祖父との遭遇

祖父との遭遇

第三帝国


「久しぶりじゃのう」

「げぇ、糞ジジイ!!」


何時ものようにウタを連れてマキノの店に入った時。

ルフィにとって唯一顔を知る肉親、祖父であるガープがいた。

もっともルフィの表情は実に”イヤそう!”であった。


「げぇ、とはなんじゃ、げえ、とは!

 ・・・まあ、海軍を辞めた直後よりは顔色は良くなったようじゃな」


「・・・言っておくが、ジジイ。おれは海軍に戻る気はないからな!」


「・・・・・・安心せい、その気はない。

 わしはお前さんを無理やり海軍へ連れてゆく気はない」


「ん、んん???」


まさかに回答にルフィの思考が停止する。

あの、祖父が!あの海軍馬鹿の祖父がである!


「もしかして、目の前の爺ちゃんは偽物

『馬鹿者!!』ぐぉおぉおおおお!!?やっぱ本物だぁ!?」


ルフィの頭上に下された鉄拳。

その痛みは紛れもなく本物であった。


「ねえ、ルフィ。だ、大丈夫?」

「ん、ああ。大丈夫だよウタ。これくらい慣れているし・・・」

「ん?なんじゃこの紅白髪の小娘は?見たことがない顔じゃが?」


ルフィに駆け寄るウタ。

記憶にない少女の登場にガープは首を捻る。


「ああ、爺ちゃん紹介するよ。

 こいつはウタ、シャンクスの娘で今はおれの家に住んでいるんだ」


「ほーん、赤髪の娘か、あ奴に子供がおったとは。

 あ、マキノちゃん、わしゃカレーを・・・・・・って、な、なにーーーーー!!!」


驚愕の響きが店を貫通して村の隅々まで響き渡った。


「あれ?ガープさんは海軍さんだから既に知っていたと思ってましたけど・・・?」


「いやいや、マキノちゃん!!わしゃ、初耳じゃ!!

 そもそも、なんでこの東の海の辺境に赤髪の関係者がおるんじゃ!!?」


「え、だってシャンクスさんが率いる赤髪海賊団の方々が、

 フ―シャ村を拠点にあちこち航海に出てましたよ、たしか一年ぐらい?」


「い、一年・・・」


自分の故郷で海賊が一年も滞在。

それも宿敵ロジャーの系統を受け継ぐ大海賊赤髪のシャンクスがである。

豪胆、大胆、無敵の三拍子が揃うガープといえども流石にいろんな意味で絶句した。


「あ、心配しなくても大丈夫ですよ!

 皆さんお金の支払いはキッチリしていましたし、

 何よりもルフィとシャンクスさんは顔見知りでしたから♪」


「いや、その、マキノちゃん・・・そういう問題じゃなくて」


出来れば海軍に通報して欲しかったんじゃが・・・とガープは呟く。


「ふふふ、それでねガープさん。

 シャンクスさんの娘さんであるウタちゃんがどうしてここにいるか分かりますか?

 なんとルフィに一目惚れしたからなんですよ!お父さんの船から降りてまで!!

 知ってますか?ウタちゃんの歌声って凄いんですよ!それだけでも凄いのに、

 ”大好きなルフィと一緒にいたい”という理由で自分から船を降りたんですよ!もう、大胆ですよね!ねね!!」


「まてまてまて、ちょっと待ってくれないか、マキノちゃん・・・。

 えっ?・・・船から降りた???しかも、わしの孫に一目惚れ???」


マキノのマシンガントークにガープが押される。

情報が多すぎる上に斜め上な事情に理解が追い付かないようだ。


「えっと・・・ウタちゃん、だったかのぉ?」


もう一度”シャンクスの娘”を一目見る。

どう見ても10歳程度の少女である。


「はい、元赤髪海賊団の音楽家でシャンクスの娘、ウタです!!」

「歳は幾つかのう?」

「9歳です、えへん!」

「そ、そうか・・・」


どや顔で胸を張るウタ。

10歳どころかそれ以下の年齢にガープといえど反応に困る。


「その、ウタちゃんは寂しくないのかい?お父ちゃんの船から降りて?」

「寂しいけど、将来旦那様になってくれるルフィがいるから大丈夫だもん!」


紫色の小さな瞳がガープを迷いなく射貫く。


「・・・わしゃあ、ルフィのお爺ちゃんじゃが、

 ウタちゃんはルフィのどこに惚れたか教えてくれんか?」


「うん、言う言う!!初めはルフィが山賊から私を助けてくれたからだけど、

 ルフィといるだけで胸がポカポカして幸せな気持ちになるし、ルフィの顔を見るだけでもとっても嬉しくなるんだ!

 ベックに・・・副船長に相談したら”それは恋だな、さっさと結婚しちまえ”って言ってくれたんだ、えへへ」


「あー、ウタ、その、その辺で・・・」


「それとね、おじいゃん!将来はあたしもシャンクスみたいな海賊になるんだ!

 世界中にあたしの歌を届けながら、あたしが船長でルフィは副船長で同じ船に乗るの!

 ルフィは海兵なんかよりも海賊としてすごい事をす・・・『あーウタ、その辺で』・・・もがもが!??」


恋する乙女・・・にしては年齢が幼いが、

マキノに続いてマシンガントークをしていたウタをルフィが止める。


「・・・というわけで、今はおれがウタの面倒を見てるんだ、じいちゃん」


「むがー!むがー!・・・ぷはぁ!

 面倒って、何よ!それにあたしは絶対ルフィのお嫁さんになるんだからね!」


「おれは結婚しねえ」


「ムキー!10年後は絶対ナイスバディな歌姫になってルフィをメロメロにしちゃうんだから!」


丁々発止のやりとり、周囲は慣れているのかニコニコと2人を見守っている。


「・・・・・・・・・」


だが、ガープは驚きで反応できなかった。

何せ孫が笑顔を浮かべるなんて、本当に久しく見なかったからだ。


最後に見た孫の顔と言えば信念が砕け散り、

失意と絶望、理不尽への諦め、そういった負の表情であった。


「ふふふ、ガープさん。

 ウタちゃんが来てからなんですよ。

 ルフィがあんな風に笑ってくれるようになったのは」


「そう、か・・・」


実の祖父ではなく海賊の娘が孫の心を救った。

複雑な気持ちを抱きつつも騒ぐ2人を静かに眺めた。




Report Page