第二十話『海兵としての仕事』
「とある島の港町からの救援要請。海賊達に襲われてるって話だけど、届いた情報から察するとバギー海賊団の可能性が高い……って聞いてんの?! ルフィ少尉!!」
「イテテテ!! 聞いてるって!! 引っ張んのやめろよ!! ナミ!!」
エースが入団してから二年後にはルフィが、更に一年後にはナミが海軍へと入ってきた。今現在ルフィは少尉、ナミは曹長の階級にいる。
一年入団が遅れたせいでルフィの下に付くことになった事を、事ある毎にナミは嘆いている。けれども、自由奔放、猪突猛進なルフィを抑えられるのはナミぐらいなので、下の部下達としては内心良かったとホッとしているものも多い。
今日も今日とて、これから救援に行く島の状態をルフィに説明していたのだが、ちっとも聞いている様子がない彼に。ナミはちぎれそうなぐらいその頬を引っ張っている。
覇気なのかそれともそれ以外の要因か、ゴム人間であるはずのルフィは痛みを訴えてナミに抗議した。
「ちゃんと聞きなさいよね!!」
「わかった!! わかったって!!」
「ったくもう……」
バチンと勢いよく離された頬をルフィは押さえながら、何でおれゴムなのにイテェんだ? とかなんとかブツブツ呟いている。
「で? ミギー海賊団って?」
「バギー海賊団!! 船長はバラバラの実の能力者よ!!」
結局しっかりと聞いていなかったルフィにもう一度ナミは説明をした。今度は一応説明を聞きながらも、ルフィはどこか上の空。
「……エースの事?」
「………」
今やあの若さで少将という階級まで上り詰めたルフィの兄エース。そんな彼が、ココ最近僅かに緊迫した気配をまとわせてる事はナミも察していた。何かを探していることも。だが、彼は自分達に何も言ってくれない。
「デュースもゾロもブルックも傍にいるでしょ? ガープさんだっているわ」
「……うん」
弟として思う所があるのだろう、ルフィもこの所どこか元気がなかった。ナミも大丈夫とルフィを励ますが、心の中ではエースを心配している。あれだけの強さやカリスマ性を持ちながらも、どこか危うい所があるエース。デュースがそういった面をサポートをしていると分かりながらも、やはり不安だ。
ナミでさえそうなのだから、ルフィはより心配なのだろう。
「とりあえずサッサっと倒して本部に戻りましょ?」
「それもそうだな…… よし!!トットとぶっ飛ばすぞ!! マギー海賊団!!」
「だからバギー海賊団だっての!!」
まるで漫才のような二人の会話を部下達は微笑ましく見守っていた。
「……酷い……」
島に着いてみれば、家は壊され瓦礫と化し。所々火の手が上がっている場所もある。あまりの惨状にナミは声を震わせた。
「シュシュ……もう諦めろ……」
街中を救助を求める人がいないか、急いで見回れば。燃え盛る家屋の前に男性一人と一匹の犬がいるのを見つける。
初老の男性は涙を流しながら、必死に炎の中に飛び込まんとしている犬を押さえていた。
「大丈夫ですか?!」
ナミは一人と一匹に慌てて駆け寄る。
「おお! 来てくれたのか!!」
海軍の姿に喜ぶ男性を燃え盛る家の前から安全な場所まで誘導しながら、彼に話しを聞いた。彼はどうやらこの町の町長でブードルという名らしい。
町の人は皆避難所に避難しており、町中にいるのは彼と彼が抱えている犬シュシュだけ。シュシュはブードルが押さえていなければ、今にも飛び出していってしまいそうなほど暴れている。先程燃え盛っていた家が、この犬、シュシュのもう帰って来ない主人の店だと言う話しだ。
「……いつもだ……いつも海賊達はわしの、わし達の宝を奪っていく……」
悔しそうに涙を零して言葉を絞り出すブードル。ボロボロになりながも主人の宝を取り戻そうともがくシュシュ。
ナミは自らの過去がフラッシュバックして思わず唇を噛み締めた。
「おっさん、犬。大丈夫だ。今からおれがそいつらぶっ飛ばしてくるからな」
暗くなった一同を前に、一人ルフィは明るく笑う。不思議と彼の笑顔と言葉には力があった。彼なら何とかしてくれるかもしれないという力強さが。
「ちょっと君!!」
そのまま走り出してしまったルフィを引き留めようとしたブードルだが、ナミに諭される。
「大丈夫。アイツ馬鹿だけど結構強いのよ? 何より、人の大切なものを傷付けるような奴らに負けなんてしないわ」
そのままナミは、部下達にブードルとシュシュの避難誘導。そして避難した町民達の安全確保を指示してからルフィの後を追った。
自分の様に、大切な人や大切なものを海賊から奪われる人が一人でも減るように。
それが私達海兵の仕事だと。