空島からの大脱走
400年にも及ぶ黄金の鐘を巡る争いはその鐘の音により終止符を告げる。そんな中、遺跡へと落下したゾロ・ウタ・ワイパーの元へ目を覚ましたサンジらが駆けつける。
「私達はあとでいいよ」
「だめだすぐに手当てしないと」
「おれらより……アレ…何とかしてやれ。死んじまうぞ………!!」
そう言い、ゾロとウタの視線の先には倒れたまま一切動かなくなったワイパーがいた。骨までボロボロのえらいこっちゃ!な事態にチョッパーは彼を優先して治療を開始する。
「オイありゃゲリラじゃねェか。義理ァねェぞ」
「まァね……」
「おれらにもよくわからねェが………何やら必死だったんで」
「────?何だそりゃ…同情か?」
『────さァ…』
同情か、同じ目標へ向けて戦った同志としてか、兎にも角にも戦いはもう終わったのだ。今はとにかく療養に努めようと皆その場で横たわり、そして今後についての話を進めていく。
「ナミは大丈夫かな……ま、ルフィが一緒なら大丈夫だろうけど…」
「おれァコニスちゃんも心配だ…どこにいるのか……結局アレか?黄金の鐘は───」
「あァ落ちたんじゃねェか?」
「だよねェ…ハァ……もう1回ちゃんと聞きたかったなァあのキレイな鐘の音。色々と湧いてくるものがあったのに」
「それにあのエネルの金ピカ舟も惜しかったな…"黄金郷"とはいうが今や名ばかりか」
「おれ達の貧乏航海は続くわけだ」
「おれは金よりあの貝がほしい。青海に戻ったら手に入らねェもんな!!」
みな思い思いにあれは惜しかっただのあれが欲しいだの話し込んでからしばらくすると、遺跡の入口方面から聞き覚えのある声が聞こえてきた。
「おーい!!!」
「ああ!!!ンナミさぁ〜〜〜ん♡んクォ〜ニスちゃあ〜〜〜ん♡」
「ルフィ〜!!!」
なにやら大きな包を抱え肉や魚を食べながらルフィ達がやってきた。その中にはコニスの姿もあった。
「みなさん…ご無事でよかったァ……私、心配で…だけど何もできなくて…」
「コニスちゃんそんなにおれの事…♡」
「違うだろ」
サンジがラブハリケーンを散らしながらコニスに近づく中、ウタは身体のダメージなど忘れたのかルフィに抱きつき、無事を確認するかのようにゴムの身体をペタペタと触れていた。
「もう!!心配してたんだからね!!!今まで何してたの!?」
「わりィわりィ!!いやーそれがよ、森の途中で食料庫見つけてよ」
「きっと神官達のものね。まだまだあるわよ」
空高くから落ちても無事だったのはゴムゴムの風船だ!とウタから未だにペタペタ触られながらピースをするルフィをよそにゾロはコニスの方へと気をやる。
「そういやコニス…オヤジは」
「え……それが…その………!!!私をかばって…」
一味もコニスも総ツッコミした後、パガヤさんからは自身が無事であった理由やスカイピアの住民達が今、避難していた者達を含めここ神の島に集っている事を説明される。
それから時が経ち、夜に眩く"限りない大地"が世界中を照らす頃、食事を済ませ次はどうしようか、船に戻ろうかとナミが提案する。
「どうする?船に戻る?」
「ナミお前何言ってんだ?」
「どうしたの?」
「ウソップあんな事言ってるぞ」
「人間失格だな…」
「何なのよっ!!」
こんな満月が照らす中、戦いの後に行うものなど1つに決まってる。それが分からなかったナミに呆れつつ、ルフィ主導によってそれは推し進められていく。
