秘密基地

秘密基地

新旧七武海が家族の世界

男性陣メインです。

子供たちの年齢は具体的に決めてないですが低めで想像をお願いします。

ジ〇リネタと原作パロがあるので注意。



 七武海一家の住む邸宅の裏には林が広がっている。コナラやクヌギ、カエデ、クリなどの木々が混生しており、四季の移ろいを感じ、自然の豊かさに触れられるような林である。この林、特に活用する目的があって敷地に存在している訳ではないので、子供たちが遊びに入って迷子になったりしないように、あるいは不審者が侵入しても発見しやすいようにそれなりに手を入れてあるが、基本的に父母祖父母が入ってくることは稀だ。あるとすれば秋には落ち葉を集めて焚火をしたり栗拾いをしたり、春を迎えた今ならばタラの芽やコシアブラなどを採るくらいだろうか。今は冬の突き刺すような寒さが過ぎ去り、この林のあちらこちらでも着実に春が訪れ始めている。

 林を少し進むと落葉樹の木々の中に一際目を引く大きな木がある。常緑樹のクスノキだ。1本だけ、どっしりと構えるような佇まいは過ぎた年月の長さを感じさせ貫禄がある。その木の根元に佇んでいるのは長男のドフラミンゴだ。

 背後からくしゃり、と落ち葉を踏みしめる音が響いた。

 ドフラミンゴはゆるりとそちらへ視線を向けると、不敵な笑みを浮かべた。

「フッフッフ……みんな来たか」 

「遅くなってしもうた。すまぬ」

「やはり家族の目を盗んで抜け出すのは難しい……」

 言葉を発したのはジンベエとくまだ。

「ローが父ーたんたちの注意を引いてくれたから何とかなったど!」

などとウィーブルに褒められたローはティーチとモリアと共に集合している。

「一度に全員集まるなんてできるだけ止めといたほうが良さそうじゃねェか? いつかはバレるぜ」

とティーチが言えば、モリアが同意する。

「キシシ、違いねェな! ……ドフィ兄ちゃん、ここがその場所なのか?」

「ああ、そうだ。ここは家から遠すぎず近すぎないだろう。物資の搬入にちょうどいいし、このクスノキは目立つから目印になる」

「クスノキ……はっ、ということはト〇ロもいるかもしれねェな!」

 末っ子のモリアがぱあっと目を輝かせた。ドフラミンゴは思わず「えっ」と言いかけたが慌てて飲み込んだ。万が一にも弟の夢を壊してはいけない。すぐに取り直す。

「……そうだなト〇ロがいたら友達になってもてなそう! ここならば迷子になるほど深く入り込むこともねェし家族に心配をかけるようなことにはならないだろう。フッフッフ。そうだ、おれは宣言しよう……」

 ドフラミンゴは改めて兄弟を見回した。みんな決意を込めた目でこくり、と肯いた。それにドフラミンゴも大きく頷き返すと、両手を天に掲げ大きく息を吸った。

「ここを秘密基地の拠点とする!!」




 事の始まりは春休みに入ってすぐの日だった。

 モリアが兄たちに尋ねた。

「秘密基地を作って遊びてェ。だけど作り方が分からねェ」

「秘密基地だァ? どうしたんだ急に」

 ティーチが問い返した。

「園で友達が秘密基地を作って遊んで楽しかったって言ってたんだ。男なら一度は秘密基地を作るべきだってよ。大人には内緒にするのが大事らしいぜ」

「秘密基地……面白そうだ。いいじゃないか」

「わしも遊んだことないのう。楽しそうじゃな」

 どうやらくまとジンベエも乗り気らしい。

「おでたち兄弟が力を合わせればカッコいい基地が作れるんじゃないかドフィ兄ーたん!」

 ウィーブルが期待を込めた目でドフラミンゴに同意を求めた。

 弟たちの期待を裏切るなんてことはドフラミンゴには許されない、と本人は思っている。誰かが決めたわけでもそう求められているわけでもない。ただ己が兄としてそうでありたいだけだ――だから答えなど決まっている。

