「立派な悪者になる方法」

「立派な悪者になる方法」

2023/04/02

 第一話「怪人達との出会い」


テレビの中に映るヒーロー。僕はそれに憧れていた。

「五人揃えば、絶対無敵! フレンド戦隊ユウジョウジャー!」

「私が仮面を被る理由は、涙を見せないため。仮面リーダー!」

 彼らが活躍する姿に憧れた。日夜誰かの為に戦い、悪い怪人を退治する。正義のヒーロー達。僕は、たとえ遊びの中でもヒーローになりたかった。ヒーローごっこは、僕の大好きな遊びだった。

 でも、今はそんなに好きじゃない。だって、ヒーローごっこでヒーローになるのは、僕みたいにヒーローが好きな子どもじゃない。なるのは……僕が一番嫌いなヤツだ。

「おーい! みんな、集まれえ!」

 公園の穴ボコ山の上で、大声で騒ぎ立てるのは、クラスのガキ大将。見るからに体が大きくて、力も強いいじめっ子。その声を聞いて、公園で遊んでいるみんなはすぐに、ヤツの下に集まる。

「いやあ、本日は実に良い天気だな! こんな日はやっぱり、ヒーローごっこをするに限るなあ!」

「は、はい、おっしゃる通りで……」

「というわけで、これよりヒーローごっこをするぞ! やるのはやっぱり、仮面リーダーだな。では、主役である仮面リーダーをやりたいヤツは、いないかー?」

 立候補を募るガキ大将だが、こんなもの意味はない。だって、誰も手を上げないのだから。その理由はというと。

「はいはい、僕がやる! はいはーい! 仮面リーダー!」

「ほう、一人か……では、ここは公平に、俺がやることにしよう! いいな!」

「ぼ、僕が……」

「ああん!? 俺がやるつってんだろ!?」

 拳を振り上げ、脅された。こんな風に、ヒーロー役をやりたい人がいると、ガキ大将は暴力をちらつかせてやめさせる。こんな風に、コイツはヒーロー役を独り占めしているのだ。

「というわけで、俺が仮面リーダーをやる! ヒロイン役はクラスのマドンナ、ユウコちゃんがやることにして、怪人役はヒロ、お前がやれ!」

「う、うん……」

 強制的に、僕は怪人役にされてしまった。こんな風に、ヒーローごっこをする時は決まって、力の強いガキ大将みたいなヤツがヒーロー役をやることになる。力の弱い僕みたいなのは、決まって怪人みたいな悪い役だ。

 そして、ヒーローごっこが始まれば、怪人役の僕はガキ大将に基本ボコボコにされる。抵抗したこともあるけれど、そうすると「怪人はやられる役だろ!」と、怒られて更にボコボコにされる。

 この瞬間が、一番辛い。大好きなヒーローごっこなのに、大好きなヒーローなのに、なんで僕がいつも悪い奴なんだろう。そんでもって、ボコボコにされて、傷だらけになって……何が楽しいんだろう、こんなこと。

「あーっ、ヒーローごっこ楽しかったなー! そんじゃ、またやろうぜ~!」

 ひとしきり怪人役の僕を痛めつけた後、満足そうに公園を後にするガキ大将。やっと終わったか、と安堵する友達、僕を心配する友達、ああはなりたくないと考える友達、はっきり言っていろいろだ。一番不憫なのは、間違いなくボコボコにされた僕だけど……。

「はぁ……」

 夕暮れの公園で、一人ブランコに乗ってため息をつく僕。なんでいつもこうなんだろう。大好きなヒーローごっこなのに、こんなことを毎回するのは正直言ってもう嫌だ。どうしたらいいんだろう……一人でキーコキーコブランコをこぐ。すると、声が聞こえた。

「フハハハハ!」

「!?」

 突如、高笑いが聞こえた。声のした方向を見てみると、ジャングルジムの上に立っている何者かがいた。その何者かは、シルクハットに燕尾服で、マントを羽織っていた。右手にはステッキを持っており、顔にはカラスのようなクチバシのマスクを被っていた。いわゆる、ペストマスクというやつなのだろう。ソイツはまるで、カラスのような人だった。

「悪しき契りに縛られ、悪者にさせられた少年よ、私がその心を解き放ってやろう! とぁー!」

 ジャングルジムから飛び降りる何者か。だが、着地に失敗し、足をくじいてしまう。

「いたたた! よりにも余って着地に失敗するとはっ!」

 何者かは、足を押さえて転げ回る。マスクはともかく、派手に転げ回っているのにシルクハットはなぜか外れない。一体どういう構造になっているんだろうか?

