私の、もうひとつの家族

私の、もうひとつの家族


「これをこうして……うん、出来た!」


──フーシャ村のとある崖の上。私はそこで、"あるもの"を作成していた。

そして、その"あるもの"を作成し終えた私は、酒場の準備を進めていたマキノの下へと向かう。


「マキノーー!」

「あら、ウタちゃん。どうしたの?この時間は大体、コルボ山の方で歌と棒術の特訓をしてる筈だけど…」


そう言って酒場の扉を勢いよく開くと、そこにはいつも通りカウンターで頭にバンダナを巻いてグラスを拭いているマキノの姿があり、笑みを浮かべる彼女の下へと足を進める。


「へへーん。実はマキノにあげたいものがあって!」

「私に?へぇ、なにかしら」


首を傾げるマキノに私は、後ろに隠していたものを前へ突き出す。

突き出した手の中には、白とピンクの貝殻と、彼女の髪と同じ色である緑のシーグラスで作られたブレスレットがあり、それを見たマキノは思わず「わぁ…!」と驚いた顔を見せながら受け取った。


「これって手作りのブレスレット?ふふっ、すごく綺麗ねウタちゃん」

「でしょでしょ!海岸で綺麗な貝殻を探すの苦労したんだから!」

「……でも、どうしてこれを?」


マキノは気に入った様子でブレスレットを眺めるが、何故急にこれをプレゼントしたのかと問う。


「ホラ。私明日になったら、ルフィと此処を出て海に出るでしょ?」

「っ!」

「だからさ、マキノには今日まで居候をさせて貰ったお礼がしたかったんだよね」

「・・・」


──私は明日、もう一つの故郷とも言えるフーシャ村を出て、ルフィと海に出る。

だから、出航の準備とかでバタバタする前に言っておかないと、こうしてゆっくりとお礼も言えないもんね。


「……私、マキノの家で家事の手伝いをしたり、ご飯を食べたり、たまに一緒にお風呂に入ったりして、すごく楽しかった。

それで、なんていうのかな…私はマキノの一緒に暮らしてからずっと、マキノの事『お姉ちゃん』みたいだって思ってる。

──だから、私を家に居させてくれてありがとう『お姉ちゃん』!」

「…ッ!」


そういうとマキノは涙を浮かべた笑みで、私を強く、そして優しく抱きしめてくれた。

…うん。温かくて、お花とお酒の匂いがする、いい香りだ。


「……ウタちゃん。船長さんに、会えるといいね」

「うん。私、頑張るからね」




さて次は、コルボ山の山中。

私が向かったのは、コルボ山に棲みつく山賊達の住処だった。


「やっほーダダン!」

「ん?……あぁ、なんだウタか。何だい急に、明日の準備はしなくていいのか?」


そう叫んで戸を開けると、そこには山賊ダダン一家の棟梁である女山賊、カーリー・ダダンがひとり酒瓶片手に煙草をふかしていた。他の人達は出かけてるのだろうかと思ったが、一番用があるのはダダンなのでまぁいいかと切り替える。


「うーん、明日の準備は明日やるつもりだけど。それはそれとして、ダダンにあげたいものがあって!」

「……なんだいアタシにあげたいものってのは。金か?宝石か?」

「残念ながらどっちでもないけど……はいコレ!」


そう言って私は、マキノに渡したブレスレットとは別に作ったもの──ダダン一家の姿が描かれた絵を手渡す。

その絵の中心にはダダンは描かれており、それを見た彼女は言葉を失ったのかぽかーんと口を開けていた。


「……ケッ、只の絵かい。つまんないもん渡しやがって」

「え~?そこまで言わなくてもよくない~~?せっかくダダン達の為に描いたのにさ~~~!」

「…………大体!なんで絵なんだい!こんなの貰ったってねぇ、アタシらは別に──」

「……赤髪海賊団には『お父さん』が居たけど、『お母さん』は居なかった」


動揺しながらも言葉を返すダダンに、私はそう語り続ける。


「だけど時々此処に来るようになって、世話を焼いてもらったり、やんちゃして怪我したときは怒りながら手当をしてくれたり……私にお母さんがいたら、こんな感じなのかなーって、いつも思ってた」