 ドフラミンゴの口元がゆっくりと弧を描いた。

「フッフッフ。そうだな、秘密基地……いいじゃねェか。それじゃあこの春休み、おれたちは秘密基地を作り遊び倒すことを目標とする!!」

「おー!!」

 掲げた拳と共に、活気に溢れた掛け声が家に響き渡った。




「これから決めるのは役割分担と合言葉、作る場所、そしてどんな基地にするか、だ!」

「役割分担か……。リーダーはドフィがいいと思うぞ」

「副リーダーはジンベエ兄ーたんがいいと思う!」

 ジンベエが長男のドフラミンゴをリーダーに推し、ウィーブルがジンベエを副リーダーに推した。他の兄弟もウンウンと肯いているので異論はないらしい。

「ではリーダーはおれでジンベエを副リーダーに任命する! ウィーブルとくまはA班、ティーチとモリアはB班としてペアで行動することを基本としよう。お互い助け合って喧嘩はするんじゃないぞ! ローは単独行動しながら弟たちのサポート、そうだ戦隊モノで言えばブラックだ!」

「にゃーん(ブラック……一匹狼のヒーローか。悪くねェな)」

「仲間がピンチの時にどこからともなく助けに現れる……頼りになるローにぴったりじゃな」

 ジンベエの納得顔にローは誇らしげに尻尾を振って返事をした。役職がお気に召したらしい。

「ローは自由に動いてくれればいい、判断は任せる。次は合言葉だ! 秘密基地に合言葉は外せねェ!」

「合言葉……『風』『谷』みてェなやつか?」

 ティーチが思案顔で例えを口にした。

「その合言葉は風の〇のナ〇シカだな。そんな感じでおれたちらしい合言葉を頼むぜ」

 ドフラミンゴの提案にジンベエとウィーブルが顔を見合わせ言った。

「飛行石」

「バルス」

「ラ〇ュタじゃねェか! ロマンがあるよな! おれも好きだぜ!」

 次にくまとティーチが言った。 

「生きろ」

「そなたは美しい」

「も〇のけ姫じゃねェか! アシ〇カかっこいいよなァ! なあ、お前らなんでジ〇リにこだわるんだよ!?」

 最後にモリアが身を乗り出した。

「飛ばねえ豚は!?」

「ただの豚ァ!! そうじゃねェ、そうじゃねェんだよ……! そりゃあおれだってジ〇リは好きだぞ!? だけどジ〇リ作品から1つを選ぶなんてそんなの争いが起こっちまうだろうが! おれはジ〇リが原因で争う未来なんて見たくねェし兄弟と争うことはもっとしたくねェ……! 頼むからジ〇リは一旦置いといてくれ!」

 ドフラミンゴは一気に捲し立るとゼエゼエと肩で息をした。一方の弟たちは満足げな顔をしている。荒く息を吐きながら解せない、とひとりごちた。

「……間を取って『ユキヒョウ』『ロー』でいいと思う」

(今の話のどこの間を取ったらおれになるんだ……?)

 くまの提案にローは首を傾げた。

「いいなそれ採用! よし、次に基地の場所だがこれは俺にアテがある。後で案内しよう。そして最後にどんな基地にするかだが……ああ、材料も決めなきゃならねェな」

「とにかく楽しいやつが良い! 罠とかも仕掛けようぜ!」

「友達は段ボールで作ったって言ってたぞ」

「軽いしおれたちでも集めやすい材料でいいな! それでは各自段ボールを集めてくれ。ただし家族には何に使うかは誤魔化しておくように。秘密基地は大人にはヒミツにしなきゃダメなんだ!」

