穏やかな暮しは
日曜日の朝、今日は珍しく早起きをする。料理なんかしたことが無かったから準備は早くしたかった。何よりも君に驚いてほしかったし…
「おはよう。起きるの早いね」
「あっうん…おはよう」
駄目かもしれない
起きてたら秘密もクソも無い…!そう焦りながら、何時ものように他愛も無い会話をする。いつしか話題が途切れ、静寂の中でラジオを付けた
「―。―――、―…」
今日は温かい晴れの日、昨日の雨で湿気た風が頬を撫でる。心地の良い風は共に眠気も運んできていた
そんな天気のせいで内容が全く耳に入ってこなかった
〜〜〜〜〜〜〜〜〜
「ねえ緋葉…あれ?」
いつの間にか君が寝ている。器用なことに、椅子に座ったまま天を仰いで目を閉じていた。今日はやけに温かいから寝てしまったんだろう
「…都合も良いしこのままにしておこうか。おやすみ」
挨拶をしてキッチンの中へと入る。楽しい楽しいお料理の時間だ!
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①まずはお湯を用意します
②お湯の中にパスタを入れて茹でます
③茹で終わったパスタを2つの皿に盛り付けます
④トマト缶を開けてパスタにかけます
⑤ミートボールを盛り付けます
完成!
⑥ついでにフルーツの缶詰も開けます
「ふう…やっとできた…!まさか一時間もかかるなんてね…早速食べよう」
〜〜〜〜〜〜〜〜〜
パスタを持って君の元へ行く。驚いた君の顔が楽し
君が、椅子から倒れて落ちた
「あ…」
まるで、糸の切れた操り人形のように
「け…」
落ちる瞬間は一瞬のはずなのに
「は…?」
やけに
永く
感じて…
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ドサリ ベシャッ
二つの音が静かな部屋に鳴る。それで僕は意識を取り戻した
何時間経った?一時間?それとも一秒?
疑問と混乱が頭の中を支配する。いつの間にか空になった両手で、君の肩を強く揺らす
起きない
どれだけ強く揺さぶっても、君はガクンガクンと揺れるだけで一向に目を覚まさない
…ふと気づいた、君の体が冷たい。信じたくなくて手を、足を、頬を、首を触る。それでも冷たいまんまで、どうしようもない真実のみが僕の脳を突き刺した
「ねえ…起きてよ…、ねえ…!お願いだから!起きてよ…っ!」
嫌だ、こんなの嘘だ、生きてるに決まってる…嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ…!
頭を抱えて蹲る。遺体を目の前に、今までの生活が全て夢だったんじゃないかという考えが頭をもたげた
ただの妄想であるはずのそれに恐れを抱いて、棚の中にある写真を漁る漁る漁る…一枚も、共に写った写真が無い。当たり前だ。そもそもカメラなんてものはこの家に無いのだから。あるのは、君が孤児院にいた頃に撮っていた物だけだった
そんな事すら忘れ、夢中で写真を掘り返していた様ははたから見れば随分と滑稽だっただろう
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生温くて湿気た風が体を包む。不快な風は床に散らばった写真を奪い取る
安くて狭いアパートの隙間、青い空にはいくつもの写真が舞っていた