空白の二年
名無し新世界 とある海軍基地
「離せ!貴様らこんなことをして只で済むと思っているのか!?」
1人の男が軍艦に連行される。その男はその基地の基地長だった男。
「黙れ」
言葉短く男の言い分を否定する肩までかかる金髪の青年、海軍本部少佐兼sword隊員ヘルメッポ。その隣には次世代の出世頭、海軍本部大佐兼sword隊員にしてロッキーポートの英雄、コビーが厳しい目付きで彼を見ていた。
「高々大佐ごときが、少将である私にたてつくとは!!」
「貴方の権限は昨日を以て全て剥奪されました」
「なっ!?誰の権限でそんな事を!?」
「これがその証明書です」
彼が手に持っていたその紙には男が今までこの支部でやってきた不正と、それを理由に彼の権限を白紙にし逮捕することを許可する旨が書かれていた。しかもサカズキ元帥の印も押され、その証書の正当性が確実なものとなっていた。
「ば、バカな・・・わたしの何が間違っていたというのだ!?」
「まだわからないんですか?」
コビーの目が鋭くなる。
「海賊を見逃す代わりに賄賂を受けとる、金持ちの関係者の罪を揉み消し、罪のない人を犯罪者に仕立て上げる。麻薬を使って小遣い稼ぎをし、それを本部に告発した海兵とその家族をギャングを使って抹殺する・・・ここまでの事をしておいて何もしてないとでも?」
「しかもあんた、本部から資金を多めに申請して浮いた分の金をちょろまかしてるだろ?噂になってたぞ?」
「ぐぐぐ・・・剃!」
言い訳出来ず、残る手段としてこの生意気な大佐と少佐を捻り潰してしまおうと考えた男は、自身を連行しようとした彼らの部下の隙を突き、前に突進する。
「!」
「くたばれクソガキ!」
最早海兵としての誇りもなく目の前の生意気なガキを潰すことしか頭になかった。そもそも自分は少将、相手は大佐と少佐。海軍は実力主義だ。踏んできた場数が違う。少々有名になり若くして大佐になった程度でのぼせ上がっていたのだろう。少将にたてついた事を後悔させてやろう。
瞬間。
・・・
目の前からコビーが消えた
「な・・・?」
ありえない。腐っても自分は少将だ。偉大なる航路の、それも新世界で支部の長をしていた男だ。なのに、その自分が見失う?つまりあのガキは自分の速度以上のスピードで移動している?
それに気づいた。直後。
「獣厳」
真上から鉄拳が振るわれ甲板に叩きつけられた。
「ぐぼぁ!?」
汚い声と共に彼は気を失った。
「はぁ・・・彼を拘束して牢に入れてください」
「はっ!」
コビーの部下たちが迅速に拘束する
「はぁ・・・」
コビーがため息をつく。力を抜き甲板の手すりに背を預ける。
(何処にいるんですか?ルフィさん。ウタさん)
空を仰ぎながら、彼は今何処にいるかわからない先輩達に思いを馳せる。
二年前、海軍本部を衝撃の事件を襲った。
海軍の次世代の英雄と表されていたモンキー・D・ルフィが天竜人とも称される世界貴族であるチャルロス聖を殴り倒し逃亡したのだ。当然海軍上層部は開いた口が塞がらなかった。その動機が上司であり幼馴染(周囲からは恋仲扱い)のウタを守るためとあったとならば尚更だ。
その後彼らが関係したと思われる事件が多く起こるも、エレジアにおけるトットムジカが絡んだ事件が起きたのを最後に完全に消息を断った。その時最後に相対していたのはバーソルミュー・くまらしいが詳細は不明。
それを皮切りに世界が大きな時代のうねりに飲み込まれる。
まず起きたのが『白ひげ』エドワード・ニューゲートの病死。多くの家族達に見守られ天寿を全うした。享年72歳。その後多くの海賊が白ひげのナワバリを襲うも彼の息子達が立ち塞がりナワバリを守っていた。不死鳥マルコを船長に二番隊の隊長のエースが一番隊の隊長に昇格するなどした。
