破られた秘匿
まるで、悪い夢だ。
電伝虫での連絡から数時間。
普通の航海じゃ到底ありえない早さで現れたドフラミンゴに連れられて見たものは、地獄のような光景だった。
死体なら、数えきれないほど目にしてきた。
世界政府に滅ぼされたフレバンスでも、社会見学なんて茶化されて連れられた、ファミリーが潰し回った海賊船でも。
だけど、これは違う。
わざわざ臓腑を引きずり出され、執拗に失血を狙った切り傷を負わされて事切れた住民。
梯子から撃ち落され、巻き添えになった仲間と共に焼かれた黒焦げの遺体。
腹部が切り裂かれ、その中身をぶちまけて転がる女の人たち。
噎せ返るような血と炎の匂いの中、人が思いつく限りのおぞましい所業を詰め込んだような、悪夢のような街だった。
一体「何」がこんなことを―
そこまで考えて、胃の腑に氷を押し込まれたような心地がした。
ドフラミンゴを追いかける足が止まる。
コラさんが話してくれた冒険譚の舞台は、はたしてどこだったのだろう。
「よく見ておけ。これが、おれたちだ」
場違いなほど美しい大聖堂の、血肉に塗れた階段の上で立ち止まったドフラミンゴが、眠るコラさんを腕に抱えたまま振り返った。
「オペオペは昨夜バレルズから奪取した。望むならお前に食わせてやる」
コラさんを助けたかった。
あの人は、きっと自分の意思であの夢に残っている。
そしてそれは、コラさんがドフラミンゴと同じ病に侵されているからなのだとおれは考えていた。
だから、コラさんがおれを治してくれたのと同じように、オペオペの実の力で"奇跡の"医者になって、今度はおれがコラさんを救いたかった。
ただ、それだけだったのに。
「おれの愛する弟のために、お前は何を差し出せる?」
凪いだ声が、まるで天の使いのように聖堂に響く。
おれがコラさんのために、差し出せるもの。
「全てを」
おれはこの日、悪魔になった。