「わかった!!」




「……で、それぞれ材料を集めて基地の場所に集まり段ボール製秘密基地を作ったワケじゃが」

「雨でぐちゃぐちゃになっちゃったど……悲しいど……」

「次に水に弱いという反省点を生かしてビニールシートを使ったけど……」

「ぶっちゃけやべェ見た目をしてるよな。シンプルに治安が悪そうというか……。あと風に弱い」

「もうちょっとこう、ワクワクする感じが欲しい。これだとテンションが上がらねェ……」

 言い出しっぺの末っ子は特にがっかりしているようだ。しょんぼりと肩を落としているモリアの頭をジンベエが撫でて宥めている。

 ドフラミンゴは力なく項垂れた。弟たちの落胆した様子に、希望を叶えてあげられない不甲斐なさと自身の無力感が溢れだしてきた。

(そんなわけねェよ……いくら何でも理想の秘密基地作りがこんなに遠いわけねェ……!!)

 あまりに悔しくてドフラミンゴは拳を白くなるほど握りしめた。

(秘密基地作りってこんなに難しいものなのか? しょせんおれたちには無理なことだったのか? 弟たちの願い一つ叶えてやれないくらいおれは頼りない兄だということなのか……?)

 じわりと涙が滲むが頑として零さない。今ほどサングラスをしていて良かったと思うことはないだろう。

「何が兄だ……!! おれは――弱い!!」

 ドフラミンゴの叫びが林に響いた。

「兄ちゃん……」

「悪いが今日はここまでだ。だが、おれが必ずいい案を見つける……少し時間をくれ」

 自信と家族への愛に満ちた兄はいつだって弟たちには大きな存在だった。だけどその背中は、今はいつもより小さく見えた。

 ふと、ローがそっとドフラミンゴに近寄ると、珍しいことにそのふわふわの尻尾でゆるりと背中を撫でた。

 その光景に気を取られていて誰も気づくことはなかった。陰から彼らを見ている人間がいることに――……。




 翌朝。太陽が顔を覗かせたが起きるにはまだ早い時間、ドフラミンゴはベッドに入ったまま寝不足の頭で思考を働かせていた。

(一晩考えたがいい案は思いつかなかった……。やっぱり頑丈でないと駄目だろう、うちの兄弟はわんぱくが過ぎるんだ。林の中に作ることを考えれば馴染むように木で出来た基地がいい。楽しめるような仕掛けも作りたい。弟たちは絶対に喜ぶし楽しいはずだ。妥協なんてしたくねェ……。だけど一人で道具を使うのは危ないし……一人でやろうとしたら家族に心配をかけるし叱られるだろうな。かといって道具を使わずに作れる気はしないし……父上やじいちゃんに手伝ってもらったら何を作るのか聞かれちまう。くそ、諦めるしかないのか……?)

 一向に解決策を見いだせないことへの焦燥感ばかりが募り、逃避をするように布団を顔まで引き上げた。一気に視界が闇に染まり何もわからなくなった――……

 ――コンコン。

 扉をノックする音が響き、ハッとして一気に現実に引き戻される。

「おはようドフィ。寝てるところ悪ィな。……もしかして起きてたか?」

 扉の前にいたのは祖母だった。

「おはようばあちゃん。起きてたけど……どうしたんだこんな朝早くに?」

「実はちょ~っと手伝って欲しいことがあってよ。朝っぱらから悪ィが庭でクロちゃんとミホークが待ってるから行ってもらってもいいか?」

 バギーばあちゃんは困ったように眉尻を下げ両手を合わせて拝むように頼み込んできた。どうせこんな精神状態では寝れやしないし家族の頼みならば断る理由などない。だけどこんな朝早くに頼みたいこととは一体なんだろう、と不思議に思うがそれも行けばわかることだ。

「ああ、わかった。すぐ行く」

「そうか、ありがとよ!」

 ささっと着替えると踵を返して庭に向かう。急いでいたから気づかなかった。祖母が親指をぐっと上げながらイイ顔で見送っていたなんて。




 庭に向かったドフラミンゴは、まず視界に入ってきた大量の材木や塗料らしき缶に驚いた。その量たるやまるで家でも建てるつもりかのようだ。少なくとも昨日の夕方にはなかったような気がするのだが、いつの間に運び込まれたというのだろうか。

