神への叛逆
ルフィはこの光景を生涯忘れないだろう。
そして自分の迂闊さを一生恨むことになる。
遠くで起きていた諍いを収め、大切な家族に元へと走って戻っていった。
しかし、そこにいたのはいつも明るい笑顔を浮かべている最愛の家族・・・ではなく、錠をかけられ、倒れ伏す自分の妻とその妻に震えて縋りつき、男・・・天竜人の暴行から自分の母を守ろうとしている娘の姿だった。
周囲には跪き、その行動から目を逸らしている民衆の姿があったがルフィの目には入ってこなかった。
二人の姿が目に入った瞬間、目の前が真っ赤に染まった。
ルフィの姿を目にした天竜人が何かを喚いているがそんなものは無視して自分の家族に近づく。
「あ・・・・・・るふぃ・・・」
「おと、うさん・・・」
血が流れるほどの強さで手を握り締める。
自らの愚かさと天竜人の怒りで頭がどうにかなりそうだったが、それを必死に抑える。
今は二人を安心させようと笑顔を浮かべようと努力する。
「・・・ごめんな、もう大丈夫だぞ!大丈夫、だ・・・」
顔が引き攣る。目の前の二人の姿を見て笑顔なんて作れるはずがなかった。
傷に触れないように二人の髪に触れる。
触れられたミライは安心したような表情をして意識を失った。
それを支えるように、守るようにウタが抱きしめる。
ウタの目から一筋の涙が溢れた。
それを見た瞬間、ついにルフィの中で何かがキレた。
「・・・っ!だめ・・・それはだめ・・・!そんなことしたらるふぃが・・・!」
そんなルフィを見たウタが必死に止めようとしている。
ルフィがこれからやることを察してどうにかして止めようと試みるがもう止まらない。止まれない。
「なんでおれは二人のそばを離れた・・・!」
「なんでおれはあんな奴らのとこに行った・・・!」
「なんでおれは・・・・・・迷ってたんだ・・・!」
あの日何があろうと二人を守ると誓った。
それなのに二人を置いていきこんなことになってしまった。
こんなことがあったのにこの行動を取ることを躊躇していた。
ルフィは一生自分を許さないだろう。何があろうとこの罪は消えないだろう。
ウタに背を向け、先ほどから騒いでいるこの世界の神を睨みつける。
ゆっくりと歩む。ウタが必死に叫んでいる。
さらに歩を進める。銃で撃たれるがゴムだから効かずに弾き返される。
腕に覇気を纏う。ここでようやく周りに民衆がいることに気づく。
これをしたらもう後には引けない。
だがこれをしなかったらあの二人はこの世界からいなくなってしまう。
あの二人がいないこの世界に今の自分は生きる気はない。
ならば心は決まった。
「□□□□□□□!!□□□□□□□□□□□□□!!
男が何を言っているのかわからなかった。
腕が黒く染まり、さらに黒い雷を纏う。
「□□□□□□□□!!」
「・・・・・・・・・うおおおおおおおおお!!!!!!」
「□□□□□!!!!」
触れることなく殴り飛ばし、この世界の神が凄まじい勢いで飛んでいく。
樹にぶつかっても止まることはなく、何本もの樹を貫通してようやくその勢いは止まった。
そんなものに目を向けることはなく、ルフィは大切な二人の元へ走る。
「・・・・・・ごめん・・・ごめんね・・・わたしが・・・・・・わたしの、せいで・・・・・・!」
「謝んな・・・おれのせいでこんなことになっちまってごめんな・・・」
「・・・ちが、う・・・ちがうぅ・・・ごめん・・・・・・助けてくれて・・・ありがとう・・・!」
泣きじゃくるウタを傷に触れないように抱きしめる。
胸の中で泣きじゃくるウタが随分と小さく見える。
「いいんだ・・・逃げよう、ウタ、ミライ」
少年は神に叛逆しこの世界から逃げ出した。
これから先に待つのは地獄。
敵は海賊だけでなく海軍、世界政府、民衆・・・この世界の全てだ。
だがたとえそうだったとしても少年は戦い続ける。
何が敵に回ろうともこの二人を守ると・・・そう誓ったのだから。