第一回シャーレ会談
"このままじゃまずいよね…"
"今はゲヘナのお陰で助かったってことで、いいのかな…"
シャーレの会議室、薄暗い大部屋の中で先生は天井を見上げ、やつれた顔を両手で覆った
アビドス決戦の失敗…ミレニアムによる事前通告の無いミサイル攻撃とその直後に起きた砂嵐による両者痛み分けの決着は、キヴォトスの住民全てにこの「戦争」の泥沼化を予想させるものだった
コンコン、とドアを軽く叩く音が耳に届く
"どうぞ"
「はぁ…失礼します、先生……酷い顔色ですね、まぁ私も人のことは言えないでしょうが」
一人で待つには広すぎた会議室の扉を開いたのは、ゲヘナから万魔殿議長の代理としてやってきたイロハだった
"まぁ…ここまで帰ってくるのでも一苦労だったからね…イロハの方は?"
「こちらも指揮系統の混乱と視界を奪った砂嵐のせいで散り散りに帰投した感じです……はぁー…はっきり言ってゲヘナは"負けなかっただけ"ですね」
…事実上の戦線崩壊、継戦不能状態という事だろうか
そろそろ会議の時間だ
今日の緊急会議はゲヘナから申し出たもので、そうなるとイロハから何らかの連絡があるということになるが…
"イロハ、もしかして今日はゲヘナの代表としてその事を……"
ミレニアムとトリニティに繋ぐホログラムモニターの用意をしながら先生が問う
最近はどこも自治区内での仕事が忙しいのか、或いは自治区の外に出る事を恐れているのか会議に対面で出席することは無くなってしまった
イロハがここを訪れるのもずいぶん久しぶりのような気がする
「いえ…実は今日はマコト先輩が参加するそうなんです、アビドスの方でゲヘナの端末とは通信できるようにしたとかで…」
"……マジ?"
「マジです、ホロ投影端末も持ってきてますよ」
万魔殿議長羽沼マコト
アビドスに捕虜として囚われたゲヘナのトップ…彼女が会議に出席する用意のためにイロハはシャーレにやってきたようだ
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機器のセットアップを済ませ、グラスを呷って水で喉を潤す
(ふん…こんな細々とした準備までこのマコト様自らやらなければならないとは…全く、面倒な事になったものだ)
内心ごちつつ目を閉じて天を仰ぎ、深呼吸を繰り返して息を整える
息だけではなく心を落ち着けて…囚われの万魔殿議長、羽沼マコトは会議と演説に向けて心身の準備を終えた
そして、机に置かれたマイクとカメラの電源を入れる
「キキキキッ!イロハ!そして先生!久しぶりだな!偉大なるマコト様が帰ってきたぞッ‼︎」
"!"
「…リモートですけどね、元気そうで安心しました…おかえりなさい」
シャーレの会議室では先生が本当に繋がったと驚くような反応を見せ、イロハは僅かに安堵したようにマコトの帰還を歓迎していた
掴みは上々…と言いたいところだが
「…….ミレニアムとトリニティの代表はまだ来ていないのか?このマコト様が召集した会議なのに?」
威光を示して牽制したい相手がまだ会議に参加していない
「約束の時間ちょうどに繋いだ筈だが…なんて無礼な奴らなのだ、これは失態の分我々の要求に従って貰わなければな…キキキッ」