私の好きなモノ
「おはようございます、先生!」
シャーレのオフィスに元気な声が響いた。
視線を向けると、トリニティの生徒。
阿慈谷ヒフミの姿があった。
「あなたは・・・ヒフミさんでしたか。今日の当番ですかね?」
「あっ!?アレスさん、おはようございます!・・・そうなんですが、先生はどちらに?」
「先生なら、先程生徒さんからの連絡で飛び出して行きましたよ?・・・全く、仕事が残っていると言うのに」
「あはは・・・まぁ、それが先生の良いところでもあるんですけどね」
「まぁ、すぐに戻って来るでしょう。さ、仕事を始めましょう」
「は、はい!よろしくお願いします!」
「ヒフミさん、どうぞ。・・・紅茶の方が良かったですかね?」
「い、いえ!そんな!いただきます!」
しばらくたって、休憩の為に席を立ち。
コーヒーを2つ作りヒフミさんに手渡した。
コーヒーを啜り、ほっと息をはくと視線を感じた。ヒフミさんがチラチラと私の方を見ていた。
「・・・えっと、何か?」
「あっ!・・・えっと、その・・・アレスさん!聞きたいことがあるのですが!!」
「・・・な、なんでしょう?」
ずいっと距離を詰められて、思わず仰け反る。
そんな私の顔に、珍妙な顔をしたアヒル?のような生き物のぬいぐるみを差し出してきた。
「『モモフレンズ』に!『ペロロ様』に興味はありますか!?」
「・・・はい?」
「ふふっ、まさか限定グッズを買うためだけにあのブラックマーケットにまで行くとは・・・。それほどこの『ペロロ様』というのが好きなのですね?」
「はい!アズサちゃんはこちらの『スカルマン』さんが好きなんですよ!」
「・・・へぇ、なるほど」
渡された、ドクロのぬいぐるみをムニムニと触りながら笑みを浮かべる。
(コレを使えば少しは楽しめますかね?)
サオリから聞いた話だと、アズサはこのぬいぐるみの中に『ヘイロー破壊爆弾』を詰めてブービートラップを仕掛けて来たらしい。
(それと同じことを彼女にやってみたら面白いことになるかもしれませんね・・・)
「はっ!?わ、私ったらつい喋り過ぎてしまいました!!・・・すみません、アレスさん」
「いえいえ、とても楽しかったですよ?ヒフミさん」
私がそういうと、ヒフミさんは少し悩んだ後、意を決した様に口を開いた。
「・・・アレスさん。あなたの好きな物はなんですか?もしよければ教えて欲しいです」
「・・・私の好きな物、ですか」
「・・・銃を撃った時の反動が好きです」
「血が出るまで相手を撃ちまくるのが好きです。強い人と戦うのが好きです、色んな人と戦うのが好きです、沢山の人と戦うのが好きです、誰かが傷ついて、苦しんでいるのを見るのが好きです!
ナイフで相手を刺した時は、思わず我を忘れる程に興奮してしまいました!!!!!
私は、戦争が好きです!電撃戦が好きです、殲滅戦が好きです、打撃戦が好きです、防衛戦が好きです、包囲戦が好きです、 突破戦が好きです、 退却戦が好きです、掃討戦が好きです、 撤退戦が好きです!!!!!!!」
「この、キヴォトスで行われるありとあらゆる戦闘行動が大好きですッ!!!!!!!!!」
シャーレのオフィスは沈黙に包まれている。
ゆっくりと、ヒフミさんの顔を見る。
先程まで浮かべていた笑みは消え失せ、
その表情を凍りつかせていた。
「・・・あなたの好きな物はなんですか?『ペロロ様』以外に」
私の問いに、ヒフミさんはゆっくりと口を開き答える。
「わ、私は・・・私は、誰かが傷つくの嫌です、争うのも、戦うのも、誰かが苦しんだり、悲しんだりするのも嫌です。
私は、皆が仲良く笑って幸せに暮らせる。
平和な世界が・・・好きです」
「・・・そうですか」
彼女の発言に、私は静かに頷くと手にしたぬいぐるみをヒフミさんの方に放り投げた。
「・・・それ、お返しします。私は好きじゃありませんので」
そう言い放ち、シャーレのオフィスを出ていった。