端切れ話 (僕ときみとのコーヒータイム)

端切れ話 (僕ときみとのコーヒータイム)


地球降下編&監禁?編

※元々は別に書いていた2つの話を1つに纏めています




 エランは飲み物にこだわりはない。その時々で何となく気が向いたものを注文する。

 その時はたまたまコーヒーを頼んだところ、注文の内容を聞いたスレッタがパッとこちらを見上げて来た。

「エランさん、コーヒーを頼んだんですか?」

「何となく飲みたくなって。…どうかしたの?」

 エランが首を傾げて言うと、スレッタはキラキラと目を輝かせて口を開いた。

「すごい、エランさん。コーヒーが飲めるなんて、大人なんですね」

「………。この辺りのコーヒーは砂糖とクリームが入っているから、君も飲めると思うよ」

 場合によってはココアが入っているコーヒーもある。エランはもう少し甘くない方が好きなので、頼むことはないが…。

「で、でも。大人にならなきゃ飲んじゃ駄目だって言われてますし…」

「きみはもう成人してるじゃないか。17歳以上で結婚もできるんだから、18歳は立派な大人だろう?スカーレット・マーティン」

「はっ、そうでした。わ、わたし…大人でした」

「追加で注文してみる?」

「………いえ、もう別のを頼んでいるので」

「そう」

「………」

 少し待っていると、その内店員が飲み物を持って来た。スレッタはベリージュース。エランはもちろんコーヒーだ。

 暖かいコーヒーなので、独特の香ばしい匂いが辺りに広がっていく。スレッタにも届いているだろう。

 エランがカップを手に持つと、スレッタの目が追いかけて来る。そのまま口に含もうとして、少し悪戯心が湧いてきた。

「もしよければ、一口飲んでみる?」

「いいんですか!?」

「どうぞ」

 カップをスレッタのそばに寄せる。彼女は喜んで口をつけて、すぐに眉間に皺をよせた。

「苦いれす…」

「砂糖とクリームを抜いてもらったから」

「ひ、ひどいです、エランさん」

「っふふ…」

 思わず笑い声をあげると、スレッタは黙りこくってしまった。流石に悪い事をしたと思ったエランは、すぐに彼女の機嫌を取ろうと提案する。

「やっぱりコーヒーを頼もうか。クリームと砂糖と…ココア入りの。きみが頼んだベリージュースは、僕ら2人で半分こしよう。もう意地悪はしないから」

 ごめんね、スレッタ・マーキュリー。

 誰にも聞こえないように囁くと、スレッタはこくりと頷いて許してくれた。

 地球に降下してから数日後の、よく晴れた朝の出来事だった。


 それからしばらくして、2人はとある地域でアパートを借りることになった。外に行くのはエランの役割なので、その日もきちんと買い物をしてきた。

 料理を担当するのはスレッタだ。彼女は補給された物資の確認のために買い物袋を覗き込むと、小さく驚いた声を上げた。

「あれ、エランさん。これってもしかしてコーヒーですか?」

「そう。少し飲みたくなって」

 彼女が手に持つのは、エランが購入したインスタントコーヒーだ。

 少し小さめの瓶に、こげ茶色の粉がたくさん入っている。

「そういえば水星のみんなも、こんな粉を溶かしてコーヒーを作ってました。地球でも、同じなんですね」

「うん、家庭ではこんなものだと思うよ。コーヒー豆から抽出するには、専用の機械や道具が必要になるから」

「か、家庭…っ」

「?お店の物より風味は落ちるだろうけど、ちょっと飲んでみる?」

「は、はい、少し飲んでみたいです」

 スレッタの言葉を受けて、エランはカップを用意するとケトルの湯を沸かし始めた。

 インスタントコーヒーの封を切ってカップに中身を落とす。自分の分は少し多めに、スレッタの分は少し少なめに。

 この地域で買ったケトルはすぐに湯が沸く。蒸気を吹き出し始めたケトルを手に持ち、中の湯をカップに注いでいく。

 自分の分はブラックでいいので縁に近いところまで湯を注ぎ、スレッタの分は半分くらいまでで止めておく。砂糖とミルクを追加で入れて、カフェオレもどきの完成だ。

「はい、少し薄めに作ってみた」

 物足りなければ後で粉を追加すればいい。素人の作りなので、その辺りはわりと適当だ。

「わぁ、ありがとうございます」

 嬉しそうにカップを持ったスレッタが、さっそくコーヒーに口をつける。一口飲んで笑顔になると、続けてコクコクと飲んでいった。

 ぷはっと小さく息を吐く。どうやらスレッタはすぐに飲み切ってしまったようだ。

「とっても飲みやすいです。お店で飲んだコーヒーよりも、こっちの方が好きかもしれません」

「お店のは濃い目だったし、他にも色々と入っていただろうからね」

 気に入ったのならなによりだ。エランは熱いコーヒーを手に持ったまま返事をする。

 ・・・後でもう少し濃い目のものも作ってみるけど、とりあえず今入れた分量はしっかりと覚えておくことにしよう。

 エランは飲みやすい温度になったコーヒーを啜りながら、口の端が自然と上がっていくのを感じていた。自分が作ったもので相手が喜んでくれるのは、思いのほか嬉しいものらしい。


 毎日のささやかな手伝いにコーヒー作りが加わったのは、次の日の朝の事だった。






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