チョッパーの治療により一命を取り留めたワイパーが目を覚ます。黄金の鐘楼はどこかと、ふらつく身体をどうにかしようと立ち上がろうとするがそんなものは無意味だと言わんばかりにシャンドラの酋長は遺跡内に取り付けられたカーテンを開く。その先にあったものは…
「宴だ〜!!!」
空の者、シャンドラの者、空に住まう動物達、青海の者、それら全ての生きとし生けるもの達が分け隔てなく此度の戦いの勝利を祝う宴に興じていた。敵対していた者同士が肩を組み酒を飲み交わし、皆で太鼓を叩き楽しげな雰囲気を作り出し、それに合わせた歌姫の歌が響き渡り、出来上がった音楽を前に全員が踊りだし……巨大なキャンプファイヤーを中心とした喜びの大宴会は連日続いた。そしてそんな宴会が続いた後に夜が更けた頃、こそこそと動き出す影が一つ。
「おいナミ!!みんなを起こせ」
「ん…なに?」
「黄金を奪って逃げるぞ…」
それは起こされた航海士にとって願ってもない提案であった。
「え!?黄金があるの!?」
「ばかっ!!!声がでかい!!!」
「あんたの方がでかいわよ!!!」
「うるせェな眠れやしねェ!!」
「グヘェ〜〜〜〜〜ッ!!!」
秘密の黄金強奪作戦はもう既に頓挫しかかっていた。
「お!もう朝かっ」
「でかいっていうお前の声がでけェだろ!!!」
「ルフィうっさい!!歌姫の耳にもっと気を遣えー!!!」
「ナミさんおはよー♡あれ!?朝じゃねーーっ!!!」
「なァに?」
「ウソップが殴った〜〜〜!!!」
まだ夜の闇が支配する中だというのに元気な青海人達を見かねて空島の民達は呆れるばかりであったが、待てよ待てよとルフィ達は一旦落ち着きを取り戻すと、ルフィの考案する黄金強奪作戦に耳を傾ける。
「───じゃそういうわけだ。滅多に来れねェ空島だ!思い残す事のねェように!!」
──────────────
それから夜が明け朝になると一味のみんなは思い残す事のないように自分達のやりたいように最後の空島での時を過ごし始める。ロビンは見つかったという黄金の鐘楼を一目見ようと引き上げ作業の行われている場所へ、ウソップは貝を手に入れようとワゴームと鉄板を携え空島の民達と交渉していた。
「がっはっはっはっはっは!!!」
「ご機嫌だなウソップ、交渉はうまくいったのか?」
「そりゃーもう〜〜!!いっぱい手に入ったぜ"貝"っ!!!」
そう言うウソップの右手には炎を放つ"炎貝"が携えられており、背中には大量の"貝"を抱えていた。
「色々できるぞ『ウソップ工場』フル回転だな。おいゾロ!!その刀"匂う刀"にしてやろうか」
「いいよ」
「ナミの"天候棒"もウタの"音響槍"(マイクランス)もより強力にできるな。おれのパチンコもスゴい事に…ぷぷぷ」
ウソップはもう貝による武器強化構想で頭の中がいっぱいであった。
「ルフィ達は!?ロビンは!?」
「ルフィ達はまだ中だ。ロビンはどっか行った」
ゾロの言う通り、この場の2人とロビン以外は連日の宴ですっかり眠り気性のいいヘビとなった大蛇の中でなにやら探し物の真っ最中であった。一体この気性のいいヘビの中に何があるのやら。
「見ろ!!!こんなに!!!」
「コリャ本物だぜ!!このヘビ何食ってんだ…」
「な!!な!!!」
「すごーい!!」
「わ!!これ可愛い!!服に飾りつけたら絶対可愛いよコレ!!」
「キレーだな!!サルの家で見たやつと同じだ〜!!」
