があった。
だけど、だけどだけど!
「だれか! 誰か助けて!」
夜中の学院に人影は無く。カレンは雨の中を駆け出した。一心不乱に校門まで走ると、薄暗くてよく見えないが人の姿に気がつく。
「アイコが、アイコが!」
震える声で叫ぶ。
近づいても夜の闇と雨に紛れて相手の顔はわからない。それでもカレンは、俯いて震えながら縋るしかなかった。
「どうしよう、どうしよう、そんな、そんなつもりじゃなくって!」
「お、落ち着いて。一体どうしたの?」
思ったより優しげな声だった。
穏やかな言葉と声に安心して、カレンは顔を上げる。
——そして、言葉を失った。
見間違えるはずがない。
見間違えられるはずがない。
カレンが縋った相手は。
カレンを優しげな瞳で見下ろす彼は。
アマテラス社保安部部長ヤコウ=フーリオ、その人であった。
「——ああ。これは死ぬね」
有無を言わせぬ態度でカレンに案内を頼んだヤコウは、虫の息で倒れているアイコを見下ろすや否や、そう判断した。
「今すぐ救急車か……まぁ、オレの部下を呼べばどうにかなるかもしれないけど」
「お願いします! アイコを、アイコを助けて!」
懇願するカレンを侮蔑するように目を細めたヤコウは、徐に口を開く。
「いいの?」
「……え?」
「ここでオレが救急車を手配すれば彼女は必ず助かる。けど、君は?
将来有望な女優である君が傷害事件を起こした。しかも相手は同じ学院の人気者。同じ演劇部のみんなは、お父さんやお母さんはどう思うだろうね?」
「え……あ……」
ヤコウの言葉が、ぐるぐると頭の中を回る。
「まぁ、君は未成年だし、突発的な犯行だから色々酌量の余地はあると判断されるかもしれないね? けど……きっと君はもう二度と舞台には立てない」
月の光も星の光も無いカナイ区の夜に立つ男。彼は女学院に咲き誇る淡く輝く花に照らされ、人ならざる何かのような壮絶な笑みを浮かべて、カレンをじいっと見つめていた。
「オレ、一応保安部の部長だから、君を助けてあげられるよ。君の未来を守ってあげられるよ」
手を差し出しもしないくせに、まるで救いの神様のような優しい言葉を少女にかける。
「さぁ……どうする?」
——そして、彼女は。
——選んだ。選んでしまった。
雨に紛れてしまうようなか細い声がカレンの喉から漏れる。
「たす……けて……」
「ハッ——そう言うと思ったよ。人殺し」
ヤコウは一転、氷のように冷たい声で言い放つと、へたり込んでしまったカレンに背を向けて虚空へと声をかける。
「あいつらを集めてくれ」
そして何もかもに興味を失ったように校舎の壁にもたれて煙草を吸い始める。
呆然とその様子を見つめるカレンに気がつくと、薄い笑みを浮かべ口を開く。
「すぐにオレの部下が来る。後はオレたちに任せて君は素知らぬ顔でいてくれればいい。
『カレンちゃん』は演技が得意なんだろ? バレたくなければ頑張るしかないね」
「あ……」
頷くことも、何か反応を返すこともできずに、カレンはへたり込んだまま、呆然と地面を見つめていた。
しばらく経った頃、複数人の足音が聞こえてくる。
——もうとっくに、アイコは事切れていた。
「すまない、遅れた」
「いいよ。こっちこそ夜中に悪いな。今度何かで埋め合わせするから」
凛とした声にヤコウがヒラヒラと手を振りながら応える。カレンも声の方向に振り返ると、そこには四人の人間が……保安部の幹部達が立っていた。
カレンも知っていた。保安部の幹部達は異能力を持つのだと。その能力を使い暗躍しているのだと。
雨に打たれた寒さによるものとは違う身体の震え。
目の前の風景が遠くなっていく。
「大丈夫ですか?」
嫋やかな手が差し出される。幹部の一人、フブキ=クロックフォード。他の幹部よりも比較的悪い噂を聞かない彼女であるが、そんな彼女にも人間離れした能力が宿っており、その力を使いカナイ区の住人を苦しめてきたのかと思うと——より恐ろしく感じる。
カレンの畏怖に気づいていないのか、フブキは優しくカレンを立ち上がらせ、そっと微笑みかける。ハンカチさえ差し出してくれる。
「まぁ、こんなに身体が冷えて……風邪をひいてしまいます。夜は危ないですし、一緒に帰りましょう、カレンさん!」
「は……はい」
こくりと頷くとフブキは「では部長、わたくしこの方を送って参りますね」と朗らかに声をかける。ヤコウは頷くと長身痩躯の影のような青年に「送っていってあげて」と命じる。青年は——ヴィヴィア=トワイライトは従順に頷くとこちらに近寄ってくる。