「おはよう父上、じいちゃん。この木の山はいったい……?」

「朝早くに悪ィなドフィ。実はバギーの知人のペットの遊び場を作ることになってな……。ペットといっても犬猫みたいな可愛らしいもんじゃねェからかなり大きいサイズが必要なんだとよ。バギーが安請け合いしちまってな……」

「一度引き受けたならばやるしかあるまい。ドフィ、お前は器用だから慣れるのも早いだろう。手伝ってくれれば早く終わるしおれたちも助かる。作り方や道具の使い方は教えるから心配しなくていい。……手伝うか?」

 やるかやらないか、突然決断を求められて面食らったが家族の頼みならば是非はない。それに――……

(秘密基地づくりのヒントになるかもしれねェし、道具の使い方を知れば後々役に立つかもしれねェ)

「……うん、やるぜ!」

 力強い返答に、父と祖父は満足げに頷いた。

「設計は終えて図面に起こしてある。早速始めるぞ。丸ノコを使えば早いがドフィにはまだ早い、今回は鋸を使う」

 父はそう言うなり鋸で木材を切り落とした。切る速さにも目を見張るが鋸で切った割には断面が滑らかであることに慄く。

「さすが父上……」

「クハハハ! 得物が刃物なら何でもお構いなしか」

「今のは手本だ。ドフィがやらねば意味がない。さあ、やってみろ」

 気を引き締めて渡された鋸を持つ。そうしてドフラミンゴの長い一日が始まった。

 



 そうして数時間後、ドフラミンゴは感無量の面持ちで完成品を眺めていた。

 それは小人の家のようなどことなく童話を思わせる建物が、通路を連結させて行き交うことが可能になっていた。出入りには手作りの木製ドアが付いており、木枠の窓には色付きのアクリル板をはめ込んでステンドグラス風にしてある。壁にはランプを引っ掛ける金具も付いているし、隠し扉などの遊び要素がいくつも組み込まれている。防腐剤を塗ってあるので雨にも強く、組み立てと分解が出来るので持ち運ぶことも可能だ。

「やっとできたぜ……! うん、いいじゃねェか!!」

「気に入ったか?」

「ああ!」

「それならば良かった」

 一瞬、父の言葉になにか引っ掛かかったが、やり切った高揚感の前にはすぐに消えてしまった。

 そこへ何やら渋い顔をした祖父がやって来た。

「おい二人とも、せっかく完成させたところにすまねェが……バギーの知人とやらから連絡がきてよ、置き場所がねェから受け取れねェそうだ。いつか引っ越ししたらとかいうフワッフワした予定だったらしいんだが、バギーがすぐに欲しいんだと早合点したらしくてな……」

 祖父は疲れたように深い溜息をついた。一方の父はさっぱりとした顔で言い切った。

「ふむ、そうか。ならば仕方あるまい」

「……せっかく作ったのに、そんなあっさり納得していいのか?」

 ドフラミンゴは不思議だった。材料をすべて揃え、思ったより早く出来たとはいえそれなりに労力は掛かっている。不快感の一つも感じないほうがおかしい気がした。

「かまわん。しかし、作ってしまった物はどうしたものか」

「ウチにはいらねェしここに置いておくわけにもいかねェな。こりゃあ困るぜ、誰か有効活用してくれねェものか……」

「ああ、このままでは困るな」

 しきりに困ったと呟く父と祖父を交互に見てドフラミンゴは思った。

(……あれ? これ欲しいって言ったら貰えるんじゃねェか? もうコレで基地問題解決するんじゃない?)

