『稲生の親友』─Unexpected─
稲生紅衣メメ虎屋ダルヴァの主500年前 霊術院にて
「勤務先が決まりましたよ 船附さんが五番隊 稲生さんが十三番隊です」
「おかしいのう教員...吾 耳がおかしくなったようじゃのう...十三番隊と聞こえたんじゃが」
「俺もだセンセ 二人同じという訳ではないのか?希望は二人とも五番隊だったが」
教員こと芦原伊邪那は特にその笑顔を動かすことなく続ける
「先ほど言った通り船付さんが五番隊 稲生さんが十三番隊です」
稲生は不貞寝をし始めた 霊術院であり人目もあるにはあるがそんなことなどどうでも良いのだ
「あらら...ふふ 可愛らしいですね」
「埃が服に着くから早くやめとけよ 稲生...大丈夫だ!俺に策がある!センセから聞こえない部屋で作戦会議開始だ!」
このまま教員相手に不貞寝籠城戦を敢行しようと敷いた稲生だったが 船附に言われ起き上がりついていく
二人は船附が140cm稲生が143cmであり貧弱そのもの わちゃわちゃとすぐ横の教室に入って行く様はまるで小学校の一場面を切り出したようである
「二人とも良い生徒ですよ『最光』 ですが少しばかり相性が良すぎますからね...世の中には"最良"であることが最適解とはならない そういうこともあります」
教員は何かやらかそうとしている二人は特に止めずニコニコと他の生徒への結果の通達に戻った
五番隊入隊式にて
「船附朗です 俺たち二人が同姓同名だったため書類の不手際が発生し二人とも入隊予定が一人だという行き違いがあったようで...」
「吾もふなつき ろーなのじゃ!」
二人は既に五番隊に勤務している先輩や今までの情報から五番隊の書類保管位置を把握し入隊式の混乱の間に隊士の名簿の改ざんを目論んでいた
「あらー!二人とも小さくてかわいいわね!!!今日入ってくる子!?」
一人のオカマが突っ込んできたことによって一瞬でご破算になったが...
妹分である"病弱の"稲生は デカい声以外に右腕と衝撃の全てを
兄貴分である"貧弱の"船附は デカい声以外に左腕と衝撃の全てを
その一撃のハグを喰らい二人は意識を手放した
「わー!?ごめんね!!直ぐに四番隊まで連れてってあげるから!」
二人は『スーちゃん』こと春野数慈に抱えられて入隊式には行けなかった
結果的に稲生が十三番隊の入隊式に行かなかったことや改ざんが行われず罪に問われることが無いため二人にとっては幸運であった
少し時間が経ち四番隊にて
「ごめんねー!まさかハグしただけで気絶するなんて思ってなくて...!」
申し訳ない気持ちが強いのだろう手には入隊式にて振舞おうとしていたシジミ汁やその他お茶請けなど色々持って春野は見舞いに来ていた
船附は既に起きており稲生はまだスヤスヤと寝ている
「いいんですよ 俺たち二人とも規格外に脆いだけですし...頼もしい先輩に稲生共々顔を覚えてもらえそうで幸運だと思ってますよ」
「そう?それじゃあ頼れる先輩として頑張らないといけないわねー!」
まるで見た目のように可愛らしい子供のような笑顔を向ける船附にドンとこいと胸を張って答える春野
「という訳で先輩 とりあえず頼みたい事としては
・稲生が五番隊に来やすいようにするための協力関係の構築
・貧弱すぎて移動が基本困難なのでタクシーとして肩車してもらう
・胸と尻とタッパ(身長)がデカい女性がいたら紹介する
この辺ですかね...いやあ流石頼れる先輩だ きっとどんな困難な内容でも首を縦に振ってくれるでしょう」
「あら~...思ってたより濃い子で良いわね!出来る範囲でやってあげるわよ 謝意じゃなく先輩の威厳を見せるためにね!」
その後もどうせ暇(春野はサボり)だからと眠る稲生の横で静かに二人で話していると
「あら稲生ちゃんも船附ちゃんも北の六十番なの?私は北の58番だし結構近い所ね...大変だったんじゃない?大丈夫?」
春野は幾度も反芻した過去の味を思い出す だが目の前のぱっと見少年の顔はそんな味とは一切無縁の笑顔だった
「大変だったことは多少ありましたが...俺と稲生の二人が揃えば 血生臭い道も死臭漂う影も...何も怖い事なんてありませんでしたよ だって俺たちは"最良"のコンビですからね
あっ強いて言えば食うに困ったせいか二人とも身長伸びなかったので高い所にあるものを取るのが大変でしたね...稲生の母親なんて103cmしかないですし」
春野は流魂街でこの二人のような関係のあの子たちがいたらと想像がほんの少し沸き少しセンチな気持ちになった だがそれより小さな範囲の頭の内で『あれ程の場に対して本当に恐怖を感じていないような顔』に少し違和感が浮かび消えた
少し口を止めていた春野に船附は最後に付け加えた
「最後に!俺のモットーを伝えておきます『贈り物と胸は際限なくデカけりゃデカいほど良い』...もちろん現実に見合った想定をすべきですがね」
「なんで最後なの?」
「先ほどから五番隊の所属っぽい人がドアから見てますよ」
「あらー...じゃあ仕事に戻らないとね!また明日から頑張りましょう!」
手をひらひらと振りながら春野は部屋を後にした