破滅の歌も届かない

破滅の歌も届かない




「やっぱり今日も曇り空かぁ…」




ルフィも流石に眠っている真夜中、私はルーティンのように甲板に出て空を眺めていた

まぁ、空は結局星も月も見えないくらい雲に覆われてるだけなんだけど


「……マタヤッテンノカ」

「ハクバか。今日もあの子の代わりに何かしてきたの?」

「マタ鏡ヲ割ッテタ、ダカラ、コレ」


そう言って彼__ハクバは布で包んだ中にある鏡の破片を見せてきた。私は顔を覗き込むけど、そこに映るのは彼の顔だけだった

彼は普段はキャベンなんたらとかいう子の後ろで私みたいにふよふよしてるけど、こうやってこの子に乗り移っていたりもする。ムユービョー?ニジュージンカク?ってやつらしいど、私にはイマイチピンと来ない


昔はとっても悪い海賊だったらしいけど、幽霊になった私に気づいて話しかけてくれたのは、今のところ彼だけだった



「やっぱりさ……体って大事だね」

「…急ニ何ダ」

「心があっても、それを伝える人がいなかったら意味無いんだね。…こんなんじゃ、誰も幸せになんて出来ないや」

「……………」



ヒュルルと旋風が鳴き出した頃、彼は寒そうに少しだけ身震いすると、上着のボタンを更にもう1つ閉めた

そういえば、私が夜風が冷たいことも、人の手が暖かいことも知れなくなってから何年経ったのだろう

もう"体"のしがらみは無いのに、眠気なんて無いのに、今の私は前よりもずっと不自由だ

そんなことを考えていると、目の前の彼が少しだけ、ほんの少しだけ恨めしく見えてしまった


「きみはいいなぁ。体があってさ」

「何モ…良イ事ハ無イ」

「そう?私なんかよりはずっと良いと思うけどなぁ〜…」

「アイツの厄介事ヲ少シバカリ拾ッテ背負ウダケダ。モウ、何ヲ斬ッテモ何ヲ食ッテモ楽シク無イ。全部、全部タダノ"作業"ダ」

「いいじゃん、それで十分じゃん」


気づけば私は彼に掴みかかろうとするも、その手は彼の体をすり抜けるしかなくて、

あたしはそのまま怒りとやるせなさを怒鳴り声に変えて彼にぶつけた



「アンタはまだいいじゃん!そうやってあの子のことを"守れる"じゃん!」


「あの子の代わりに戦えるしご飯も食べれるし励ませれるくせに!私はルフィに何も出来ないって言うのに!」


「私は何もしてやれないのに!ルフィも、他の子達も、見てるだけで誰一人救えないのに!アンタはあの子の救世主になれるくせに!そんな事二度と言わないで!」



……………私、何やってんだろう

彼は唯一私と話せるのに、もし彼までいなくなったら…私は完全に一人ぼっちじゃない

ひとりぼっちは嫌。誰でもいいから、私と繋がって。お願い


「…………」

「…ナラ、言ワン」

「……あっそう…」


カツン、カツンと地を歩く、背を向けた彼の足音すらも私には羨ましくって、それが辛くて堪らなかった

私は涙を堪え、彼がいなくなった後に1人歌を口ずさむ




誰にも届かない歌なんて意味は無いのに、それでも私は歌っている

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