 ドフラミンゴはそろそろと手を上げた。

「いらないならおれが貰ってもいいか……?」

「なんだドフィ。貰ってくれんのか? そうしてくれりゃこちらは助かるが」

 祖父がちらり、と父を見るとそれを受けた父は頷いた。

「ドフィ、そもそもこれはお前が作ったのだから誰よりもお前に権利があるといえる。どのように使おうがお前の物だ、好きにするといいし何に使うかなど聞きはしない」

「でも、父上も一緒に作ったんだが……」

「おれは横で説明しただけだ。実際に手を動かし懸命に作ったのはお前だろう」

「……ありがとう!」

「良かったじゃねェかドフィ。そうだ、木の色そのままだと味気ねェようならそこにある塗料を使え。うちの社員マリアンヌが奨める発色も安全性も保証する逸品だとよ。周りを汚しすぎないように気を付けて使え」

「わかったぜ!! さあ弟たちよ集合しろ! 今から塗り絵の時間だァー!!」

 ドフラミンゴの掛け声とともに弟たちが集まってきて、賑やかなはしゃぎ声が庭に響いた。

――これでもう大丈夫だろう。

 乾かした後には子供たちがこっそりと林へ運び込むのを想像しながら父と祖父はその場を後にした。




「これで解決したな」

「ああ……ふぁ、流石に寝不足だな」

 クロコダイルは欠伸を噛み殺した。寝不足なのは間違いない。昨夜は一睡もしていないのだから――……。

 昨日のこと、バギーは春の山菜採りに林に入っていた。温んだ空気に心地よさを感じながら林を進み、そして聞いてしまったのだ――子供たちの秘密の会話を。それは偶々であってまさか孫たちがいるとは知らなかったのだが、子供たちが、ドフラミンゴがひどく落胆している様子を見てしまっては何もせずにはいられなかった。

 そろそろと気付かれないように家に戻り、子供たちが寝静まった夜遅くにひそひそとクロコダイルとミホーク、ハンコックに林で聞いた話を伝えたのだった。

 そもそも大人は子供たちがコソコソと林に入って何かをしようとしているのは気付いていたし、それが危険なものでなければそっとしておくつもりだった。しかしバギーから聞いた話の様子では、このままでは幼い兄弟たちの秘密基地計画は行き詰り、無為に時間ばかりが過ぎていくのは明白だった。そうなれば子供たちには挫折感が残るだろう。子供たちで出来る限りのことをしたのであれば、大人が介入する頃合いかもしれない。

 しかし子供たちは基地は大人に秘密にしなければという観念を持っている。ただ無遠慮に助けの手を差し出せば良いという話ではない。

 そこで一芝居を打つことにしたのだった。バギーが有りもしない頼まれごとを引き受けたことにして――猛獣のペットを飼っているちょうどよい知人がいたので適任だとバギー本人が名乗り出た――ペット用と称して基地にも使えそうな遊び場を作り、それを基地として流用させるシナリオを考えた。

 そうと決まればクロコダイルの行動は早かった。すぐさま材料を発注し、あまりにも急すぎる注文だったのにあらゆる伝手を使い、翌朝までに材料を揃えていた。

 そして父母祖父母揃ってデザインを考案し、設計と図面に起こす作業を夜通し行っていたのだ。

「強請られたり頼んでくれりゃ力になってやるのによ……」

「秘密基地は子供だけの世界だからな。それでは意味がないのだろう」

 クロコダイルが眉を寄せて不服そうな顔をしているが、それは孫が心配なあまりゆえだ。どれほど心配していたのかは庭に積まれた材木の量が示している。作業を終えた後だというのになお大量に残っていた。

「子供たちが楽しんでいるのだから結果的にはこれで良かったのだろう。……ふむ、今度はツリーハウスでも作ってみるか。大人の秘密基地も面白いかもしれない」

「クハハハ、お前も随分と童心に帰ってるじゃねェか」

「どこかの誰かが明らかに多すぎる量を発注したものでな。材木を庭に積み上げたままにするわけにはいかん。有効活用だ」

「ぐっ……足りねェよりはいいだろう」

「そうだな。それに、こういったものを楽しむことに大人も子供もないのではないか。秘密基地にせよ何にせよ、子供のころと変わらず心踊るものに一つくらい覚えがあるだろう」