「じゃあ、行こうか……フブキくん」
「はーい!」
場違いな程に静かな声と、場違いなほどに明るい声。
保安部に連れられ、カレンはその場を去っていった。
「お願いカレン、本当のことを言って」
夜の邂逅から、半年経って。
カレンはアイコの友人の一人であるクルミに問い詰められていた。
彼女の手にはカレンとヤコウが話している場面が写された写真——ヨミーの力を借りクルミが手に入れた揺るがぬ証拠が握られていた。
「な、なんでそれを——」
——アイコを殺してしまった日から、決して誰にも言えない、大きく昏すぎる秘密を抱えることになったカレンは、叫び出し何もかも打ち明けたくなる衝動と闘いながら完璧な仮面を被り演技を続けていた。
心を真っ二つにして、しかし必死に繋ぎ止めて苦しんで。誰にも……親にも友達にも相談できない。秘密を抱えていることをそもそも悟られてもいけない、そんな日々。
それに、保安部がどこで見ているかわからない。幹部の一人であるデスヒコ=サンダーボルトの能力は知っていたが、他の幹部に関しては何も知らない。何をきっかけにバレてしまうかわからない。もしも探偵に縋ったところを見られたら。あの時、ハララ=ナイトメアに顔はしっかりと見られていた。——殺される! 殺されてしまう! 今まで隠したことが何もかも無駄になる! アイコを殺したと知られてしまう!
……もう、カレンの心は限界だった。
けれど、不幸なことに。カレンの演技は完璧だった。
——目の前のクルミがカレンの異常に気が付かない程度には。
「このまま黙ってたら、カレンの未来もダメになっちゃう」
「みらい……」
「今、探偵さんが来てるの。二人とも優しい人だからきっと……」
「——私の未来は!!!!! こんなんじゃないッッ!!!!!」
クルミからは、突然カレンが豹変したように見えたかもしれない。
しかし、真実は違った。
ただ、ただ。取り繕っていただけだった。
突き飛ばす。
手を伸ばす。
前に向かって。
未来に向かって。
◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆
ユーマと死に神ちゃん、そしてスワロが謎迷宮の最奥で出会ったのはカレンだった。
変装を駆使した隠蔽工作を行ったのはデスヒコとハララでも、殺しの犯人はカレン——そう謎迷宮は定義した。
真実を突きつけたユーマに呼応し、カレンの魂が姿を現す。
魂の姿になったカレンは——いや、謎怪人となってからずっと——泣き続けてアイコとクルミに謝り続けていた。
「ごめんなさい、ごめんなさい……」
演技では無い彼女の本心。
ポロポロと頬に涙が伝う。
痛ましげにユーマとスワロがカレンを見つめる。
「カレン……君は保安部に縋ってしまったんだね……」
「誰にも言えなかったのでしょう。殺人なんて、大人でも抱え込めない大きな闇なのに、それをこんな子供が……」
スワロが泣きじゃくるカレンの涙を優しく拭う。
「もちろん、殺人は許されることではないわ。けれど、少なくともクルミ=ウェンディーの殺害は……カレンのそばに頼れる大人がいれば防げたはずよ」
「そもそも、カレンのアイコ殺しだって、保安部の恐怖政治によるストレスが原因の一つのはずです」
『んじゃあ全部モジャモジャ頭のせいじゃん!』
「……そう、だよ。ヤコウ部長……彼のせいで……」
「ユーマ。貴方と保安部にどんな因縁があるか……私はわからなかった。けれど」
スワロがユーマを労わるようにそっと肩に触れる。
「彼らに同情したまま敵対するのは、辛いわよ」
「……」
『眼鏡ビッチ。残念だけど、ご主人様の甘さをナメてるね。死神たるオレ様ちゃんが某真犯人を抱きしめて送り出してやっても良いかもなーって考えるようになるぐらいには甘ちゃんなんだよご主人様は』
黙ってしまったユーマを鼓舞するように死に神ちゃんがビシッとスワロに言い放つ。
『ご主人様は自分がしんどくても、きっと甘ちゃんのまま事件に挑むんだよ。だからオレ様ちゃんが代わりに怒ったりするんだ。だってオレ様ちゃんとご主人様は一心同体! 健やかな時も病める時もずっと一緒だもんね!』
「ふふ……ヨミー様と私には及ばないけれど、良い関係性なのね」
『あぁ!? 及ぶに決まってんだろー!? やるか!?』
