神木家とケーキ2
『…で、アドリブかました訳ですよ。鴨志田さんがたまげた顔してたけど即合わして来て!あの人、やっぱり凄いですね…アイさん口説いてたけど』
「私口説いて来て、ヒカルに舐めた口聞いたのはダメだよねー
曲がりなりにも先輩なのに、ねぇ?」
「僕は気にしてないよ。この世界は実力で黙らせてナンボだし。素直に技量の開きを見て謝罪して来たから良いじゃないか」
大輝を交えて今日の話をTV電話しながら共有する。
アクアは今日のTV収録で芸人のギャグを真面目に受け止めて解説してしまった(面白いからokになったそうだ)
という失敗談やアイが見込みのある後輩の女優の話、ルビーが学校で音楽の歌唱試験で失敗して友達に慰められた話…とわいわい言いながら約束の時間が来てしまった。
『…と時間みたいだ。迎えが来てしまった。父さん、アイさん、アクア、ルビー。悪いけど俺は離脱する。お土産、期待しててくれ。』
「ごめん大輝、みんな。みんながいる時だしちょっと聞きたいことあるんだけど…良いかい?すぐ終わるから」
電話を切ろうとする大輝を止めて、みんなに確認する。
『どうした?父さん。マジで早めに済ましてくれ。人待たしてるから』
「そうだよパパ。大輝さん忙しいんだから」
「父さん?」「ヒカル?」
…少し勇気がいるな。頑張れ、僕。
「いや、ケーキ屋さんで改めて色々なケーキがあるのを知ってね。僕達、基本行事ごとはイチゴのショートケーキをホールで買って…それだけしか買ったことないけど良いのかな、て。
みんな、他のケーキとか食べたくない?僕の考えばかり押し付けてないか、て思ってね」
後ろめたさと後悔が口を借りて言葉となって出てくる。
みんな、どうだろうか?本当は嫌だったりは…
『なんだそんな事か。父さん、ウチの伝統なんだろ?他のケーキ食べたい時は俺が別に買うから良いよ。じゃ、帰って来たら俺用のクリスマスプレゼント置いといてくれよ』
大輝は軽くそう言うと通話を切って退出した。
「ヒカル、確かに私達の夢の話だけど嫌じゃないよ。
だって美味しいし、家族4人、最近5人になってみんなで囲んで楽しい時間を提供してくれる魔法のケーキが私達のイチゴのショートケーキじゃない。私達のクリスマスはコレで良いんだよ。まあ、追加で違うケーキを買うかもだけど」
アイはケラケラとにこやかに笑う。
「私はむしろ特別な日にイチゴのショートケーキじゃないと嫌だなぁ〜だって私達の誕生日やクリスマス、何か褒めてくれた時のご褒美もこのケーキだし。ママが言ったようにウチの象徴じゃん」
ルビーもニコニコした顔でアイの意見を肯定する。
「…俺も同意見。何故かコレ食ってる時が平和と幸せを感じる。違うケーキ食べたい時は追加で買えば良いし。それに幸せを呼ぶケーキ、だろ?我が家だと」
アクアもさも当然、という様な形で2人の意見に追随する。
…良いのだろうか?
「良いのかい?本当に…」
アクアは溜息をつき、ルビーは笑顔、アイは優しく微笑んでこちらを見る。
「父さんこそむしろ気にしすぎ。さ、早くケーキ食べよう?いつも通りこの綺麗なマジパンとチョコ板をどうするか…そこが問題だ。…今回はくっついてないから切り分けられるぞ!ルビー!」
「やったね!毎回切り刻むの嫌だったんだよねー…あ、大輝さんの分どうしよう?
取り分けても傷んじゃうよね?」
「大輝くんの分はマジパンだけ取って置こうよ。後はあの子が帰ってくる日に追加のケーキ買って乗せてあげたらよくない?
…ヒカル、大丈夫。泣かないで?さ、食べよ?」
どうやら僕は家族の言葉と風景を見て涙を流していた様だ。
ーーー「幸せを呼ぶイチゴのショートケーキ」か。可愛らしくて尚且つ夢があるな!ヒカルとアイと子ども達がケーキを囲む風景かぁ…想像するだけでも幸せを感じる。
いつか僕を呼んでくれよ?ーーー
かつて約束した日のことを思い出す。先生の笑顔とケーキのことを。
(ええ、先生。憧れたイチゴのショートケーキは僕を…僕達家族を幸せにしてくれました。だから、先生。貴方を待っています)
「…っとごめんごめん!歳のせいかすぐ泣いてしまう。昔の有馬さんに勝てそうだ!
じゃあ、みんな自分のケーキを取ったかい?じゃあ、いただきます」
「「「いただきます!!」」」