その白ひげの死から半月を立たず、金獅子のシキが20年の時を経て地上に降り立ち、世界政府及び海軍本部に宣戦布告。東の海(イーストブルー)を滅ぼすと宣言し戦争を仕掛けた。海軍はこれに対し中将5名と七武海二名、海侠のジンベイ、海賊女帝ボア・ハンコックと彼女の率いる九蛇海賊団を派遣(ボア・ハンコックが妙にやる気に満ち溢れていたが、詳細不明)。それを囮にシキの本隊が海軍本部を強襲。七武海4名と三大将、さらに海軍の英雄ガープと仏のセンゴクの年齢を感じさせない活躍により金獅子海賊団を壊滅させることに成功。その戦争の終盤、最後の七武海『黒ひげ』マーシャル・D・ティーチと彼がインペルダウンから脱獄させたlevel6の犯罪者達の登場、さらに七武海の地位を返上し何処からか奪ってきたグラグラの実の力を使い暴れ始める。しかし赤髪海賊団の介入により戦争は終結。その後の調べでインペルダウンからはかなりの数の囚人が脱走しており、この中にはサー・クロコダイル、Mr.3、イワンコフ、さらに元ロジャー海賊団の船員である道化のバギー等も脱走したらしい。
その戦争を契機にセンゴクは大将の職から降り、後任に青雉ことクザンを指名。しかし政府上層部は赤犬ことサカズキを指名し、二人の決闘にまで発展。その結果はサカズキが勝利しクザンが海軍を去るという結果になった。
それから世界徴兵が行われなみいる猛者の中よりイッショウ、アラマキが新たな大将の地位に座り海軍はさらに強力な軍隊となった。
一方海賊の世界も大きな転換期を迎えていた。
白ひげのナワバリを熟知していた黒ひげが次々とナワバリを奪い去り、白ひげの息子達に自分の傘下に入るよう脅してきたのだ。当然白ひげの息子達は拒否。そもそも四番隊の隊長サッチを殺し、その首を以て七武海になった黒ひげに等従おうはずがない。しかしグラグラの実の能力まで手にしている黒ひげを彼らは倒すことができず、「落とし前戦争」と呼ばれた戦いで白ひげの息子達は敗北。『黒ひげ』ティーチは名実共に四皇になった。
七武海も海峡のジンベイが白ひげ亡き後彼のナワバリであり故郷である魚人島を守るためビッグマムの傘下に下る為に地位を返上。更にゲッコー・モリアも政府側からの不意打ちを受け生死不明による脱退。入れ替わるように最悪の世代トラファルガー・ロー、自称白ひげの息子ウィーブル、道化のバギーが七武海に加入した。
そしてコビー自身にも彼のその後の人生に大きな転換点となる「ロッキーポート事件」で活躍し英雄と称されるようになった。
(一体何処に・・・)
凪の帯(カームベルト)
ルスカイナ
その島では雪が降りしきっていた。この島は48季という四季が週変わりになる特殊な島だ。ついに先日には秋だったというのに日を跨いでいる間に冬になった。そしてそんな環境で生きている生物は凄まじい生命力に溢れていた。そしてそんな動物達がある一人の人間に怯えていた。黒髪、左目の下に傷、精悍な顔立ちの青年。行方不明となっていた元大佐モンキー・D・ルフィその人だ。その背中に声をかける女性が一人。
「ルフィ」
赤白のツートンカラーの髪、幼げな顔立ち、出るところは出て締まるところは締まったメリハリのある体。
元准将ウタ。彼女が声をかけ、抱きつこうとするも、その背後から超高速で彼の左腕に抱きつく女性が一人、かの有名な七武海ボア・ハンコック。
「ルフィ~~♥️」
「あ、ハンコックさん!やめて!」
遅れてウタが右腕に抱きつく。絶世の美女と歌姫に抱きつかれるルフィは特に反応はなく、
「お、ウタ!ハンコック!久しぶりだなぁ!」
二人に話しかける。
「しかしルフィ、また男らしくなったのではないか?」
「・・・」