スワロに威嚇する死に神ちゃん。そんな彼女の様子にふっと頬を緩ませた後、カレンへと振り返る。
「探偵さん……真実を暴いてくれてありがとう……。ずっと、ずっと……辛かった……。助けてくれて、ありがとう……」
カレンは泣いたまま、けれど美しく微笑んでみせた。
「もう、自分を偽らなくても良いんだ……演技なんてしなくてもいいんだ……」
カレンの瞳がそっと閉ざされる。
「ごめんね……アイコ……クルミ……」
『——さて。もう覚悟は決まってるみたいだし、はじめよっか!』
死に神ちゃんの声が響き、彼女の手に大鎌が現れ——クルミ殺しの謎迷宮は崩壊していった。
◆
「じゃ、聞かせてくれよユーマ。お前の推理——うおおっ!?」
「これは……」
エーテルア女学院の演劇ステージの上で対峙していた探偵達と保安部の幹部は、突如倒れた客席のカレンに目を向ける。
そばにいたヨシコがカレンを揺さぶって……ひっ! と声を上げた。
「し、死んでます……! そんな……なんでカレンまで……!」
「クギ男事件の時と同じだ」
ハララが腕を組んでユーマを睨みつける。
「キミが殺したんだな。ユーマ=ココヘッド」
『……正確にはオレ様ちゃんだけどね』
「いや、正確にはキミと契約している死神だったか」
『オレ様ちゃんのセリフに被せないでくれる!?』
プンスカ怒る死に神ちゃんの姿をハララは当然認識できないので、そのまま言葉を続ける。
「素晴らしい能力だな、名探偵。キミの推理で真犯人は死ぬ。真実さえ暴けば事態が解決できるなんて思考停止した御伽話を現実にしてしまうとは。感服ものだ」
ハララが嘲笑を浮かべながらユーマに語りかけている間、デスヒコが倒れたカレンを抱き起こす。
事切れた彼女は、まるで祝宴を楽しむお姫様のように安らかな顔で死んでいた。
「本当に、死んでる。ヴィヴィアの虚言じゃねーんだな……マジで死んじまったのかよ……」
デスヒコが部下に合図を出しカレンの死体を移動させる。この街では雨の影響で死体が腐りやすい——そう、住民達は信じている。
カレンの死体が運び出されると、デスヒコはステージに戻り、ユーマと向き合う。
「お前は……その力を使うことに躊躇いはねーのかよ。なんでそう簡単に命を奪えるんだ。
人が、死んだんだぞ。お前のせいで」
デスヒコの瞳は冷たくユーマを見据えている。
元の世界にいた頃から、ユーマは真実を暴いた結果「世界が壊れてしまう」葛藤を抱えてきた。死に神ちゃんとヤコウ所長の言葉のおかげである程度区切りをつけることには成功したが、それでもデスヒコの言の刃は彼の胸に突き刺さる。
『は、はぁ!? このチビッコは何言っちゃってんのさ! そもそもペタンコが死ぬことになったのって、保安部のせいじゃん!』
死に神ちゃんが憤然と言い放つが、残念ながら彼女の声を聞くことはユーマ以外にできない。しかし彼女の代弁するかのようにスワロが口を開く。
「ユーマに責任転嫁をするつもり? そもそもあなた達が以前のように勤勉に働いていればこんなことは起こらなかったんじゃないかしら?」
ユーマを庇うように前に出たスワロが挑発的な笑みを浮かべる。
「彼があなたたちと同じように人の命を簡単に奪えるような人間に見えるなら、貴方の目は相当の節穴ね」
「スワロさん……」
「ユーマ。私は覚えていないけれど、貴方は真実を突き止めたのでしょう? ならば立ちなさい。ここで膝を折っていてはヨミー様の期待に応えられないわよ」
「……!」
ユーマはスワロの言葉に瞳を瞬かせ、ゆっくりと立ち上がる。
そして、デスヒコとハララを見据えて、口を開いた。
「カレンは死んでしまったけれど……それでも、ボクは彼女の想いを知ることができた。起こってしまったことは変えられないけど、想いを蔑ろにしないために、ボクはこれからどうすれば良いのか選ぶことができる……!」
「……」
デスヒコがかすかに息を呑んだ。しかしすぐにユーマを睨み言い放つ。
「開き直ったところで、お前のせいでカレンは死んだことには変わりねー。きっと将来たくさんのスポットライトを浴びるスターになれたはずの彼女を殺したのはお前だ! ……それを忘れるんじゃねーぞ……!」
言うやいなやデスヒコはユーマに背を向け、劇場から去っていく。ハララは無言でユーマとスワロを睨みつけ、立ち去っていく。
ステージ上に残された主役たちは顔を見合せ頷いた。そんな彼らの耳に届いたのは、少女たちの弱々しい嘆き。
「……私たち、これからどうすればいいんだろう」
