『私は最強』

『私は最強』


〜新世界 レッド・フォース号〜


「………」

新世界の風は気持ちいい。

時折甲板に出てこうして風に当たるのは、私の日課になりつつある。

海上で停泊する船から見える景色は、どこまでも青い水平線だ。

「何を読んでいるんだ?ウタ」

声の方向に振り向けば、父であり元船長であり、今の師匠であるシャンクスがいた。

「シャンクス…これ」

つい先程まで読んでいた新聞を渡す。つい先程届けられたばかりの新刊だ。

「…?ソウルキング、ライブ開催のお知らせ…?」

「うん。それ、私の仲間なんだ。」

「へぇ、ルフィの…!こいつがあいつの音楽家か?」

「うん。なんでか凄くヒットしてるけど…元気そうで良かった。」


ニ年間の修行において、自分達の無事を知らせる手段は少ない。

私はゴードンやシャンクスの協力を経てなんとか世界に発信できたが、皆そう上手くは行かないだろう。

だがブルックはその身一つで新聞にまでなってみせたのだ。

「…もう一年半か…あと半年だな」

「うん…」

ブルックだけじゃない。ルフィもみんなも、きっと新世界の旅のために頑張っている。

「お前も見違えるように強くなってるじゃないか。大分覇気が洗練されてきた」

シャンクスがそう言ってくれる。

前までほぼ付け焼き刃だった覇気はかなりものになってきた。

今なら例え自然系の相手でもいい勝負が出来るはずだという自負もある。

たが、

「うん…でも、まだ足りない。」

「昼にベックに相談していたあれか?」

「うん…」


もっと覇気も磨きたいところだが、ある程度は実践あるのみだろう。

となれば、次に私が考えないといけないのはもう一つの力…悪魔の実の力だ。

ウタウタの力をウタワールドだけじゃなく…現実に持ってくる。

夢の中でのみの万能の力を、更に己の力にするのが今の目標だ。


「少しはできるようになったけど、まだあんまり上手くいかなくてね…」

「何しろ俺達にとっても悪魔の力は未知数だ。それに関してはお前自身がどれだけ磨けるかだな。」

「うん、分かってる。」


ゆっくりはしていられない。時間はあと半年だ。

その間になんとしても、感覚を掴まなければならない。

今はひたすら、足りないものを考えなければならなかった。


「…そんなときに新聞見ちゃって…少し思い出したことがあるんだ。」

「思い出したこと?」

「…実はね、一年前のほんの少しの付き合いだったけど、新聞のそいつ…ブルックと話してたときにね」

〜〜

懐かしい記憶だった。

霧の海を越えた仲間たちとの宴のとき、ゆっくりブルックと話す機会があった。

『いや〜、実にあなたの歌は素晴らしいですねウタさん!我々ルンバー海賊団にも、そこまで歌が凄い人はいませんでしたよ!』

『そう…?でも、ブルックの演奏も凄いじゃない。腕もそうだけどこう…なんだろ?広々〜としてる…のかな?』

正直言って、私はブルックの音楽に尊敬を持っていた。嫉妬すらあったかもしれない。

歌なら負ける気はないが、あらゆる楽器を使いこなす腕と、音楽性の広さは私が…劣っていた。

『…ヨホホ。ウタさん。あなたの能力は、歌を聞いた相手を自分の世界に入れるものだと聞きました。』

『うん。私のウタワールドに入れる。あの世界なら、私の自由だからね!…疲れるけど』

なるほどと、ブルックが手に持ったお茶を飲んで一息つく。

『…少し失礼な話になるかもしれませんが、もしかしたらあなたの能力のあり方と歌がリンクしているのかもしれません。』

『…?どういうこと?』


『私達ルンバー海賊団にとって、音楽とは内に持ち、閉じ込めるものではなく、己の感情を体の外に思いきり解放するものでした。』

『………!』

『どちらが正しいなどという答えはないでしょうが、音楽性に違いのある私達なら、きっとお互い良い刺激になりうるでしょう…まァ、私閉じ込める肉体ないんですけど。ヨホホホホ!』

