『稲生の親友』─THE CLOSING CHAPTER PART ZERO─

『稲生の親友』─THE CLOSING CHAPTER PART ZERO─

稲生紅衣メメ虎屋ダルヴァの主

「俺...この戦いが終わったら『ラーメン』を極めたいと思ってるんだよ スーちゃん」

「ローちゃん料理上手だし確かに出来そうだけど...死神は基本死ぬまで辞められないわよ?」

五番隊隊舎で船附と春野は少しサボり気味に談笑をしていた

「俺は稲生に『滅却師殲滅』のお供として誘われたからな 今まで一緒に任に着けなかった分ここで俺ら二人が『最良』であることをスーちゃんに見せてやるいい機会でもある」

フッと得意げな笑みを浮かべ小さな体躯の胸を張る船附 稲生が今ここにいれば同じように胸を張っていただろう

春野が普段見る船附と稲生は大体同じような印象で『世話好き』『小さい』『よわよわ』...正直この二人が大きな怪我をしないかを心配していた あとついでに

「滅却師殲滅自体はもう3日前から始まってるけど 二人とも現世に赴かなくていいの?」

「みんなのように前線に出ても二人ともすぐに伸びて終わりだろう... まあ まだその時ではないって感じだな!」

「えぇ...それでいいの?」

実際に春野が船附と組む場合は基本船附をおぶっていかねばならず 戦場で一発パンチを決めて虚を倒してガス欠...時代が時代ならミサイルだのなんだのと例えられていただろう

「怪我をしたりしたら迎えぐらいならいくわよ?遠慮せずに連絡してね」

「頼りにしているさ もしその時は稲生も一緒に小脇に抱えてくれ」

現世では戦いの真っ最中であったが和やかな時間が流れていた

滅却師殲滅についての映像記録【稲生】 004再生終了


「何を見ているんだいカワキちゃん?」

「…君か バルバロッサ」

少しばかり暗い部屋の中でカワキは映像記録を鑑賞していた 視聴の目的は「死神」と「滅却師」との戦いについての解像度を上げるためである

「およそ二百年前の滅却師殲滅戦についてか...スパイの稲生さんが出てたね あの人には良く現世の物を貰ってるし割と温和で助かってるよ」

「私もあの人がお酒を運んできてくれるから助かっている」

そんなことを話しながらカワキは次の映像媒体を再生しようとする バルバロッサは自主的に椅子と摘まむものを用意した

「どういうつもりかな?」

「せっかくだから 解説しようかなって思ってね よく言うでしょ『人に教えるとより理解できる』って」

「好きにすると良い」


映像が始まる 上空から撮影したのであろう村...そして無数の鴉たち 村に近づき洗いざらいをその映像に収めていた

そして次に映し出されたのは阿鼻叫喚 燃える家屋に逃げ惑う人々 闇夜に紛れて飛び交う鴉たち

「二百年前の日本の家屋は木造が基本だった もちろん現世に住む滅却師達の家屋も例外じゃない...」

映像を細かく見れば分かる 火を放ったのは油などが入っていたのだろう容器を括りつけた鴉達だ 電気の無い時代であれば火元は家の中に無数にあるが故の策

「成程それで放火か 目的外の家を燃やさないために『断空』を使うなんて贅沢な使い方だね」

カメラが一つの家屋に潜り込む 燃える家屋では既に息絶えた子供が一人と瀕死の母親であろう女が一人 そして女と子供に巻かれた鎖状の鬼道を破壊しようとしている男が一人見えた

更に他にも鴉が乱入し男を縛道で縛ろうとする 結局女に諭されたのか男は二人を置き燃える家から這い出ていった

「『狩り』であり『罠』という文字を刻まれた身としては参考にはなるけど真似はしたくないね 確かにこの方法なら強者も弱者を守ろうとして煙や火に巻かれ死ぬこともあり得る

...ちなみに今の映像はさっき見た談笑のしていた映像の前日の夜の出来事だ」

つまりこの映像の出来事が起きている間 稲生も船附も現世に一度も顔を出していない すべては稲生の『堅獄鴉』からの情報と攻撃である

現地の地理と敵の位置の把握 そして道具の使い方 カワキは情報と手数って大事だなぁと思った。(まる)


他に十の村に住む滅却師がほぼ同時に襲われ放火され...来る敵に備えて滅却師が一か所に固まって防備を固めていた

「昼夜を問わずに鴉は送り込み疲弊を狙う 川に洗濯や飲み水を汲みに行けば縛道で川に引き込み溺死を狙う...彼女の斬魄刀なら卍解ではなく始解が欲しいね」

「お酒渡されて『これで勘弁するのじゃ』と言われるオチじゃないかい?」

「どちらでもプラスにしかならない 次に会った時に聞いてみるとしよう」

映像はかなり進み一か月後にようやく稲生と船附は現場に現れた

ようやく現れた元凶 そしてこれを倒せば解放されるという安堵

もう誰も戦わないという選択を頭に思い浮かべることは出来ないでいた

戦闘が始まるまでに稲生の鴉による妨害が挟まった結果みな到着がバラついた状態を強いられている

長丁場であったので軽く映像内を抜粋すると...

「どうしてそこまで人の心を捨てた事が出来た...死神は皆そうなのかッ?」

「えー 仕事じゃし...吾は効率とかその辺を考えただけじゃ」

「俺としても心外だな 世界の崩壊の直接的原因を取り除くためにやってるんだからな 『殲滅』なのだから男だけとかではなく全員殺すしかないだろう?」

「...妻と子の仇 どうであろうと取らせてもらう」

「しょうがないのう...吾の刀の錆に あっ吾の始解は刀身無くなるから無理じゃ」

「じゃあ俺が代わりに刀の錆にしてやろう ──開け『錫音』

船附が刀を構え始解する 刀は持っていた手から順に持ち主の体を覆う外殻へと変化し全身を美しい銀に近い鼠色の鎧となった

チリンッ 鎧の小手をこすり合わせて音を鳴らすと周りの物が浮き始めた

『錫音』は人も物も見境なく浮かばせる もちろん霊子のレールに乗った君の足も例外なく浮かぶ 君が反撃の為に弓を番えてもその反動で回転が始まり狙うことすら叶わない」

十一席とは思えない瞬歩の早さで相手の懐に潜り込み全力の白打を見舞う

白打ちにより与えられた力は相手の体から逃げ道を失い その体を破裂させる結果となった

弾け飛んだ血と臓物はまだ宙に浮かんでいる

「あぁ すまない!これでは血で錆びることがないな!そもそも錫は錆にくいし猶更か

稲生 もうヘロヘロだから俺は十分程度ハンモックで寝る...次の相手が来たら起こしてくれ」

始解が解除されようやく血が流れる音がした


「アレもほしいな アレも似た道具が作れないか頼んでみようか」

これも見た上でのカワキの反応である

「ちょっとわかる...でも多分無理じゃないかな? さて...ある程度区切りが良いしみんなの所に行ってくるよ」

バルバロッサはそろそろバンビエッタが手隙になるだろうとカワキを置いて部屋を出た

この後も継続して暗い部屋で長々と画面を見ていたため ハッシュヴァルトに怒られたカワキであった





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