ヨシコの声だ。ワルナとクラネも顔を見合わせる。
「貴女達はまだ生きている。貴女達には未来がある。それに、一緒にいる友人も」
スワロがこつ、こつ、とヒールの音を響かせながら舞台から降り、少女達に近寄る。
「辛いことがあったら、支え合える人が居る。そうして未来を生きていけば良いのよ。私たち大人も貴女たちを守るから」
スワロの微笑みに、少女たちは頷いて手と手を取り合った。
まだ、涙の痕が残っていたけれど、それでも笑顔を浮かべることができていた。
◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆
「馬鹿だな。人を殺した化け物に未来なんてあるはずないのに」
幽体離脱でエーテルア女学院の一件を見守っていたヴィヴィアから報告を受けたヤコウは吐き捨てるように呟いた。
かつて部下たちと過ごした小さな部屋から、本社の一番大きな部屋に移転した保安部には、ある絵画の複製画が飾られている。
『メデューズ号の筏』。
さる国の上層部の無能によって人々が筏で漂流することになった事件を描いた絵画だ。
ヤコウはぼんやりと絶望する人々の絵画を見上げる。何が面白いのか、うっすらと笑みさえ浮かべていた。ヤコウ以外がいない部屋で椅子に体を預けクツクツと笑うヤコウの様子はまるで何かに取り憑かれたかのように見える。
「それにしても残念だな。もう少し死ぬと思ったんだけど。
所詮人間もどきには友人の仇を討つなんてできないのかな?」
普段であればヴィヴィアの幽体離脱を警戒して無闇に自分の考えを声に出さないヤコウであったが、現在ヴィヴィアはハララやデスヒコと一緒にいことを把握している。
「部下を見てると、人間もどきにも仲間意識とかあるもんだ、って思ってたけど」
懐から、一枚の写真を取り出す。
青い空の下。ヤコウと彼の妻、そして部下たちが写っている写真だ。
「大切に思っているなら、想いが踏み躙られることを、未来を奪われることを……許せるはずがないだろう?」
◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆
今は使われていない旧保安部室。
ヴィヴィアは暖炉の中に入り込み、一冊の本を読んでいた。
この部屋は三年前から何も変わらない。いや、変わらないように四人皆が必死で保ち続けていた。
時折、ヤコウも訪れていることを知っている。知っているけれど、誰も口に出さない。
本のページを捲る。中盤まで読み終えたところで、旧保安室の扉が開いた。
「……やぁ」
ヴィヴィアが暖炉の中から手を振る。ハララとデスヒコが浮かない顔で入室してきたのだ。
「お疲れ様」
ヴィヴィアがデスヒコに労りの言葉をかけることができるのは、時が止まったこの部屋だけだ。
宝石の中のような閉塞感の中で、ようやくヴィヴィアは呼吸ができる。
もっとも、それはヴィヴィアだけでなく、ハララやデスヒコ、フブキも同じだったし、ヤコウもそうなのかもしれない。
ハララは豪奢な椅子に腰掛け、デスヒコは白いソファーに座り込んでしまった。
ヴィヴィアは幽体離脱の能力を使って、彼らを見守っていた。だから、彼らが意気消沈する理由もわかった。
あの死神探偵。ユーマ=ココヘッドが。
まるで三年前のヤコウ=フーリオみたいなことを言うものだから。
少し、足が止まってしまったんだろう。
「……オイラもハララも共犯者にカウントできるポジションにいたけど死んじゃいねぇ。ユーマ=ココヘッドが殺せるのは実行犯だけみてーだ」
「部長は、直接人を殺したことはない。『あの男』が全て代わりに行っていたからな」
デスヒコに続いてハララが口を開く。
「今は問題無いだろうが、もしもユーマ=ココヘッドの能力が拡大した時——危害が及ぶ可能性がある」
ヴィヴィアはハララの「今は問題無い」という言葉に安心感を抱くことができなかった。
ヴィヴィアだけが知っている、ヤコウの秘密。
彼が自らの妻を殺害したこと。
もしも、ユーマがその事実を知ったら。真実が明らかにされてしまったら。
……ヤコウが殺されてしまう。
それだけは、絶対に看過できない。
「何か、彼の対策を練ったほうがいいかもしれないね……」
ヴィヴィアの静かな声に、ハララもデスヒコも重々しく頷く。
欠落だらけの過去を積み上げた部屋の中で、何もかも変わってしまった彼らが黙って佇んでいる。
雨の音は止まない。