私達の覚悟
注意事項など
若奥様:SF小説『水星の魔女』の著者。デリングに囲われる愛人のミオリネ。夢見がちな、深窓の令嬢。
旦那様:デリング。ミオリネを愛人として囲う貴族だか豪商だかの人。『水星の魔女』のデリングのモデルだが、小説内のデリングよりも大分丸いお人柄。
大奥様:デリングの正妻。プロスペラのモデル。
赤毛のメイド:デリングの邸宅に勤める使用人。スレッタのモデル。快活な人柄で、愛人ミオリネが気を許せる数少ない存在。
貿易商の男:参考にしたスレッド内には登場していません。デリングの取引先。どことなく『水星の魔女』のグエルに似ているかもしれない。貴族だか財閥だかの御曹司。パナマ帽を被って、三つ揃えのスーツなどを着こなしていそう。なお、若奥様(ミオリネ)と面識があるか否かは不明。
…ということで、グエルに該当するキャラクターのみ当方の創作になります。ご注意を。
なんとなく、1920年~1940年あたりの「貴族階級ってまだあったっけ、もうないっけ?」くらいな時代のイメージで書きました。なんとなくアメリカの富裕層のお屋敷のイメージ。時代考証はへなちょこです、悪しからず。
展開はベルセルクという漫画を、使用人に関する描写はUnder The Roseという漫画をパク…参考にして書かせて頂きました。
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とある屋敷の昼下がり。空き部屋の中。
赤毛のメイドがある文学作品に対しての批評を繰り広げている。激論とも言うべき熱の籠ったその批評を辛抱強く聞き入れ相槌を打ってやっているのは、その屋敷の主人の取引先である貿易商の大男だった。
「まず第一にですねえ、愛人関係にある旦那様に父性を求めるのが生々しすぎなんです。基本夢見がちな人なのに、そこだけ急に生々しくなりすぎなんです」
「ウン、ウン。まあ、若奥様と旦那様の間にもいろいろあんだろ?世の中を見渡してみれば、親子のような側面を持つ夫婦だって別段珍しくはないさ」
男はメイドの赤い癖ッ毛を手慰みに指に絡ませ、秋の日の晴天を思わせる青い目で彼女を見つめてやりながら、話に耳を傾けている。
「旦那様だって、あんな横暴な人じゃありませんから。他のお屋敷のご主人様方とは違って、ちゃんと私達使用人にもご挨拶して下さるし、お土産のお菓子だって分けて下さるんですよ。若奥様は、旦那様に何か恨みでも持ってらっしゃるんですか?」
「ウン、ウン。使用人を家具扱いせず個として認識して下さる旦那様、お優しいよな。ただな。それって多分、お前ら使用人への監視と牽制も含まれてんだぜ。あながち作中のデリング像とかけ離れているとも言い難いと思うが」
「あとあと、あのプロスペラへのあの一言ですよ!モデルになった大奥様へのメッセージなんだとしたら、流石に私もドン引きですよ。「私たち、家族になるんだから」なんて、愛人が本妻に一番言っちゃダメなヤツじゃないですか」
「…ううむ、それに関しちゃ同意だなあ。若奥様にこれといった攻撃もせず我慢を続けてらっしゃる大奥様からしてみたら、そっとしておいてもらう権利くらいは主張したいところだわな」
「あと、やっぱり解せないのはスレッタに関する描写です。私がモデルらしいですけど、あんな粗忽者じゃないですし!作中だと、さもミオリネがお姉ちゃんのようにスレッタの面倒見てあげてますけど。いやいや実際逆ですからね。箱入りで夢見がちで放っておけないのは、私じゃなくて若奥様のほう!そもそもあんなつまみ食いとか、品の無い真似してませんし…」
「はい、ダウト!」
ビシッ!と呆れたような顔でデコピンをしながら、男はメイドに言う。
「知ってっからな。この前使用人の皆さんにって渡したはずの土産の焼き菓子、ほとんどお前が食っちまったらしいじゃねえか。あのミーハーでぽっちゃりしてる侍女から聞いてんぞ」
「痛ったあい!ぐぬぬ、××××さんのお喋り~。すみませんでしたー。……だって美味しかったんですもん」
「……じゃあ、俺に言えよ。言ってくれりゃ、あんなもんいくらでもお前に買っ」
「ていうか、さっきっからなんなんですか!ああ言えばこう言って。反対意見ばっかじゃないですかー!萎えますぅー」
「~~~~~~~~~~~~~~っっ(怒)
…んじゃあ、俺からも言わせてもらうけどよ。
その話って、どうしても今しなけりゃならない話なのか よッッ!!!」
「きゃうっっ!!」
ドチュンッ!!