「あーあ、痛いなあ! あーあ!」

「あ、あの……大丈夫?」

「心配ない! 私は怪人レイヴン(大鴉)卿! これくらいのケガなどすぐに治る!」

 レイヴン卿は立ち上がるが、くじいた右足はプルプルと震えていた。

「さて、君は先ほど、ヒーローごっこで悪者にされていじめられていた……そうだろう?」

「い、いや……その……」

「隠すことはないぞ! 私は全て知っている!」

全てを知っているってことは、ずっと見ていたってことだよね。

「そんな君に朗報だ! 今なら、私が君の悩みを解決してあげよう!」

「え?」

「悪者にしかなれないのなら、いっそのこと悪者になって、世界をメチャクチャにしてやろうじゃないか!」

「い、いや、そんなこと思って……」

「大丈夫、私に任せていればいい! さあ、私達のアジトへ行くぞ!」

レイヴン卿は、ステッキを両手で挟んで消すと、背中のマントが大きな黒い翼となった。そして、僕の手を掴んで飛び上がった。

「わ、わあっ!?」

「フハハ! 行くぞ! 私達のアジトへ!!」

こうして僕は、謎の怪人レイヴン卿と共に、悪の組織「ダークネス・ナイトメア」の本拠地へと連れ去られてしまった。


連れてこられたのは、廃工場だった。レイヴン卿がステッキでシャッターを開けると、そこにいたのは、レイヴン卿と同じ怪人だった。

大柄な、傷だらけの体をした鮫の怪人。つばの広い三角帽子を被り、雨粒の宝石がちりばめられたドレスを着た仮面の魔女。水槽の中にいるピラニア。ノートパソコンを動かしているクモ。大きな本を読むカメレオン。

