第一幕冒頭あたり

第一幕冒頭あたり


『───ここは、北の海にあったひとつの王国フレバンス。『白い街』の通り名で知られる裕福な国。「珀鉛」と呼ばれる鉛によって文字通り家も木も花も見るもの全てが真っ白な、美しい国だった。そしておれの故郷でもあった───』

聞きなれたローの声をしたナレーションが入る。

目の前にあるスクリーンに映し出されたのは、まるで童話の世界かと錯覚するほどに幻想的な風景だった。

純白の建物の上に上がる花火、楽しそうな音楽。行き交う人がみな幸せそうな顔を浮かべ、子供たちは楽しく白い石畳を駆け抜け若い男女が綺麗な服をまとい踊りあかす。

教会の中でシスターたちとたくさんの子供たちが祈りを捧げ、歌を歌っていた。


この国で一番大きな病院が映る。

年端もいかない少年と父親らしき男が廊下のソファに腰掛けていた。男は忙しなく立ち上がったりその場をうろうろしている。

「とうさま、おちついてよ」

少年の舌足らずな声が呼びかける。

「ああ、そうだな…」

しかしソワソワしている父親を見て、少年は呆れたように溜め息をついた。

突如、静かな病院内に元気な赤子の声が響き渡った。

「!!」

二人は顔を見合わせて急いで病室へ向かう。中に入ると小さな赤子を抱えた女が笑顔で出迎えた。

「おめでとうございます、元気な女の子ですよ」

助産師の言葉に父親が跳び上がらんばかりに喜んでいた。眼鏡の下の目から感極まって涙が溢れ出す。

「ああ、ああ、ありがとう、ありがとう。良く頑張ったね」

泣きながら母と抱擁を交わす父親。母の腕に抱かれている小さな存在に少年は釘付けだった。

「おいで、ロー。ほら、あなたの妹よ」

気付いた母が少年、ローを手招く。傍によると白いお包みの中でふにゃふにゃと泣く小さな存在がいた。

「かあさま…」

ローに母が頷いて、そっと生まれたばかりの妹に手を伸ばす。

すべすべでぷにぷにのほっぺにつん、と触れて、キュッと丸められた小さな手に指を差し出すと、妹はローの人差し指を力強く握り締めた。

「かあさまかあさま!にぎったよ!すごくつよい!」

興奮するローに両親は微笑む。

「あのね、この子の名前なんだけど…ラミはどうかしら?」

「うんうん!すごくいい!!さっすが母様だ!」

はしゃぐ父。くすくす笑う母。

「ラミ…ラミっていうのか。おれ、ローだよ」

ローの指を握る、小さな小さな手にキュッと力が入る。

「ロー。今日からお兄様になるのよ。ラミのこと、守ってあげてね」

「…うん!」

幼いローが力強く頷いた。

「ラミ、おにいさまがぜったいまもってやるからな!」

ローの誓いに応えるように、小さな妹が笑った。

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