私の、大切な物語
~私の、大切な物語・上~
「ねえ、先生」
“どうしたの、部長?”
「ふふっ、呼んでみただけです」
「と、いうのはもちろん冗談で……少し、先生がこのMTR部に来てからのことを思い出していまして。
思えば……先生と出会ってから今まで、色々な出来事がありましたね。最初に先生からいきなり廃部勧告を受けた時は、どうしようかと焦ったものですが……」
“あはは……あの時は、本当にごめんね”
「……本当はあの時、私も少しだけ迷っていたんです。
あらゆる勢力から白眼視され、危うさを抱えたまま規模だけを増していくMTR部を、このまま存続させていくべきなのか。
もしも先生にすら私達のことを受け入れて貰えなかった時は……本当に『終わり』を迎えても仕方ないのかもしれない、と」
“……そうだね。あの頃の君達はとても危なっかしくて、放っておけない集まりに見えた”
“でも今は、あの時MTR部を廃部にしなくてよかったって思う”
「それでも……今もなお、先生は私達のMTRを受け入れては下さらないのですね」
“……うん。それはきっと、この先も変わらない。君達が、自分の理想のMTRを諦めないのと同じように”
“だから、MTR部はこれからも、MTR部のまま続いていってほしい”
“私が君達と向き合うように……君達も、私と向き合い続けてほしい”
“たとえ考え方は違っていても、同じ『命』を看ているのは一緒だから”
“勝ち負けとか、どっちが正しいとかじゃなくて”
“お互いに違う視点から話し合って、一人一人違う悩みを抱えた、生徒たちの人生と向き合って”
“みんなで一緒に、より良い未来を見つけていきたいから”
~私の、大切な物語・中~
「……ふふっ。文字通りの平行線、というわけですね。
決して交わらず、距離を置くこともなく、どこまでも互いに寄り添い続ける、好敵手、あるいは恋人のような関係。
でも……そういう関係性も、先生となら悪くないって思えてしまいますね」
“うん。私も、MTR部のみんなとなら、ずっと歩いて行けるって思うよ”
「でしたら先生……一つ、私と約束していただけますか」
“約束?”
「ええ。とはいっても、先生の答えは聞くまでも無いのでしょうけど。
ひょっとしたら既に、同じような約束を他の方々とも交わされているかもしれませんから。
それでも……改めて、MTR部の代表である私の口から、先生に訊いておきたいのです」
「……これから先もきっと、私達と先生の物語は続いていくのでしょう。
もしもこの先、私達の道が違えたとしても。
あるいは私達の誰かが、先生より先にゴールを迎えてしまったとしても」
“………………”
「それでも先生は……私の、私達の物語を。
私達と先生の、大切な思い出……過ごしてきたその、すべての日々を。
どうか、ずっと……いつまでも、忘れないでいてくれますか?」
“……うん。私は絶対に、忘れないよ”
“この先、何があっても。たとえ私が、このキヴォトスを離れる日が来たとしても”
“私の──”
“私の大切な生徒達との、青春の物語を”
~私の、大切な物語・下~
「……ああ。そういえば。
私自身が望むMTRについてはまだ、先生には一度もお話ししたことがありませんでしたね」
“部長の望むMTR? 確かに聞いたことなかったかも”
「私のMTRは……このMTR部そのものを看取り、MTR部そのものに看取られること。
夢を叶えて先に逝った部員達に囲まれながら、彼女達に看取られて生涯を終えること。
ですから、私の望みが果たされるのは……このMTR部にいる全ての部員達が、その夢を叶えた後、ということになりますね」
“それは、部長としての責任だから?”
「いいえ。これは責任じゃなくて……ただの夢、です」
“……そっか”
“それが、部長の心からの願いなら……私もその夢を応援しなきゃね”
「……!」
“生徒達の夢を実現できるよう助けるのが、先生の……ううん。私自身の夢であり、願いだから”
「それはつまり……ようやく先生が、私の最期を看取って頂ける気になった、ということですね!!」
“いや、それはちょっと……”
「……先生のバカ! こんな部もう廃部です! 帰る!」
“そんなー”
「……なーんて、ふふっ。もちろん冗談ですよ。
これからも、MTR部は終わりになんてさせません。まだまだ続けていきますとも。
私達はいつだって、ずっと先生のすぐ傍で……あなたのことを看ていますから」
「だから、先生もずっと……死が二人を分かつまで。
──私達のことを、ちゃんと看ていてくださいね」
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スレも終わりが見えてきたので、自分なりの先生と部長のお話の区切りとして投稿。
2スレ目終わりごろの二人のやりとりを踏まえてるので、結構あちらと対比させてたり。
これで自分で出した設定はあらかた収拾つけられたと思うので、とりあえず後悔は無いかなと。
最初のスレが立ってから気付けば二か月……まさかここまでMTR部にハマってしまうとは自分でもびっくりでした。
今回は「おしまい」とは言いません。
先生とMTR部、そしてキヴォトスのみんなの物語はこれからも続きます。
続くったら続いていくのですから。
もう二度と会うことは無いかもしれないけれど。
どうか、幸せに。
これから先も、彼女達が悔いなき人生を歩めますように。