「ただいま諸君! 新しい仲間を連れてきたぞ!」

「あー、帰って来やがったか。ガキなんか連れてきやがって」

「ふむ……子供ね……まあ、戦力が増えるのは悪くないわね」

「うぅ~……眠いぃ~……」

「…………」

怪人達は口々に何か言っているが、僕はそれどころじゃなかった。

なんせ、こんな怪物達がいるんだ。怖くなって、腰が抜けてしまいそうだ。

「フハハ! 紹介するぞ! 彼は悪の秘密結社『ダークネス・ナイトメア』の新しいメンバーだ!」

「え?……ぼ、僕、まだ入るなんて一言も……」

「黙れ少年! お前の意見など聞いていない!」

レイヴン卿は、僕を怒鳴りつけた。やっぱり怖い。この人に逆らっちゃいけない。だが、鮫は言う。

「ガキなんかつれて来たって、役に立たねーだろ。さっさと帰してこい」

「フハハハ! それは違うぞ! 彼こそは、悪に縛られし哀しき存在! 世界に悪と見なされた哀れな少年! そうだろう!?」

「いや、違……」

否定しようとするが、また怒鳴られるかもしれないと思い、言い出せない。

「いや、俺ら怪人ならともかく、ただのガキじゃ無理だろ」

「心配するな! これから教育していけばいい! 悪の秘密結社『ダークネス・ナイトメア』リーダーのこの私レイヴン卿がな!」

レイヴン卿がリーダーと言った時、鮫の方からプチッと音がした。椅子から立ち上がり、レイヴン卿をにらみつける。

「おいテメエ!! いつの間にリーダーになったんだよ! 俺は認めてねえぞ! この俺、シャークがリーダーだ!」

「フハハ! 何を言ってるんだ? リーダーは私。ずーっと前からそうじゃないか」

「あら、リーダーは私じゃなかった? この私アンブレラが」

雨粒の魔女が、割り込んでくる。

ノートパソコンのクモは、パソコンをカタカタと動かしながら言う。

「……ク、ソ、ワ、ロ、タ、と……」

シャークはレイヴン卿に詰め寄る。

「だからよぉ! 何でテメーが勝手にリーダーを名乗ってるのかって話だよ!」

「フハハ! なぜと言われても困るが……私は、最初からリーダーになるつもり満々だったぞ!」

「そうかぁ? 少なくとも、最初は俺の方が先にいたぜ?」

「いや、私が先だ。私の知的な計画には、貴様など必要ない」

「ふざけんな! 俺だって、テメェの計画なんかどうでもいい! とにかくリーダーは俺だ!」

「いいや、私こそが真のリーダーよ」

「僕がリーダーだ!」

3人は睨み合いを始める。クモとピラニアは、呆れた様子で見ていた。カメレオンは、本を読んだまま。

すると突然、レイヴン卿がステッキを取り出した。

「黙れぇ!!」

レイヴン卿は、アンブレラとシャークをステッキで殴った。殴られた衝撃が波紋のように広がり、廃工場の窓ガラスが割れて吹き飛んだ。

「痛っ!? なにしやがん……ぐおあっ!?」

シャーク達の体が吹っ飛び、壁に叩きつけられた。

「ふぅ、スッキリした。では改めて、この私、レイヴン卿が、秘密結社『ダークネス・ナイトメア』の新たなリーダーだ!」

「ふざけんじゃねえ! 俺は認めねえぞ!」

シャークはレイヴン卿に飛びかかり、馬乗りになって殴りまくる。

「や、やめぬか!」

レイヴン卿はステッキを振るい、シャークをまた吹っ飛ばす。それを見たアンブレラは、懐から雨傘を取り出す。「まったく、騒がしい男ね」

アンブレラは、雨傘を開く。そして、それをシャークに向けて振るう。

「グオッ!?」

シャークの体に、いくつもの水滴が当たり、その部分が凍りついた。

「ふぅ、これで静かになったわね……」

アンブレラが傘をしまおうとすると、突然横に吹っ飛んだ。

「油断大敵だ!」

氷を壊したシャークが、アンブレラを蹴飛ばしたのだ。アンブレラは起き上がると、今度はシャークに襲い掛かる。

「このぉ!」

「ふんっ!」

3人の攻撃が激しくぶつかり合う。その様子を見て、僕は思った。……どうしてこうなっちゃったんだろう……。

倉庫の中は、怪人達の戦いによって荒れていた。

テーブルは倒れ、イスもいくつか壊れている。

その様子を、クモ……近くで見るとタランチュラだということがわかるクモが、ノートパソコンのキーボードを打ちながらつぶやく。

「あーあ。まーた始まったよ。誰がリーダーかで。迷惑だよなーピラニア?」

「"%&&*-+/|~?<!」

タランチュラの言葉に、ピラニアは理解不能な言葉で返す。その時、横にいたカメレオンが言った。

「まったく。くだらないことで喧嘩するなんて、君達は本当にバカだねぇ」

そう言って、持っていた本を開き、ページに手をかざす。すると本が輝きだし、やがて形を変えていく。

光輝くそれは、巨大な剣となった。

「……さて。こんなものかな」

カメレオンは、剣を構える。

「じゃ、始めようか」

カメレオンは剣を振り上げ、3人に向かっていった。

「やめなさい!」

カメレオンが剣を振るうと、3人に雷が落ちた。

「ぐああぁっ!」

「きゃあ!」

「ぎゃあー!」

3人は地面に倒れる。カメレオンが言う。

「君達が暴れるせいで、アジトがめちゃくちゃじゃないか。いい加減にしてくれよ」

「……チッ、わかったよ……」

シャークは立ち上がると、倒れたイスを直す。

「……まったくもう……」

アンブレラは、机を立て直す。

「……あなたも、そろそろリーダーの座を譲りなさい」

「断る! 絶対に嫌だ!……おいテメエ! いつまでも寝てるんじゃねえ! とっとと立て!」

シャークは、倒れているレイヴン卿を蹴る。

「……いつつ、まったく、乱暴な奴だ……」

「うるせえ! テメェがリーダーになったら、俺達全員死ぬかもしれねえんだぞ! 少しは考えろよ!」

「ふむ、確かにそうだな。しかし私は、最初からリーダーになるつもり満々だったぞ」

「けっ! よく言うぜ!」

シャークはレイヴン卿から離れる。その様子を、ヒロはただ見ていた。怖くて動けなかっただけなのだが。「ふぅ、スッキリした。では改めて、この私、レイヴン卿が、秘密結社『ダークネス・ナイトメア』の新たなリーダーだ!」

レイヴン卿が宣言すると、シャークが飛びかかる。

「ふざけんじゃねえ!」

「やめないか! また同じ目にあいたいのかい!?」

カメレオンが、また剣を振るおうとする。それを見て、レイヴン卿とアンブレラ、シャークは押し黙った。

「はあ……。まあ、とりあえず落ち着いたようだし、レイヴン卿、君のやろうとしていることを聞こうじゃないか」

「ふっ、ようやく私の計画を聞いてくれる気になったか。では話してあげよう。私の計画は、この少年を立派な悪者にすることだ!」

レイヴン卿は、ヒロの背中をバンと叩く。ヒロは、びっくりしてブルッと震える。

(ぼ、僕どうなるの~!?)



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