なんと、この気性のいいヘビの中には黄金が眠っていたのだ。かつてヘビに呑まれ、さまよっていたルフィだからこそ知っていた情報により海賊"麦わらの一味"は瞬く間に貧乏海賊団なら金持ち海賊団へと昇華していった。感謝せねばなるまい、この気性のいいヘビ……はさておき、そこから大量の黄金を運び出し後はロビンが帰ってくるのを待つのみとなった。
「ロビンが遅ぇ〜ぞ〜〜…」
「しかしがらんとしてるな。ゲリラとか天使ちゃん達はどこ行ったんだ?」
「いない方がいいでしょ。見つかっちゃったら追いかけ回されるもの」
「なんせこんなに黄金奪って逃げようってんだ!!」
「まあ船でナミとコニス達が出航の準備をしてるが」
黄金を袋に詰めナミ達に出航の準備を任せロビンを今か今かと待ち構えている6人であったがその中のマリモ剣士がやれやれと立ち上がる。
「かったりィな、あんな女待つ事ねェだろ。───おれも船に乗ってるよ、先行くぞ!」
「バカ!!!やめろ!!!」
「ばか!!!」
「アホ!!!」
「ばかマリモ!!!」
「マリモばか」
単独行動を取ろうとした迷子マリモに対して怒涛のツッコミという名の罵倒が浴びせられる。
「てんめェら言わせておきゃ!!!」
「ばーか」
「アホー」
「てめェ一人で森入ったら3歩で迷子だろ置いてくぞ!!?」
「おい見ろロビンだ!!!」
くだらなすぎる喧嘩の最中、意中の考古学者・ロビンが帰ってきたのを確認すると待ってましたとルフィが大声をあげる。
「お〜い!!ロビ〜〜ン!!急げ急げ!!」
「大急ぎで逃げるよ!!黄金たくさん奪ってきた!!!」
「ちょっ!!お前ら!!それを言うなよ後ろ見ろよ!!みんな一緒に帰ってきてる」
「コリャ一気に帰ってきたな」
「やべーー!!巨大大砲だ!!!」
「ギャ〜〜〜!!!大勢いるぞ!!!」
巨大大砲というそれは青海人達に対しての黄金の柱を礼にと布で包んだものであり、大勢の人達もそれを渡しに来ただけなのだが、ルフィ達はとにかく逃げる事で頭がいっぱいでそんな事になぞ気は回ってなどいなかった。
「船に乗れ!!もうここにはいられねェ!!」
「見て見て大漁っ!!!私達お金持ちだよ!!!もう袋パンッパン」
そうしてロビンに早く逃げようと提案しているとお礼をしようと迫ってきた空島の民達もなにやら青海人達がこの場を去ろうとしている事に気がついてしまう。
「おい待てお前ら!!!待ってくれ!!」
「ほら見ろバレたぞ!!!」
『逃げろ〜〜〜〜!!!』
「おーい!!待て君達!!」
待て待て待てと呼ぶ人達に対して我らがキャプテン・ウソップはダダンッ!!と高らかに宣言する。
「命を懸けて!!!はるばる来たこの空島の!!!世に伝説の"黄金郷"!!!誇り高き海賊様がっ!!手ぶらでオチオチ帰れるかってんだァ!!」
「ロビンちゃ〜〜〜ん急げ、捕まるぜ〜〜〜!!!」
捕まるだのなんだのと突然意味不明な事を言い始めた恩人達に困惑する空島の民達。オーゴン受け取ってくれるんじゃとロビンに声をかけるも…
「ふふっいらないみたい」
「ええ!?そんな」
『逃げろ〜〜〜〜っ!!』
『待てェ〜〜〜!!』
──────────────
黄金強奪作戦を無事成功させゴーイングメリー号へ乗り込む事に成功したルフィ達は目の前に広がる黄金の山に歓喜していた。
「ついにおれ達は大金持ちだぞ!!何買おうかっ!!?でっっっけェ銅像買わねェか!!?かっこいいぞおめェ」
「バカ言え何すんだそれで。ここは大砲を増やすべきだ!!10門買おう!!」
「私は色んな楽器が欲しいなー!!それから夢の完全防音室を増設してそこでインスピレーションの赴くままに作詞作曲を…」