 ミホークの問い掛けに、クロコダイルは遠くを見るように目を細めた。

「……さァ、どうだったかな。そもそもてめェの子供の頃なんざ昔のこと過ぎて覚えてねェよ」

「……そうか。物忘れを起こすような年ではないはずだが、まあ突然記憶力に自信がなくなることもあるのだろう――言いたくないことでもあるのかなどと過去を詮索するつもりはない。が、おそらく義母は童心を忘れない質だろう。今でもいい感じの棒があれば拾うし秘密基地のロマンがわかるタイプだ」

「……」

「子供も大人も『遊び』が必要だ。常に大人でいる必要もあるまい。たまには童心に返って秘密基地という非日常的な空間で義母とゆっくり語らってはどうだ」

「フン……義息子が言いやがる」

 不惑の歳などとうに過ぎているのだ。迷うことなど少なくなったが、だからこそどこか枠にとらわれている面もあるという自覚はある。作り上げてきた体面もある。だがそれを指摘されるのも気にくわない。これ見よがしに片眉を上げて皮肉を言えばフッと小さく笑って返された。可愛げのないやつだ、とひとりごちた。

「さて、おれは帰って昼寝する……と言いたいが、妻のところに行って宥めてこなければいかんな。義母が付いているがそろそろ限界だろう……」

「あー、そうだな……」

 クロコダイルが思い出して苦笑いを浮かべた。

 昨晩バギーから子供たちのことを聞いたハンコックは、すぐさま寝てる子供たちのところへ駈け込んで『この母に任せるがよい!』と言い出しかねない状況だった。それを引き留めて落ち着かせて、先に寝ていていいという周りの声も拒否して共に計画を練り、朝には後は任せて休んでいろと声を掛けておいたのだが『子供たちが無事に喜ぶ姿を見るまではとても休めぬ……!!』と悲愴な面持ちで拒否された。

 おそらく今も朝と変わらぬ様子で耐えているに違いないが、当の本人も側で励ましていたバギーもそろそろ限界を迎える頃合いだろう。

 その様子を想像して、二人は揃って遠い目をした。

「……義母を労っておいてくれ」

「ああ、任せろ」

 ハンコックのことだけではない。偶然であろうと子供たちの状況を把握できたことも、用意したシナリオにおける損な役回りを担ったのもバギーなのだ。妻に割を食わせるようでクロコダイルは終始面白くなさそうにしていたものだ。

「それと寝不足は身体に悪い。後のことはおれに任せて2人とも休んでくれ」

 立ち去り際にそんな気遣う言葉を残されて、思わず振り返れば足取り軽く歩む後姿が目に映った。そこに疲れなど感じられない。

「……お前も一睡もしていないはずなんだがな」

 こちらは容姿に表れていないとはいえ孫が6人もいる身だ。心身ともに頑強で憂いなどないが、そうはいっても心配するのは親も子供も同じこと――ここしばらく孫を心配していた己の心情を思い返せば、その想いを受け取るのも悪くはない、今ばかりは素直にそう思えた。

 ――きっと娘婿は前言通り大人の秘密基地とやらを作るのだろう。あいつは言い出したら実行する奴だ、きっとまた凝ったものを作るに違いない。そうしたら嫁を誘ってそこでのんびりするか。童心なんてものは実際の年月より遥か昔に置いてきたような気がするが、いつまでも童心を抱えているような嫁が隣にいればそれでいい。

 そう遠くない未来に思いを馳せ、ゆっくりと葉巻を燻らせた。





要約:子供も大人も秘密基地で遊ぼうぜ!

じいちゃん裕福だけど無機質なご家庭出身概念から子供時代に秘密基地ごっことかしたことなさそうな気がしたのでこうなった。大人になっても体面を気にして子供っぽいこととかやらなそうなのでばあちゃんに巻き込んでもらう。

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