ハンコックがぐいぐいとルフィに話しかけるが、ウタとしてはあまり面白くない。ウタとしては匿ってくれることはありがたい。海賊嫌いであったが、ウソップ海賊団との共闘やハンコックや九蛇海賊団との関わりで若干海賊に対する態度が軟化していた。それに女ヶ島では覇気の使い方を更に高めるにはうってつけで、かなりのパワーアップができた。とくにハンコックとの組み手は始めは手も足も出なかったが最近はダメージを与えられるほどにはなった。というかこの女、とにかくフィジカルが強すぎる。メロメロの実など使わなくとも走り、跳び、蹴る。そのスピード、パワーが桁違いすぎる。見聞色、武装色ともに練度が高く、挙げ句覇王色も持っているらしい。元懸賞金8000万とか嘘だ。絶対5億以上だと思う。
何故協力してくれたのかと問うと、
「お主がルフィの近くにおりたいと思うなら妾に傷ひとつつけてみよ!」
といい、ウタはメチャクチャな理屈でメチャクチャスパルタなやり方で強くなった。
そんなハンコックがルフィの前では恋する乙女感全開なのは見慣れた光景ではあるが、同時に(認めたくないが)羨ましかった。
ウタとしては海兵の頃はどちらかと言えばルフィを守る立場だった。しかし海軍から逃亡し、死線を越えるたびルフィは強くなっていった。いつの間にか、自分は守られる立場になってしまった。そしてそれを受け入れていた自分がいた。完全にルフィに依存していた。海兵になる時に封印した(本人はそのつもり)彼に対する恋心が溢れ出ていたほどには。
そんな中女ヶ島に飛ばされ、ルフィと九蛇の姉妹との決闘、彼女達の過去の一端にふれ、自分もそうなるかもしれなかったという現実に気付き怖くなった。そこに提案があった。今島を出ても同じ事を繰り返すだけ。ならここで強くならないか?と
自分達はその提案を受け入れた。ルフィには覇王色の素養もあった為に特別な師匠がきた。それがまさか海賊王の右腕、冥王シルバーズ・レイリーだとは思わなかったが。
『もう十分強くなっただろう』
レイリーはそう言い残し半年ほど前シャボンディに帰ったらしい。
そして今、二年の修行を経て彼は女ヶ島に帰還した。
「レイリーは人足先にシャボンディに帰ったか」
「ああ、俺たち用の船を見繕ってくれるんだとさ。何から何まで世話になりっぱなしだ」
「あの人、泳いで帰ったってほんと?」
「ああ、くるときも泳いでたらしいし」
「・・・ガープさんにしろセンゴクさんにしろあの時代の人たちって本当に私たちとおなじ人間なのかな?」
「じーちゃんはじーちゃんだから仕方ねぇよ」
「ウン、ソウダネ」
考えるのは止そう。後にも先にも年端のいかない少年少女をジャングルにぶちこみ、風船で飛ばすような、はた迷惑なジーさんのことなど考えたくもない。あの時は本気でぶっ飛ばしてやろうと思った。というか本気で二人がかりでぶっ飛ばしにかかった。しっかり返り討ちにあったが。
「帰ってきたか、二人とも」
「「あ、ゴートンさん(おっさん)!!」」
彼らに声をかけた人物はエレジア王国元国王のゴードン。二年前のトットムジカに関わる事件で責任を取り、王としての責務を辞した。国民はそれに反対したが彼の意志は堅かった。彼なりのけじめだったのかも知れない。彼は公職を辞したあとエレジア再興に尽力し他国に渡り各国代表や貴族達に支援を呼び掛けていた。そのかいあってエレジアは元のあり方を取り戻しつつある。
そんな折、今から半年ほど前に彼の乗った船が海賊に襲われ、それを九蛇海賊団を助けるという出来事があり、彼は女ヶ島に厄介になっていた。そこでたまたま、ウタと再会し彼女の声楽の講師をしていた。そのお陰か、彼女の歌声は以前にも増して人々を惹き付け魅了するものとなっていた。その歌声はハンコックも認める程であった。
「おっさんいたのか!」
ルフィ相変わらずの態度でゴードンに話しかける。
「あぁ、だがそろそろエレジアに戻るつもりだ」
「え?そうなの?」
ウタは驚く。
「君たちはシャボンディにいくのだろう?それについていく形だ」