なぜだか、その言葉がすっと腑に落ちた気がした。

自分とブルックの何が違うのかも。

スリラーバークで彼の話を聞いたときから感じていたことだった。

彼の価値観と私の価値観は、音楽だけじゃない。恐らくもっと大きな何かから分かれているのだろう。

『そっか……ありがとう!やってみる!』 

『えェ、力になれたならなによりです。ところでパンt

『やめんかァ!』

『くたばれこの変態骸骨ゥ!!!』

離れたところで話を聞いていたナミとサンジのキックが炸裂した。

『昼寝してたのにうるせぇぞエロコック!』

『うわァナミが怒ったァ!』

『なんだどうした!?』

『またスーパー賑やかになったなァ!』

『手厳シー!ヨホホホホホホ!』

あっという間に場が騒然とする。この船はいつもこれが日常だ。

それを見守りながら、船長のルフィが笑っている。

『シシシ!やっぱおもしれーなブルック!』

『ハァ…』

『そういやウタ、ブルックと何の話してたんだ?』

『……フフ、ナイショ。』

〜〜

「………」

「…………ウタ。」

「………駄目だね、なんだか懐かしくなっちゃった…」

いつの間にか流れていたものを拭き取る。

共にいた時間はシャンクス達より短いのに、いつの間にか心の中はみんなとの思い出で埋まっていた。

「…ルフィは、本当にいい仲間を持ったな…」

「うん…だからこそ」


『全員、逃げることだけ考えろ!!いまのおれたちじゃ…』

『こいつらには勝てねェ!!!』



今でも思い出せる。圧倒的な力の前に、なすすべもなく散らされたあの屈辱の日を。

「…もう、二度と負けない。誰にも負けない最強の歌姫になって今度こそ…私達の冒険を止めさせはしない。」

今度こそ仲間を守る。敵からも、魔王からも。そのためのニ年なのだ。

「…そうか。それじゃ、早めに休んでおけ。明日もまた修行だぞ。」

「…ありがとうシャンクス。…本当に。」

シャンクス達からすれば、ある意味裏切り者でもある自分にここまでしてくれて本当に頭が上がらない。

「…いつか敵として会うとしても、俺たちの娘の願いだ。気にするな。」

「…うん。……あ。」

「うん?どうした…?」

「ちょっと待ってて!…あった!」

そう言って、横にあったバッグからいつものセットを取り出す。

「紙とペン…新曲か?」

「思いついたの。…もしかしたらこの曲なら、ウタワールドの力を引き出すきっかけになるかもしれない。」

頭の中に突発的に旋律が思い浮かぶことがある。そんなときはいつもすぐに書き留めることを忘れない。

確信している。今回も最高の神曲が浮かんできた。

「ほォ…それは楽しみだな。」

「ちょっと待ってて…ブルックが成功してるんだもの。私だって歌姫として負けてられない…!」



「…出来た…」

やはり最高の曲ができた。新世界で戦い抜くための鼓舞の歌。

「…ほう…いいタイトルだな。」

「うん…シャンクス。皆のこと、集めてくれない?」

「なんだ?俺達に聞かせてもいいのか?」

「修行のお礼と…それに」

書き上げたそのタイトルを、目の前のシャンクスに見せつける。

「…なるほど、挑戦状か。」

「うん!」

これが私の決意表明だ。そう言わんばかりに返事をする。

「分かった…野郎ども!ウタが一曲披露してくれるってことだ!寝てるやつ叩き起こせ!」

「ウタが!?」「よし分かった!」「起きろロックスター!」「いてっ!?」

「…元赤髪海賊団音楽家、ウタ!歌います!」

『おおおおおおおお!』


ねぇルフィ。ルフィは今どうしてる?

誰に修行をつけてもらってる?きっと、前よりよっぽど強くなれてるんだろうな。


私はまだまだだ。

覇気はだいぶマシになったけど、ウタウタの力も引き出し切れてない。

きっとまだ魔王の制御も簡単に進まない。

…何より、目の前の父達の背中がずっと遠い。


だから待ってて欲しい。

半年後、きっと強くなってサニー号に帰る。

…魔王にも負けない「最強」の歌姫になって。


『さぁ怖くはない不安はない

私の夢はみんなの願い

歌唄えばココロ晴れる

大丈夫よ…』


〜一年後 魚人島 ギョンコルド広場〜

「まさかルフィに5万人も取られるなんて…」

「ニシシ!どーだ!」

せっかくの活躍の機会を大幅に削られてしまった。

まさかここまで遠慮なく覇王色を使われてしまうとは。

「…まだ私だって負けてないんだから!」

そそう言ってルフィの前に出る。次の活躍は先陣をきってみせたい。

「クソッ…まだ5万いる!進めお前らァ!」

『ウオオオオオオオオ!!』

敵の親玉…ホーディの合図で、他の敵たちも進んでくる。

「そういやウタ、お前シャンクスのとこで修行してたんだろ?」

「うん、赤髪海賊団改め麦わらの一味「歌姫」の私の新しい力、早速見せてあげるよ!」

「おお、久しぶりにウタの歌聞けるのか!」

「待ってましたァ!」

「よし、見てなさい!これがウタウタの新しい力…私の新時代!」

腹に力を込める。

身体のそこから力を湧き上がらせる。

これが麦わらの一味としての初陣…そして、新世界前の最後のリハーサルだ。



『さぁ握る手と手ヒカリの方へ

みんなの夢は私の願い

きっとどこにもないアナタしか持ってない

その弱さが照らすの』


『最愛の日々忘れぬ誓い

いつかの夢が私の心臓

何度でも何度でも言うわ』


『私は最強』



『アナタと最強』

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