砂漠の支配者と砂糖の楽園

砂漠の支配者と砂糖の楽園


 この学園は、かつてオアシスの恵みを受けて栄えていたらしい。緑豊かな木々と清らかな水が町の中心にあり、交易地として商人たちが行き交い、賑やかな市場が広がっていた。それこそ三大校なんか目じゃない程に。それが、原因不明の砂漠化進行によって、町は急速に衰退していった。建物は廃墟と化し、人々は町を離れ、私が入ったころには疾うにかつての賑わいは見る影もなくなっていた。

【砂漠の砂糖(サンド・シュガー)】

 それは、砂糖の様に甘く芳醇で、口にした者に空を舞うような多幸感を与える甘味料でありながら。服用を続けるとやがて幻覚や幻聴等があらわれ、一定時間服用しなければとたんに怒りっぽくなり攻撃的な性格になってしまう、高い依存性を誇る麻薬であった。

 私は諦め切れなかった。こんなものに頼らなきゃ先輩から託された、後輩たちに受け継がせるアビドスを守れないと思ってしまった。

私は諦めてしまった。理解されることを。だから誰にも話さず独りでこんなことを始めてしまった。

そして成功してしまった。

 導入された新たな産業はあっという間に、人を金を熱気を活気を未来を。アビドスに再び取り戻した。かつてあった問題はすべて消え去った。借金どころかカイザーは支配下に入った。砂漠化対策は必要どころか、砂漠すべてが私の支配下にある。広げるのも狭めるのも自由自在だ。

今では、アビドスは美しい観光地として知られている。かつてのオアシスは再び水を満たし、周囲には緑豊かな公園が広がっている。観光客は、歴史的な建造物や新しく整備された博物館を訪れ、町の歴史と復興の物語に触れる。何よりも人気なのは、カフェやレストランが立ち並び、地元の特産品を楽しむことができることだ。

夜になると、町はライトアップされ、幻想的な雰囲気に包まれる。砂漠の夜空に輝く星々と、町の灯りが織りなす光景は、訪れる人々の心を癒してくれる。

このように、かつての栄光を取り戻し、さらに発展を遂げたこの学園は、今や多くの生徒に愛される場所となっている。


そんなふうに物思いにふけると不意にが聞こえる。

「やっほー、ホシノちゃん」

愛しの先輩の姿を纏って、私の共犯者は語りかけてくる。

「どうしたんですか」

分かり切った問いを投げかける。

「計画がまとまったんだよ。セイアちゃんのおかげだね。使いやすい直感と、復元した未来視。将棋で言う詰みの盤面だよ。あとは詰めるだけ。そろそろ、勝ちに行こうと思うんだよね。協力してちょうだい。」

感傷は十分浸った。これからは完勝する時間だ。


共有された計画は単純だ。事前に障害になりうる人物を排除して、予防薬と偽ったこれを未接種者に投与し、気づかれないうちに勝負を決める。私たちには簡単なことだ。

とりあえず、スズミちゃんはミヤコちゃんに保護してもらった。依存命令は取り消して、あれを摂らないようにミヤコちゃんに世話させてる。ついでに、ミヤコちゃんには治療薬は使わないように命令しておいた。

コールサイン01ちゃんは数日張り込んでから夜襲した。そのままの勢いでセミナーの会長ちゃんを襲撃しておいた。これで気づきうる人は全員消した。あとは待つだけだ。


計画は完了した。盤面は覆らない。

「さて、それじゃまだ足掻いてる敗者にとどめを刺そうか。」

目標は正義実現委員長とコールサイン00。残るとしたらこの二人だろう。00ちゃんはヒナちゃんに任せて私は委員長ちゃんを相手しようかな。今のうちにあれを試しちゃおう。