「エレジアへの遠征という名目で国を離れ、そなた達をシャボンディに送る。エレジア側にも書簡を送り、ゴードンを丁重に送り届けるよう伝えた。シャボンディに行くのはそのついで、というシナリオじゃ」
ハンコックはウタとルフィに説明する。
「そっか、ありがとな」
「何から何までありがとうね、ハンコック、ゴードンさん」
二人は彼らに礼をいう。
「ところで・・・」
ハンコックは二人を見ながら問う
「本当に行くのか?新世界に」
「あぁ」
ルフィは即答した。
「何故じゃ?ここであれば何不自由なく暮らせるだろう。妾には力もある。ウタと妾、両方を娶ることだって可能だろう」
「ブフゥっっ!?」
思わずウタが吹き出す。
「なっ、な、何を言い出すのハンコック!!??」
顔を真っ赤にして彼女を問いただすウタ。
そんなウタを横目にルフィはしっかりとハンコックを見据え。
「『新時代』を築くためだ」
「『新時代』?」
「ああ、海軍に入って、追われてわかった。今の海軍じゃ『新時代』を築けねェ。海軍は居心地はそれなりによかったよ。けど天竜人(ゴミクズ)のさじ加減一つで海兵は正義を踏みにじられる。そんなの自由じゃねェ。そんなの正義じゃねェ。そんな所じゃウタが笑えねェ。」
「・・・」
「だからおれは行く。新世界を巡ってたどり着く、ラフテルへ」
「!。お主は・・・」
「ルフィ・・・」
「皆が自由に笑っていられる世界にするために、俺はビッグマムも、カイドウも、黒ひげも、シャンクスもぶっ飛ばして、ラフテルに行って、『ひとつなぎの大秘宝(ワンピース)』を手に入れる。そして」
そこで彼は言葉を区切り、
「―――――――――」
彼の目指す「夢の果て」を口にする。
ゴードンも、ハンコックも、彼女の妹二人も驚きを隠せない。
そんな彼らを横目にウタは微笑んでいた。
(やっぱりルフィは凄いな)
自分達が追われている時でも彼は彼女を見捨てなかった。逃亡生活が長引くに連れ、彼女の心は擦りきれ、疲弊していった。かつて自分のわがままでルフィの夢を諦めさせた癖に守られる立場になり自分に絶望していた時でさえ、彼は前を見据えた。
エレジアで七武海という強者の力を見せつけられ、心が折れかけた時でさえ、彼は彼女を守った。理由は単純。
『自分がやりたい事をやっただけ』
その心の強さに、彼女は救われた。
女ヶ島に飛ばされハンコック達ゴルゴン三姉妹と戦いで過去の一端に触れ、彼女達にある提案をされた。
『いま出ていって逃亡生活を送っても、必ず追い詰められる。おまえ達程度の強さでは早晩捕まるのがオチだ。だからここで留まり、修行をし強くなれ』
と。それをルフィは受け入れた。ウタは抵抗感があったが、ルフィを守る為に、傷つかせない為に、悲しませない為に、そして対等になる為に、その提案を受け入れた。
エレジアで手に入れた楽譜の誘惑に負けぬように務め覇気の修行を始めて二年。
能力も覇気も研ぎ澄ませた。ルフィも同様に。そして彼は今口にしたのだ。『かつて彼女が諦め、ルフィに諦めさせた夢』を。
「それは・・・凄いな」
ゴードンは呟き。
「流石ルフィじゃ!」
ハンコックは笑いながら彼の夢の大きさを称え。
「流石だね」
「天竜人を殴るだけはある」
マリーとソニアは微笑んでいた。
「ふふっ、あのルフィがね・・・」
ウタは笑い、そして、
「ねぇルフィ、背比べしない?」
「ん?なんだよ」
彼の前に彼女は立つ。そして
「あ~あ、これで私の184戦183勝1敗か~」
「!。おまえ」
「ねぇルフィ。私に勝ったんだから、もう負けないでね?」
負け惜しみのポーズを取り彼女は微笑む
「当たり前だ!もう誰にも負けねぇ!」
「あはは!」
「あっはっはっは!」
二人は笑い合う。
これから先、多くの事件を引き起こしたり、巻き込まれたりするがそれはまた別の話