「ナミさん♡おれ鍵つき冷蔵庫がほしい〜!!」
「おれなァ!おれはなァ!!本が買って欲しいんだ!!他の国の医学の本読みてェんだ」
「酒」
やいのやいのと黄金で得られる金で買いたいものについて話し込む中、航海士兼一味の財政管理を請け負うナミが待ったをかける。
「ちょっと待って待ってあんた達、お宝の山分けはまずここを降りてからよ!あんたらの好き放題買い物してたら何も身にならなそう…」
「本かってくらはい」
「みなさん!前方をご覧下さい、見えました。"雲の果て"です!」
そう言い、ここまで道案内を仰せつかったコニスの指さす先には空島からの出口、クラウド・エンドだ。
「へー!あそこから降りられるのかーっ!!あーー降りちまうのかーおれ達」
「いざ降りるとなると………確かに…名残惜しいな」
「この真っ白い海ともお別れだ」
「空島楽しかったなー恐かったけど」
「───あの門抜けたら……"雲の川"で青海に一直線ってわけだね……」
「また来れるかしら"空島"…!!」
「ここばかりはなー…」
空島への未練やまた来れるかなどを口にしつつ、一同は門へと近づいていく。そしていざ門を通過しようという時にここまで案内してくれたコニスら父娘が見送りと降りる際の注意点として帆を畳み船体にしがみつけと忠告する。言われた通りに帆を畳みつつ黄金を船内にしまい、いざ出航という時に一匹のサウスバードが飛び込んでくる。空島へやってきた際に連れてきた個体だ。それはさておき、これで全ての準備は整い、後は船長の号令を待つのみとなった。
「───さて…船長。次の島への記録もバッチリ!!」
「んんそうだ!!ここ降りたらまた新しい冒険が!!!始まるんだ!!!野郎共、そんじゃあ………!!!
青海へ帰るぞォ!!!」
『おお!!!』
「みなさん落下中お気をつけて!!」
『落下中??』
雲の門を抜けた先は青海まで雲の川が繋がっているものかと思われたが……そこには何もなくただただ落下するのみであった。そして落下していく青海人らのため、コニスは笛を吹く。
「いきますよっ!!空島名物『タコバルーン』!!」
ポ〜〜〜〜〜〜ッ!!!
ポ〜ッと笛が吹かれると巨大なタコがゴーイングメリー号を包み込む。あわや大惨事かと思われたが、そのタコはバルーンとしての機能をもって船を支え、ふわりふわりとゆったり落下していく。
「減速した……」
「バルーンだっ!!」
「うわ〜面白ェ〜〜〜!!!」
「何だコリャ!!」
「お…おれァ、おれァついにあの世に逝ってしまうのかと…」
一時はどうなるかと思われたが、タコによって一命を取り留めホッとしたのも束の間、遥か空の彼方からカラァー…ン!!とあの鐘の音が聞こえてくる。島の歌声、シャンドラの灯だ。
「鳴らせーこの国の恩人達を鐘の音で送れー!!」
「青海まで無事に帰れよー!!!」
「ルフィ〜〜!!!またねーっ!!!」
「また来い〜!!!」
「ありがとうーーー!!!」
カラァー…ン!!
カラァー…ン!!
カラァー…ン!!
────ふと見上げると目に映る空。夢か現か雲の上の神の国───遥か上空1万m。耳を澄ますと聞こえる鐘の音。今日も鳴る。明日もまた鳴る。空高々に鳴る鐘の音がさまよう大地を誇り歌う────
カラァー…ン!!
カラァー…ン!!
「うっはっはっはっ!!いいなコレ…」
「やっぱり綺麗な音……!!いい旋律が湧いてきた!ここで1曲、歌いまーす!!」