「やあ、委員長ちゃん。私は小鳥遊ホシノ。アビドスの生徒会長で今回の事件の黒幕だよ。他の人じゃ荷が重いし、君はおじさん直々に倒させてもらうよ。」

ツルギはホシノの言葉に反応し、最後の力を振り絞って反撃を試みる。

しかし、砂糖に侵された体は万全とは程遠く。ツルギの動きは簡単に読まれてしまう。ホシノはツルギの攻撃を軽々と躱し、ホシノの攻撃は次々とツルギに当たった。

この程度の傷じゃ問題なく回復されるだろう。事実、いつも見る間もなく回復する体の傷は瞬時に消えていた。しかし、砂糖の結晶に置き換わって。

「驚いた?スズミちゃんを治す研究を進めたらこんな風に砂糖を使えるようになったんだ。これでそっちの強みが一つ消えたでしょ。今なら降参してもいいよ~。」

「舐めるなァ!この、程度」

ツルギは自らにできた脆い結晶を砕き、気合で正常な体に回復させた。

「すごいね。委員長ちゃん。こっちが驚かされちゃったよ。だから、こっちも本気で相手するね。」

ホシノの神秘の解放に合わせて、周りに砂嵐が発生する。地形は砂漠に侵され、フィールドはホシノの有利なものに変化する。

ホシノの攻撃はどんどん苛烈になり、ツルギにできる結晶はより硬く、より砕けにくく、より頑丈になる。

ツルギも負けず結晶を盾代わりにして、攻撃を塞ぎ、結晶を崩し再生する。

それでも、ツルギの体は止まることなく徐々に結晶化し、動きが完全に封じられていく。ホシノは満足げにその様子を見つめながら、勝利を確信する。

「楽しかったけど。これで終わりだ、委員長ちゃん。君の抵抗もここまでだ。」

ホシノの冷酷な計画は成功し、ツルギは完全に捕らえた。ホシノはその場を後にし、次なる計画に思いを馳せる。


「やっほー、ホシノちゃん」

朗らかな声、人の心なんてない怪物だとわかっていても、私の心を落ち着かせる。

「どうかしましたか?」

やらなきゃいけないことは済ませたし、用事なんてあるとは思えないけど。

「ホシノちゃんのペットの兎ちゃんが粗相したから知らせないとって思って。」

「ミヤコちゃんが何かやったの?」

「彼女、ホシノちゃんの言いつけを破ってお薬盛っちゃったみたい。」

その言葉で瞬時に怒りが燃える。反面、心は冷える。

「はぁ?どこまで?」

反逆された?しつけが足りなかったのか?

コイツがいうからには事実だろう。盛ったってことはミヤコちゃん以外の誰かが使われたってことか。

「落ち着いてホシノちゃん。わざわざ吸収されないようにしたんだから。」

怒りが少し冷める。私の心を落ち着かせる。そもそも手遅れならコイツがいうわけないか。

「ミヤコちゃんは予防薬を自身とホシノちゃんの後輩たちに、治療薬をミユちゃんに使ってたんだー。初めにミユちゃんで試してばれないようにしてたんだから小賢しいよね。ホシノちゃんの後輩たちには予防薬が吸収されないように条件付けしたんだよ。ふふん、感謝してね。」

コイツが味方でよかった。心底そう思った。コイツは人の心は分からなくても私の心はわかってくれる。それはつまり、きっと私は心まで化け物になったのだろう。

とりあえずミヤコちゃんを召喚して事実を確かめよう。

来い

中毒者のミヤコがやってきた。これじゃだめだ。正気に戻ってもらう。

目覚めろ

ミヤコは正気に戻った。混乱してるようだが問題ないだろう。事実確認をする

「あの薬を使ったな。誰に使った。答えろ

ミヤコの意思に反してミヤコの口は言い淀むこともなく答える。

「はじめはミユに使いました。あの薬は本当に効果があるかどうか確かめる意味合いと、もし本当に効果があるなら再度墜とされないように、ばれにくいミユに使いました。治療効果があることを確認できましたが、予防効果の確認のため外にいた未接種者で試しました。中毒する様子はなく、問題なさそうだったので私も使用しました。アビドスの皆さんにはもしも砂糖を摂ったとしても問題が起きてほしくないので使いました。完全に裏目に出たようですが。」

「最後に一つ。私は怒っている。何かいうことあるよね?」

「知り合いを中毒にされたことに怒っているなら!最初からこんなこと始めなけりゃよかったじゃないですか!あなたの感じている怒りはあなたたち以外の皆が抱いているものですよ!初めにあなたと会ったときの私のように!」

何も言い返せなかった。私には彼女と言葉を交わす資格はなかったのだろう。

「もういい。堕ちろ

これも私の罪だ。私の怒りは見当違いで、きっと彼女のほうが正しい。

どうすればよかっただろうか?

「FOX小隊をミヤコちゃんの手で墜とせば言うこと聞いてくれたと思うよ~。

それに、ミヤコちゃん程度ならいくらでも変わりがいるでしょ?別に気にすることなんてないでしょ?所詮は負け兎の鳴き声だよ。」

「なんですか。あれは負け犬の遠吠えっていうのでは?」

「ミヤコちゃんはウサギだし~、ウサギは吠えないからね。鳴き声で十分でしょ。」彼女は笑ってそう言った。心は軽くなった気がした。案外、コイツには愛嬌がある。


二人の会話は続く。アポピスはホシノの言葉に話しかけながら、次の一手を考える。

「それよりさー、聞いてよホシノちゃん。王女様が全然、支配に移らないんだよね。」

「ああ、アリスちゃんね。アポピスはなんでだと思う?」

「忘れられた神々と一緒で、生徒でいることに何かしら意味を見出しているのかもね。それなら卒業する3年後くらいに始めるだろうからその時のために準備しなきゃな―。あるいはkeyの復活を待っているかも。彼女は自己修復してるから私がやることないんだよね。」

アポピスは退屈そうにため息をつく。

「うー、ホシノちゃん。暇だよー。構って~。」

ホシノは微笑みながら答える。

「はいはい、いいですよ。」


きっとアポピスに人の心がわからない。ゆえに、アリスに人の心があればアポピスの思い通りにはいかないのだろう。その時はこのままの日常が続くか、あるいは勇者によってすべてが解決してしまうのだろう。逆にコイツの予想が正しく、キヴォトスは名も無き神々の聖域になるかもしれない。

「どちらにせよ、君とは長い付き合いになるだろうね。私にできることはせいぜい、その長い時間ができる限り幸福な時間が続くように祈るくらいだ。」

ホシノとアポピスは、これからの未来に思いを馳せながら、共に歩んでいくことを決意する。彼女らの絆はさらに深まり、どんな困難も乗り越えていくだろう。


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