「・・・」

「…だからダダン──いや、『お母さん』。

私を育ててくれて、ありがとう!」


そう笑いながらお礼を言うと、ダダンは私に背を向けて震え出した。

まるで、何かを堪えているような感じで。


「ん?どうしたのダダン?……もしかして泣いて──」

「んなわけないだろバカヤロー‼‼さっさと帰れチクショー!!」


私は心配そうな顔でダダンの顔を覗き込もうとしたが、その前に怒鳴られてしまったので逃げる様に退散した。

…まったくもう。乱暴な言葉使ってたけど、実はすごく泣いてたのバレバレだよ?それも、絵に涙が掛からない様に離した状態で。




その日の夜。マキノの家にある私の部屋で映像電伝虫を使い、彼に連絡を繋げる。


「……ごめんねゴードン。こんな遅くに連絡してきて」

『──いや、私もちょうど君と話をしたいと思ってた所だったんだ。明日の出航についてね』

「奇遇だね。私もそのことについて話がしたかったんだ」


映像電伝虫が映し出した映像には、10年に滅んでしまったエレジアの国王、ゴードンの姿が映る。

あの時の縁で歌のレッスンを受けて貰う事になった私は、彼から受け取ったこの映像電伝虫を通じて、この年まで訓練を受け続けていた。

そしてこの映像電伝虫を使うのも、恐らく今日と明日の出航前が最後になる。

ゴードンはあの日滅んでしまったエレジアとその地に住む国民を弔う為、そして復興を進めるためにあそこに残っている。それでもし海賊になった私と繋がっている事が海軍などに知られてしまえば、彼の願いであるエレジアの復権は遠のいてしまう。

だからゴードンの為にも映像電伝虫は、この部屋に置いていく事にした。

──あの時シャンクス達が私を置いて行った時も、こんな気持ちだったのかな。


『………遂に行くのだね、ルフィ君と』

「うん。ルフィと一緒に色んな所に旅して、一緒に強くなって、シャンクスに会いに行く。あの日から、ずっと決めてたことだから」

『…そう、か。君が選んだ道だ。私に止める資格はない。

だがウタ……ひとつだけ、私と約束して欲しい事がある』

「うん、なに?」


いつもよりも真剣な表情でそう話すゴードンに、私は思わずかしこまった表情を浮かべる。


『────どうか、これからも元気な姿で航海して欲しい。

今の私が言えるのは、これだけだ』


…うん。やっぱりゴードンは、良い人だな。見ず知らずの娘の為に、此処まで心配してくれるんだから。


「ねぇゴードン。私今日、新しい曲を作ったんだ。

私とルフィのこれからの旅を象徴する、私達の『新時代』の曲を…」

『っ!……いいのかね。私なんかが、君たちの歌を聴いてしまって……』

「違うよゴードン。貴方だからこそ聞いてほしいの。

この歌は、今日まで私を見守ってくれたゴードンへのお礼の歌でもあるから」


そのまま戸惑いの顔を浮かべるゴードンへ、私をずっと見守ってくれた『もうひとりのお父さん』へ、新しい時代を象徴するこの曲を捧げた。


──新時代はこの未来だ~~♪♫

──世界中全部変えてしまえば 変えてしまえば~~♬


…ありがとね、ゴードン。私なんかの為に、歌の稽古を付けて貰って。

ゴードンが居てくれたから、此処まで歌が上手く歌えるようになった。

だから私は歌姫として、ゴードンの一番弟子として、歌でお礼を奏でる。


『──ウタ。君は本当に、大きくなった』


それがゴードンにとって、一番の恩返しになると知っているから。


『・・・シャンクス。君の娘はきっと、立派な歌姫になる。必ずね』

『・・・ルフィ君。どうかウタを、よろしく頼む』

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