既にズッポリと入り込んでいた欲望を、男はメイドの中に強かに突き入れた。
着衣のままでありながら、しかし男がメイドを組み敷いた正常位で体を繋げている二人は、そのまま律動を再開させたのだった。
「はあぁッ……お前がっ、若奥様を大好きなのは知ってるがっ、よっ。せっかく二人きりで睦み合ってんだ、もっとっ…雰囲気のある会話しねえっ…かっ!?
あと、これ。万一誰かに聞かれたら、陰口以外の何ものでもないからな?お前の若奥様への感情を、誤解されちまう」
「あっ、ヒャッ、きゃんっ!次っからっは、気をつけますっ。
いやでもっ、だってだって、こんな風に気分をっ…紛らわさないっ、とっ。恥ずかし過ぎて、ふぅッ、死んじゃっ、いっ、ますっ……。
ひゃあっ!?なんっ、なんっで、大きくなって……」
「…くくっ。確かにっ、お前っは…おぼこい「スレッタ」とは似ても似つかねえッ…かもなあ。主人の見てない隙に、クッ…ンッ、こんなあざといやり方で賓客を惑わして、咥えこんじまってるんだから…よッ!!」
「やんっ、やんっ、ひゃだあっ!ああアッ!ちがううッ、ちがうからあッ!そんな言い方っ…しないでぇ…」
「すまん。嘘だよ。悪かった。……ほら。恥ずかしいんだったら、少しの間目を瞑っていろ」
「ンンっ…ちゅっ、ふうっ、ちゅっ、ちゅうっ…」
噛みつくようにメイドに口づけをしその口内を楽しみながら、男はその律動を少しずつ早めていくのであった。
「ほら、これ。やるよ」
行為が終わり、共に身支度を整えた頃。
男はメイドに、紺色のベルベットの箱を差し出す。
パカッと開けてみれば、中に鎮座しているのは真珠のネックレス。
憮然とした、だけれどわかる者にはわかる照れくさそうな様子で、男は申し開きを始める。
「その、指輪を贈ることも、考えてはみたんだが。さすがにまだちょっと重いかなって。
で、そのネックレスは偶然見つけたものなんだが。フフン、なかなかいけてるだろ?お前の肌の色にも映えると思ったんだ。
せっかくだ。良ければ、今着けてやりたいんだが…」
どこか浮かれた調子で話し続ける男に反し、メイドの方はじっとネックレスを見つめたままで何事かを考えこんでいる様子だ。
彼女はベルベットの箱を持ったままで反対側を向いてしまっているので、男からは下を向いた女の顔のふっくりとした頬のラインしか見えない。
と、しばらく経ったのち。
おもむろにメイドは箱の中からネックレスを持ち上げ、ゆったりと男の方に振り返る。
にっこりと笑って、眼前にネックレスを掲げ。
そして、両手で思いっきり引き裂いた。
バチィンッッ!パラパラパラパラッ…。
弾け飛んだ真珠のうちの何粒かが、男の頬をバチバチと打ち、赤い痕を残す。
男は無残に飛び散る真珠の粒を、唖然と見守る他ない。
「ありがとうございます。とっても綺麗で、良いお品ですね。
……大丈夫。ちゃんと皆で分け合いますから。
あ、別にお菓子のことを注意されたのを、根に持ってるわけではないんですよ?
……ただ、これに関しては、こういう風にするのが正解なはず、だから。だから…」
____ねえ。
私、ちゃんとわかっているんですよ。
いずれあなたは然るべき場所に帰って、然るべき身分のご令嬢と結ばれる。
たとえ一時だけでも、あなたのような素敵な方の止まり木になれたこと、本当に嬉しく思っているんです。
本当に夢みたいな幸福を味あわせて下さった。あなたの下さった思い出は、一生の宝物です。感謝しかありません。
だから、ねえ。×××様。
どうかお願いですから。
そんなふうに、捨てられた子犬みたいな顔をするのを、止めて下さい。
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あとがき
仮にも主人の賓客に対して、こんな失礼な断り方は普通しませんよね。
赤毛のメイドさんも、平静を欠いているのです。
貿易商の男、がんばえ~!!